ジェンダーハラスメントとは?【男のくせに・女だから】

ジェンダーハラスメントとは、性別に関する嫌がらせのことです。ここではその具体例やもたらされる悪影響、解消する方法、これからの課題について解説します。

1.ジェンダーハラスメントとは?

ジェンダーハラスメントとは、性別により社会的な役割が異なるという固定概念にもとづく嫌がらせのこと。「女のくせに」「男のくせに」「女性なら~すべき」「~なのが男性だ」などがジェンダーハラスメントに該当します。

女性従業員にだけお茶くみをさせるのもその一例でしょう。ジェンダーハラスメントをすべきでない理由は、一人の人間を「女」「男」として見るのではなく、「人」として見るべきだからです。

ジェンダーハラスメントはアイデンティティにかかわる嫌がらせといえるでしょう。

ジェンダーハラスメントの具体例

ジェンダーハラスメントは、日常生活のあらゆるシーンで見られるのです。たとえば下記のような発言はジェンダーハラスメントに該当します。

  • 女性なら仕事より家事や子育てを優先するべき
  • 男性なのに頼りがいがない
  • 女性だから力仕事はできない
  • 男性だから家事ができない
  • 女性なのに管理職だなんて
  • 男性なら一家の大黒柱であるべき

そもそもハラスメントとは何か

ハラスメントとは、自分より弱い立場の人に嫌がらせやいじめをすること。ハラスメントの定義は、加害者が故意かどうかに関係なく、被害者が不利益を被り、傷つけられるすべての言動とされています。

自分はハラスメントだと思っていなくても、相手がハラスメントと感じたらそれはハラスメントと判断されるのです。

主なハラスメント

ハラスメントには、さまざまな種類があります。たとえば職場で上司が部下に行うパワーハラスメントや、言葉や態度で相手の心を傷つけるモラルハラスメントなど。

またIT機器の取り扱いが苦手な人に対するテクノロジーハラスメントという、ITが普及したこの時代ならではのハラスメントもあります。ここからは、主なハラスメントを紹介しましょう。

  1. パワーハラスメント
  2. モラルハラスメント
  3. アルコールハラスメント
  4. アカデミックハラスメント
  5. テクノロジーハラスメント
  6. そのほかのハラスメント

①パワーハラスメント

パワーハラスメントとは、職場内で上司と部下などの立場の優位性を利用して、業務の範囲を超えた嫌がらせや叱責などを行うこと。パワーハラスメントにより、うつ病などにかかる社員も少なくありません。

そのため防止策として「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が2019年6月に成立し、2020年6月に施行されています。

②モラルハラスメント

モラルハラスメントとは、言葉や態度、精神的な暴力によって相手を傷つける嫌がらせのこと。モラルは、道徳を意味します。職場でのモラルハラスメントは、上司と部下の間、同僚の間で起こる場合が多いです。

一見パワーハラスメントと似ているものの、モラルハラスメントは職場内だけでなく、家庭内や恋人関係でも見られます。

③アルコールハラスメント

アルコールハラスメントとは、飲み会などお酒が出る場で、飲酒を強要したり、迷惑行為をしたりすること。人権侵害につながるのはもちろん、飲酒を強要するため命の危険につながる恐れもあります。

アルコールハラスメントの被害を防ぐには、社内教育を徹底してルールをつくるといった対策が必要でしょう。

④アカデミックハラスメント

アカデミックハラスメントとは、大学などの教育機関で教職員や学生における地位などの優位性を利用して行われる理不尽な行為のこと。つまり会社内で行われるパワーハラスメントが大学内でのアカデミックハラスメントに該当します。

たとえば文献を使わせなかったり、論文の共著者になると強要したりするなどです。

⑤テクノロジーハラスメント

テクノロジーハラスメントとは、IT機器の操作が苦手な人に対する嫌がらせのこと。IT時代特有のハラスメントといえるでしょう。

テクノロジーハラスメントは、上司から部下、先輩から後輩だけでなく、部下から上司にも行われる場合があります。上司よりも部下がITに強い状況も多々。たとえば高いPCスキルが求められる仕事を苦手な人に押しつけるといったことです。

⑥そのほかのハラスメント

そのほかのハラスメントとしては、下記のようなものがあります。

  • テクスチュアルハラスメント:文章上の性的嫌がらせ
  • ドクターハラスメント:医師から患者に対して行われる嫌がらせ
  • カラオケハラスメント:優位な立場を利用して、歌いたくない人にカラオケを強要すること
  • ブラッドタイプハラスメント:血液型の印象で、相手の人柄や性格を決めつける行動

ジェンダーハラスメントとセクシャルハラスメント

ジェンダーハラスメントに類似するハラスメントにセクシャルハラスメントがあります。どちらも主に男女間で起こるものです。

セクシャルハラスメントは「性的いじめ」や「性的嫌がらせ」を指します。対して、ジェンダーハラスメントは「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」などの固定概念にもとづいて行われる嫌がらせやいじめを指すのです。

何故ハラスメントは発生するのか

まずは個人が持つ意識の差でしょう。上司と部下という関係であれ、職業人として対等な立場だと理解していない人もいます。

また雇用管理上の問題もあるでしょう。男性の多い職場では女性が補助的な仕事をするといった職場風土の問題もあるのです。さらには他者に対する思いやりの欠如といった、倫理的な問題もあるでしょう。

ジェンダーハラスメントは社会的に根強く存在しており、一筋縄では解決しません。まずは一人ひとりの意識変革が必要でしょう

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2.ジェンダーハラスメントがもたらす悪影響

ジェンダーハラスメントは企業と個人に悪影響をもたらします。具体的には下記のようなものです。それぞれについて見ていきましょう。

  1. 【企業と個人への悪影響】生産性が低下する
  2.  【企業への悪影響】企業イメージが低下する
  3. 【企業への悪影響】さまざまな法的リスクを負う
  4. 【個人への悪影響】ストレスによるメンタルの悪化
  5. 女性社員への悪影響

①【企業と個人への悪影響】生産性が低下する

ジェンダーハラスメントの問題は、従業員のモチベーションやエンゲージメントに直結し、ひいては会社の生産性の低下につながります。

またハラスメント問題の当事者である被害者は、問題の対応に追われるため、仕事の生産性が低くなります。ハラスメント問題に直面した人事担当者も、ヒアリングや対策を行う必要があるため、仕事が非生産的となるでしょう。

②【企業への悪影響】企業イメージが低下する

ジェンダーハラスメントの問題がメディアで取り上げられると、企業イメージが低下します。またSNSなどが普及している現在、従業員の書き込みによって、すぐに悪評が立つでしょう。

Z世代の若者たちは就職活動の際、インターネット上の書き込みを参考にするため、一度悪評が立つと採用も困難となります。

③【企業への悪影響】さまざまな法的リスクを負う

被害者がハラスメントを受けた際、加害者に慰謝料といった損害賠償を請求する場合があります。また被害者は加害者を使用する責任(使用者責任)や、安全配慮義務違反などによる債務不履行責任として、企業に損害賠償を請求する可能性もあるのです。

被害者が誰に対して損害賠償を請求するかは、被害者の意思に委ねられています。必ずしも訴訟に発展するわけではないものの、リスクはあるのです。

④【個人への悪影響】ストレスによるメンタルの悪化

ジェンダーハラスメントが被害者にもたらす影響として、日々のストレスや自信喪失などがあります。これらによりうつ病や対人関係恐怖症などを発症してしまう例も少なくありません。

最悪の場合、自殺に追い込まれてしまいます。またハラスメントにより、萎縮して意見が言えなかったり、モチベーションが低下してしまったりした結果、欠勤や退職してしまう社員も出てくるでしょう。

⑤女性社員への悪影響

ジェンダーハラスメントは、女性が被害に遭いやすいです。結婚や容姿、服装などに関する男性の発言が、女性のストレスを高めます。そのような発言は、就業意欲の低下につながり、さらには心身の健康に影響をおよぼすのです。

企業や自治体で働く女性の多くがジェンダーハラスメントを受けた経験があると回答しています。

個人の問題だけでなく、企業にとっても大きな問題となるジェンダーハラスメント。人事担当者を中心に予防策や対処法を検討する必要があるでしょう

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3.ジェンダーハラスメントを解消する方法

生産性の低下や企業イメージの低下につながるジェンダーハラスメント。企業はジェンダーハラスメントを解消するために対策を練る必要があります。ハラスメントに対する方針を明確化させて周知し、研修を行うとよいでしょう。

ここからは、企業内のジェンダーハラスメント解消方法について解説します。

【企業】方針の明確化と周知

まずジェンダーハラスメントに対する企業の方針を定めます。そして社内報やパンフレット、社内ホームページに掲載して、社員に周知・啓発します。

たとえばソニー銀行では、企業理念にある「フェアである」をベースとし、予防的な観点からさまざまなハラスメント対策の取り組みを行っているのです。

【企業】研修を行う

次に研修を実施して、ジェンダーハラスメントを防止するための知識を持ってもらい、意識の変革を図るのです。

研修を実施するに当たって、人事担当者はハラスメントに対する深い理解を持ち、より実務的な対応を学ぶ必要があります。それにより社員への研修も充実するでしょう。手段のひとつとして、eラーニングもあります。

【個人】無意識の偏見を自覚する

ジェンダーハラスメントに対して個人ができる対策として挙げられるのが、無意識の偏見に対する自覚です。人は誰しも偏見を持っています。育った境遇や経験が大きく影響するため、それを非難する必要はありません。

大切なことは、その偏見を自覚し、相手のことを考え、たとえ思ったとしても口に出さないこと。まずは自分の考えが本当に常識的であるのかを考え、一呼吸置きましょう。

【個人】被害者はしかるべき機関に相談する

ジェンダーハラスメントに対して、一人で悩みを抱える必要はありません。会社の相談窓口や都道府県労働局雇用均等室などの相談窓口、労働基準監督署・都道府県労働局総合相談コーナー、ハラスメント問題に詳しい弁護士などに相談するのです。

会社の相談窓口に行った結果、噂になるといったセカンドハラスメントが心配な場合、社外の相談窓口を利用しましょう。

ジェンダーハラスメントを解消するためには、企業としての努力が必要です。また個々人の意識の変革も大切でしょう

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4.ジェンダーハラスメントのこれからの課題

ジェンダーハラスメントをなくすための課題にはどのようなものがあるのでしょう。セクシャルハラスメントと異なり、ジェンダーハラスメントは明確な法規制がまだなされていません。またLGBTへのハラスメント対策も必要です。

最後にこれからの課題について、紹介します。

法律によって明確に規制されていない

男女雇用機会均等法では、第11条にて「職場における性的な言動」について事業主の措置義務を定めているものの、これはセクシャルハラスメントに対するものです。

ジェンダーハラスメントに該当する性別に関係する不快な言動について、この法律では明確に定められていません。

国家公務員は人事院規制によって「女のくせに」といった発言は禁止されているものの、民間企業でジェンダーハラスメントを規制する法律は現在、日本にないのです。

ジェンダーギャップ指数の向上

ダボス会議が主催する「世界経済フォーラム」によって、毎年発表されている「ジェンダーギャップ指数は、男女格差の度合いを表すものです。2021年3月に発表された2021年のジェンダーギャップ指数では、日本は156か国中120位でした。

日本にて男女間の賃金格差は大きく、家事や育児などは女性が担うべきという意識も社会的に根強いのです。

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LGBTへのハラスメント対策も必要

LGBTとは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取った言葉で、性的マイノリティの総称です。LGBTは社会的に弱者となりやすく、周りからの非難を恐れ、カミングアウトできずにいる人も多いとされています。

企業としてLGBTへの理解を深めるための研修を実施するといったように、LGBTにも配慮したハラスメント対策が必要でしょう。

日本では現状、ジェンダーハラスメントといったさまざまな問題が存在します。しかしまずは個人や企業単位での取り組みが大切でしょう