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「現場の味方」でいたら、人事は壊れる──
3人のプロが明かす、生き残るための覚悟
人事は現場の味方か、経営の味方か。この永遠の問いに、あなたは迷っていませんか? 経営からは「もっと厳しく」、現場からは「もっと寄り添って」と求められる板挟みの日々。
──この記事では、修羅場をくぐり抜けてきた3名の人事責任者が、本音のポジショニング論を語ります。
人事の「板挟み」を乗り越えるポジショニング論
カオナビ人事用語集では、人事の「ポジショニング」という本質的な課題を探るため、異なるバックグラウンドを持つ3名の人事プロフェッショナルに対談形式でインタビューを実施しました。
対談者プロフィール
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高橋さん
大手IT企業で長年人事を担当。現在は独立コンサルタントとして中小企業を支援
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木元さん
HRBPとしてデータドリブンな人事施策を推進。理論と実践の両面に精通
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藤井さん
外資系企業でリモート環境での人事制度設計を経験。現在は組織開発に特化
結論:「51対49で経営寄り」が生き残る唯一の道
──人事は現場と経営、どちらの味方でいるべきだと思いますか?
木元さん
私は51対49で経営寄りだと考えています。元GEの方から聞いた話ですが、経営が51、現場が49。この絶妙なバランスが理想だと。経営に寄りすぎると現場がしらけるし、現場に寄りすぎると経営の意図を実現できない。経営の方を向きつつ、現場に寄り添っている「風」を装う。これが人事の生存戦略です。
高橋さん
私はどちらでもなく、経営そのものだと思っています。人事は経営機能の一つ。ゴールを達成するために人をどう配置し、育成し、時には撤退させるか。現場が戦えるように環境を整えるのが仕事であって、現場を擁護するのとは違います。戦えないなら配置転換もする、それが経営の判断です。
藤井さん
リモート環境では特にそうですが、仕組みで機能させることが重要です。善意に頼っていたら回りません。私がいた外資系企業では、毎週30分の1on1を仕組みとして組み込み、エンゲージメントスコアを毎日測定していました。人事の役割は、経営の方針を現場で実行できる環境を作ること。そのためには経営視点が不可欠です。
──3名とも、程度の差はあれ「経営寄り」という点で一致していますね。
キーワード解説
経営機能:企業経営において、目標達成のために不可欠な要素や活動(例:財務、マーケティング、生産、そして人事)。人事は組織の構成・運営を担う戦略的な機能である。
1on1(ワンオンワン):上司と部下が定期的に行う一対一の面談。ここでは、リモート環境でのエンゲージメント維持のための仕組みとして言及されている。
リストラの現場で感じた「経営者にならざるを得ない」瞬間
──実際に板挟みになった経験を教えてください。
高橋さん
リストラと労働組合対応のときが一番きつかったですね。田舎の工場だと、ガソリンスタンドのおばちゃんが従業員のお母さんだったり、幼稚園でリストラした人と顔を合わせたりする。人事として考えたら自分の責任を取らされているように感じるけど、経営者のつもりで考えないとやってられなかった。
木元さん
板挟みは避けられないんですが、重要なのは一人で抱え込まないことです。必ずカウンターパートナーを巻き込む。事業部長やマネージャーと一緒に考え、労働組合とも対話する。人事一人で矢面に立つのではなく、経営の代理人として、きちんと権限を持って交渉することが大切です。
藤井さん
私の経験で言うと、現場のマネージャーが部下を見られていないケースでの介入が多かったです。エンゲージメントスコアが下がっている人を検知して、人事が直接面談する。そこで「上司がフォローしてくれない」という声を聞いたら、マネージャーに「この人、ほったらかしにしてませんか?」とフィードバックする。これも経営視点がないとできない介入です。
──現場に寄り添いつつも、経営判断として動く。この二重性が人事の宿命なんですね。
キーワード解説
カウンターパートナー:対等な立場で協働・対話する相手。人事においては、事業部長やマネージャー、労働組合などが該当し、人事施策の実行を共にするパートナーを指す。
「現場の味方」を標榜する人事への警鐘
──もし「自分は現場の味方だ」という人事がいたら、どう思いますか?
木元さん
個人プレーヤーとしてならアリだと思います。例えばオンボーディング担当の方が、新入社員に超寄り添って、パソコンの設定から何から全部サポートする。それは素晴らしい。でも、経営に近いポジションでそれをやると、組織が壊れます。
高橋さん
現場の味方でいたいという気持ちは分かります。でも、人事制度は平等ではなく、差をつけるためにあるんです。ビジョンを達成するために評価があり、報酬がある。人ベースで「この人だから」と判断を変えたら、フェアネスが崩れる。だから私は一対一で飲みに行くことは絶対にしませんでした。
藤井さん
現場の声を拾うのは重要ですが、それをそのまま経営に上げるだけでは翻訳者失格です。現場の不満の背景にある本質的な課題を見極めて、経営が判断できる形に整理する。これができないと、ただのメッセンジャーになってしまいます。
──「寄り添う」と「擁護する」は違う、ということですね。
キーワード解説
フェアネス(公平性):人事評価や報酬、配置などの制度運用において、個人的な感情や関係性に左右されず、統一されたルールや基準に基づき判断が行われること。人事制度の信頼性において極めて重要。
役職によって変わるポジショニング──でも本質は同じ
──人事の中でも、役職やポジションによってスタンスは変わりますか?
木元さん
基本は変わりません。タイトルの違いは、判断できる規模や権限の大きさが違うだけ。ただ、担当領域によって寄り添い方は変わります。例えば給与計算担当なら現場に超寄り添いでOK。でも、戦略人事レベルで現場寄りすぎると、変革を主導できません。
高橋さん
チェンジエージェント(変革推進者)が人事の最高位だとすると、そのポジションに立つには、事業責任者からも従業員からも信頼される必要があります。両方に入れて初めて「こっちに行くぞ」と言ったときに、しらけや反発が起きない。これは役職というより、影響力の問題ですね。
藤井さん
組織の成熟度によっても変わります。スタートアップなら現場と経営の距離が近いので、人事も柔軟に動ける。でも、大企業では縦のラインをうまく使わないと機能しない。本部長会議で決めて、各部門長から降ろす──この構造を理解していないと、板挟みで潰れます。
──どのポジションでも「経営視点」は必須、ということですね。
キーワード解説
戦略人事:経営戦略の達成を最重要課題とし、人材の採用、配置、育成などを戦略的に行う人事。HRBPはこの戦略人事の一形態といえる。
チェンジエージェント(変革推進者):組織に変革を起こし、推進していく役割。人事においては、組織文化や制度の変革を主導するトップレベルのポジションを指す。
まとめ
この座談会で明らかになったのは、人事が生き残るには「経営者のつもり」で考えるしかないという厳しい現実でした。
高橋さんのリストラ経験、木元さんの51対49理論、藤井さんの仕組み化の実践──いずれも現場に寄り添いながらも、最終的には経営判断を下す覚悟が貫かれています。
板挟み人事が持つべき3つの覚悟
「現場の味方」を標榜することは、一見優しく見えて、実は無責任かもしれません。本当に現場のためになるのは、経営視点で環境を整え、成果を出せる組織を作ることだからです。
- 経営者視点:「人事」ではなく「経営機能の一部」として判断しているか?(リストラも配置転換も、ビジョン達成のための手段と割り切れるか)
- 一人で抱え込まない:カウンターパートナーや縦のラインを活用できているか?(事業部長、マネージャー、本部長会議などを巻き込んでいるか)
- フェアネス優先:個人的な感情や関係性で判断を変えていないか?(一対一の飲み会を避け、制度とビジョンに基づいて動けているか)
まずは自分のポジショニングを明確にしましょう。「51対49」という絶妙なバランスを意識するだけで、板挟みのストレスは大きく変わります。