ダブルループ学習とは?【シングルループとの違い】具体例

ダブルループ学習とは、過去の前提や常識を見直して新しい行動様式を生み出し、成果につなげる手法のこと。具体例やシングルループ学習との違い、企業での取り入れ方などについて解説します。

1.ダブルループ学習とは?

ダブルループ学習とは、ある問題の前提条件そのものを疑い、つねに起動修正しながら学習成果を高めていく手法のこと。ハーバードビジネススクールのクリス・アージリス名誉教授が提唱した学習法で、英語では「Double Loop Learning」と表します。

ダブルループ学習では、すでにある目的や想定まで含めて再検討します。それにより継続的な価値観の刷新につながり、組織の抜本的変革や進化を促されるのです。

現代のビジネス環境は、いつ急激かつ予測不能な変化が起こるかわかりません。過去の成功体験や慣例に固執しすぎて変化を拒む企業は、生き残り戦略において大きなリスクを負うでしょう。

新しい行動や考え方の選択肢を幅広く常備するために有効な手法として、多くの企業がダブルループ学習に注目しています。

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2.ダブルループ学習の具体例

ダブルループ学習の目的は、新しい考え方を取り入れて問題を解決に導くこと。実践した企業の事例では、「従業員エンゲージメント」「事業転換」などを実現しています。

従業員エンゲージメント向上

従業員エンゲージメントをサーベイで計測している企業が、効果を高めるために社内イベントを実施した事例です。

この企業では、計測結果をダブルループ学習で分析するチームと、過去の学習や成功体験をベースに考えるシングルループ学習で分析するチームにわけました。

シングルループ学習のチームはイベントの内容や頻度を見直して、イベントの質を高める方法を提案。

一方ダブルループ学習のチームは、「現在のエンゲージメントの測定方法は適切か」「本質的な改善策としてイベント実施は妥当か」など、目的達成に必要な条件を随時修正しながら、より抜本的な施策に近づけていきました。

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事業転換

富士フイルムは、ダブルループ学習を導入し、事業転換で成功を収めました。それまで主力商品だった写真フィルムの需要が大幅減少した際、過去の成功体験を捨て、写真フィルムメーカーとしての自己認識を根本から見直したのです。

写真フィルム事業で培った「酸化防止剤に関する豊富な知見」「原材料をナノレベルに細かくして活用する」など、自社ならではの知識や技術を展開して、化粧品や医薬品といった新規事業を生み出しました。

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3.ダブルループ学習の導入目的

ダブルループ学習の導入目的は、以下のふたつです。

  1. 従業員の成長促進、組織力の強化
  2. 企業のレジリエンス(順応力や適応力)の向上

環境変化や予期せぬ事態が起こりえる現代、困難やストレスを受け入れ、柔軟に適応していく力が個人と組織双方に求められます。

ダブルループ学習をとおして、幅広い選択肢や可能性を持って行動を起こせる人を増やすと、変化に強い組織へ成長していけるのです。市場の急激な変化に迅速かつ柔軟に対応する組織は、市場における競争力も高まるでしょう。

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4.ダブルループ学習とシングルループ学習の違い

ダブルループ学習は前提条件を疑い軌道修正を図る手法。目標を達成するための手順や過程を見直し、効率性や生産性を高める際に適しています。

一方シングルループ学習は、過去の成功体験を踏襲し、既存のプロセスを繰り返して効率化や改善を目指す手法です。よって土台となる価値観や行動基準を振り返るステップがありません。

目標や目的の設定が不適切な場合に成果が出しづらく、その誤りにも気づきにくいという弱点もあります。シングルループ学習とダブルループ学習をうまく組み合わせて活用するとよいでしょう。

シングルループ学習の具体例

シングルループ学習は現在のやり方を反復、強化する手法です。テーマを挙げてシングルループ学習とダブルループ学習との違いを紹介します。

商品の売上低迷

  • シングルループ:現行製品の品質を向上させる、新商品を開発する
  • ダブルループ:コア技術をほか分野に転用してまったく新しい事業に結びつける

広告効果の低下

  • シングルループ:パンフレットをデザインし直して増刷する、設置場所を増やす
  • ダブルループ:ターゲットやトレンドに合った広告媒体を再検討、運用する

営業目標の未達成

  • シングルループ:架電の回数を増やし、商談件数を増やす
  • ダブルループ:セミナーやイベントを開催、無料相談から商談を取り付ける、あるいは電話の回数や商談の件数が、そもそもの目標設定としてふさわしいか見直す

シングルループ学習の弱点

現状の枠組みや価値観をもとに行動を強化するシングルループ学習は、前提条件を疑うプロセスに欠けているため、下記のような問題が起こりがちです。

  • 外部の環境変化に素早く対応できない
  • 設定目標や目的が適切でない場合、成果が出にくい
  • 成果が上がらない根本的要因に気づくまで時間がかかり、初動が遅れる
  • 既存のやり方が持つ限界以上には発展できない

ダブルループ学習は、このようなシングルループ学習の弱点を補うために生まれました。

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5.ダブルループ学習のメリット

企業がダブルループ学習を活用すると、課題解決力が高まります。従業員の成長を後押しする風土が醸造され、生産性や組織力、競争力などの強化にもつながるでしょう。

  1. 多角的な視点から課題解決が可能
  2. 従業員の成長スピードをサポート

①多角的な視点から課題解決が可能

ダブルループ学習を取り入れると近視眼的思考から脱却でき、自由な観点で幅広く選択肢を想定できます。前提を疑うことを基本スタンスとし、過去の勝ち筋に執着せず課題と向き合って、そのときどきのベストルートを見出すのを重視するからです。

ダブルループ学習では、必ずしも課題を正面突破する必要はありません。迂回はもちろん、ときには課題解決そのものの必要性まで検討される場合があります。

そのためダブルループ学習を身につけると、常識や慣習などの制限を意識的に外して課題を客観的かつ多角的に見極められるようになるので、革新的な解決方法の創出が期待できるのです。

②従業員の成長スピードをサポート

ダブルループ学習は個人の思考にも応用可能です。

各従業員がダブルループ学習を実践すれば、個人レベルで柔軟な思考力が磨かれ、変化に挑む姿勢が養われます。さらに変化に適応していく過程で精神的、技術的な成長も期待できるでしょう。

また企業を構成する従業員が成長すれば、個人の経験や学習、着想を生かし、変化に強く市場で勝ち残る組織へ変革していけます。組織の成長は市場優位性や利益の向上にもつながるもの。ダブルループ学習は従業員と組織の成長を後押しする手法といえるのです。

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6.ダブルループ学習を組織に定着させる方法

企業にダブルループ学習を根付かせるには、自由な発想が出やすくなる環境づくりや従業員教育、出てきたアイデアを吟味し実行する際の意思決定が重要です。ここでは6つの方法を紹介します。

  1. 既存の枠組みにとらわれない目標設定
  2. ブレインストーミングの実施
  3. 発言しやすい環境の構築
  4. 部下の意見を尊重
  5. 経営陣や上司による検討と実行
  6. 外部研修の実施

①既存の枠組みにとらわれない目標設定

現在の行動を強化する以外の可能性を探るため、あえて極端に高い目標を定めます。これまでのやり方を踏襲するだけでは到底クリアできない目標を設定すると、既存の枠組みを超えた方法を考えるきっかけになるからです。

大胆な目標を設定して物事をあらゆる方向から考え、前提や制約を疑う思考を定着させると、抜本的な課題解決方法の創出を促せます。

②ブレインストーミングの実施

ブレインストーミングとは、決められたテーマについて参加者が自由に意見を出し合い、新しい発想を生み出すのを目指す会議手法のこと。略してブレストとも呼ばれます。

特徴は、意見の内容は質よりも量を重視し、評価や批判はせずすべての意見を肯定的に受け入れるというシンプルなルールで進めること。

参加者同士の創発性を高めて、ひとりでは考えつかないようなアイデア、複数の意見を組み合わせた斬新なアイデアを生み出したいときに有効です。

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③発言しやすい環境の構築

本質をつくアイデアや意見が普段の業務で出てくるかどうかは、従業員の関係性、コミュニケーションの質に左右されます。

上司が部下の自由な発想を刺激し、引き出すような問いかけを心がけることが大切です。前提に疑いを向ける質問をいくつか用意するのもよいでしょう。たとえば以下のような質問が挙げられます。

  • 売上目標は妥当だったか
  • 目標に向けた取り組みは適切だったか
  • 取り組み前の自分にほかの手法をアドバイスするとしたらどんなものがあるか

上司が部下の意見を丁寧に受け止めて一緒に内容を吟味すると、自らの考えを積極的に発信できる風土が作られていくでしょう。

④部下の意見を尊重

部下に意見を出してもらって終わりにしないことが肝要です。

まずは意見を出してくれたことへ感謝し行動を褒めて、誠実にフィードバックします。フィードバックでは安易な否定や批判は避け、部下の考え方や意見を尊重しながら適切に評価を伝えましょう。

この流れを繰り返すうちに心理的安全性が育まれ、部下の創造的かつ自発的な発信につながっていきます。ダブルループ学習を支えるのは多種多様な視点。年齢や立場、経験に関係なく誰もが発言しやすい環境づくりが求められます。

⑤経営陣や上司による検討と実行

部下から吸い上げたアイデアや意見は上司が適切に評価し、取捨選択して企業改革につなげます。せっかくのアイデアが机上の空論にならないよう、上司や経営層が進んで実行に移す姿勢を示しましょう。

スケジュール・流れの検討や目標値の設定、予算確保やチーム編成などを客観的かつ現実的に検討したうえで、実現に向けたアクションの指揮をとっていきます。

アクションの実行後も前提を疑う問いを投げかけ、出てきた意見をもとに必要な軌道修正をかけながら、さらなる成果を目指すのです。このサイクルを築ければ、企業におけるダブルループ学習が定着するでしょう。

⑥外部研修の実施

企業のダブルループ学習定着には、外部研修の活用も有効です。社外の人と触れると自社独自の常識、業界特有の基準などに気づけるため、枠組みを超えるヒントとなります。たとえば以下のような方法です。

  • 外部の研修会社に社内研修を企画運営してもらう
  • 企業の垣根を超えた合同研修に従業員を派遣する

また最新動向や一般的な手法を知ると、新たな視野を開くきっかけにもなるでしょう。

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7.ダブルループ学習に役立つフレームワーク

ダブルループ学習の実践では、思考の整理と発展がカギとなります。ここではダブルループ学習に役立つフレームワークを3つ紹介しましょう。

  1. リフレーミング
  2. YWTとKPT
  3. マインドマップ

①リフレーミング

物事に対する考え方を別の観点から捉え直す手法のこと。別の視点を設けて物事への意味付けを変えて、新しい発見や発想をもたらしたいときに活用されます。具体的なやり方を、いくつか解説しましょう。

  • 言葉を言い換える:「失敗」を「チャレンジした証拠」「ノウハウが増えた」と言い換えるだけで、失敗を恐れる気持ちがやわらぐ
  • 制約を外して考える:「上司の〇〇さんならどうするか」「仮に〇〇という制限がなかったら」のように、立場や既存ルールなど、発想が行き詰まる原因を取り払う
  • 異なる時間軸から考える:「現在の状況が成長の機会だとしたら、何を学べるか」「いま気づいて行動できたことで、損失が最小限にできた」など、視点を未来に移して積極的な行動を後押ししたり、発想を広げたりする
  • 質問の方向性を変える:問題に対して「どうしよう」と対処法を探すのではなく、「どうしたいか」と自分自身への問いかけを変えたり、5W1Hに従って思考を細かく掘り下げたりする。いずれも物事の本質を見極めるために重要なアプローチ

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②YWTとKPT

振り返りと内省に使うフレームワークです。振り返るべき項目の頭文字をとって命名されており、以下のように項目が異なります。

YWT

  • Y=やったこと
  • W=わかったこと
  • T=次にやること

KPT

  • K=Keep、継続すること
  • P=Problem、課題となること
  • T=Try、今後挑戦すること

YWTは個人を起点に、KPTは業務進捗を軸にして振り返りを実施する点で異なります。しかしどちらも経験や発見を大切にしつつ、新しくとるべき行動を考えるため、ダブルループ学習に役立つのです。

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③マインドマップ

メインのキーワードから連想される言葉やイメージを書き足していく手法のこと。用紙の真ん中にメインテーマを配置し、関連する言葉や情報、発想したアイデアを放射状に描き込んでいきます。

頭の中にあることを視覚的に表現し、創造性を高められるのが特徴です。また全体像や関連項目をひと目で把握できるため、他者とのイメージ共有にも有効。そのため早期に課題解決の糸口が見つかる場合もあります。

柔軟な発想を促すのに長けた手法なので、ブレインストーミングで使用すると、アイデアの発散を助けるでしょう。