ケースメソッドとは? ケーススタディとの違い、進め方、事例、教授法

ケースメソッドとは、実際の事例を教材に最善策を導き出す教育手法のことです。ここではケースメソッドの教授法やメリット、抱えている課題などについて解説します。

1.ケースメソッドとは?

ケースメソッドとは、企業や組織で経営方法を身につける研修手段のこと。

実践能力の育成を目的としたケースメソッドでは、講義型の教育はほとんど見られません。実際に企業で起こった経営者レベルの事案について複数名で討論し、具体的な解決方法を生みだすための能力を高めていくのです。

ケースメソッドでは具体的な事例に沿って疑似体験します。よって実際の現場で同様の問題が起きた際も、迅速に対応できるのです。

ケースメソッドの歴史

実際の事例を教材にリーダーシップや経営手法を身につけるケースメソッドは、1920年代にアメリカのハーバードビジネススクールではじまりました。

その後、アメリカ国内で法律学や経営学の教育方法として普及し、世界各国のビジネススクールで実施されるようになったのです。

日本に導入されたのは1960年代。「感受性訓練法」という名前で導入され、次世代リーダーの能力開発に有効とされ、今日まで活用されています。

ケースメソッドの活用方法

ケースメソッドは教育方法としても有効とされ、日本でも話題になりました。討議型授業は「ケーススタディ」とも呼ばれ、世界中のMBA教育で取り入れられています。

ケースメソッドでは実際の事例にもとづいた分析や意思決定訓練を行うのです。そのため「相互に尊重しながら共同してソリューションを導くスキル」「倫理観の確かさ」「専門性の高いハイタレントたちを束ねるリーダースキル」などを身につけられます。

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2.ケーススタディと経験学習モデル

ケースメソッドと類似した言葉に「ケーススタディ」があります。ここではケースメソッドとケーススタディの違いや、ビジネスにおけるケーススタディの役割などについて説明しましょう。

ケーススタディとは?

現実に起こった具体的事例を分析・検討し、その積み重ねで一般的な原理や法則を引き出す研究法のこと。ケーススタディによって、理論学習だけでは得られない実践的なスキルを養えます。

実際に起きたケース(事例)を教材としているため、疑似体験をとおして問題解決力や分析力、論理的思考や戦略構築力などを身につけるのも可能です。ビジネスはもちろん、医療や教育などさまざまな分野で活用されています。

ビジネスにおけるケーススタディ

ビジネスシーンでは効率性が求められます。ケーススタディを活用してさまざまな事例を研究していけば、仕事の手順においても自分なりに効率のよい法則を作り出せるでしょう。

与えられた情報や自身の知識から短時間でいかに適切な判断ができるか、という能力が鍛えられるのです。

ビジネスにおけるケーススタディは、経営大学院(MBAを取得できる大学院)や社内外のビジネス研修などで実施しています。就職試験の一環としてケーススタディを活用し、グループ内でのディスカッションから一人ひとりの発言内容を評価する企業もあるのです。

ケースメソッドとケーススタディとの違い

それぞれの違いは下記のとおりです。

  • ケースメソッド:ケースメソッドでは教育を受ける側が自主的に考えて答えを導き出す「能動的」な学習。何もないところから解決手段を見出していく
  • ケーススタディ:資料をもとに学習したり、講習を受けたりと「受動的」な側面がある。すでに答えが出ている事例を研究して自分の知識として取り込んでいく

どちらもケース(事例)について思考・議論するという点では同じでしょう。しかし一般的に、

  • 受動的な参加者視点の表現をケーススタディ
  • 能動的で教授視点の表現をケースメソッド

として区別しています。

経験学習モデルとは?

アメリカの組織行動学者、デイビット・A・コルブが提唱した「経験学習モデル(experiential learning model)」からも、ケースメソッドの有益性がわかります。

「経験学習」とは、その名のとおり経験を通して創造される学習能力のこと。以下4つのサイクルによって、人が経験から学ぶプロセスを表しています。

  • 経験:具体的な体験
  • 考察:経験の検証と熟考
  • 抽象概念化:持論(教訓)化して応用可能にする
  • 実践(試行):新たな事態に活かして実践する

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ケースメソッドと経験学習モデルとの関係性

ケースメソッドでは実際の経験ほど深くは学べません。しかし経験を疑似体験し、自分と他者の意見をぶつけるため、前述の「考察」「抽象概念化」を効率的に行えるのです。また他者の意見を交えたディスカッションによって、より深い検討が可能になります。

ケースメソッドでは経験学習モデルの「考察」と「概念化」が繰り返され、より豊富に経験を重ねられるのです。

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3.ケースメソッドの教授法

人材育成の研修や人事採用の一環としてケースメソッドを取り入れる企業が増えてきました。実際にケースメソッドを導入する際、どのような手順で進められるのでしょう。ここではケースメソッドの教授法について説明します。

ケースメソッドの教授法は4ステップ

ケースメソッドは以下4つのステップで進められます。ケースメソッドの主役は講師ではなく学習者。そのため講師には議論がスムーズに運ぶよう補佐したり、議論の結果を掘り下げたりする役割が求められます。

  1. 個人研究
  2. 小グループディスカッション
  3. 大グループディスカッション
  4. 解決策の検証

①個人研究

はじめに受講者は与えられたテーマに対してさまざまな角度からアプローチをかけ、個人研究を行います。

どのように問題解決の道筋を見つけるか、具体的にどのような方法が効果的かなど、与えられたテーマに対して自分の考えを整理しておく段階です。この個人研究で整理した思考が、次のグループディスカッションに参加し得る資格となります。

②小グループディスカッション

自身の思考を整理したら、次は少人数で予備的に討議するのです。まずランダムな組み合わせでグループにわかれ、グループごとにリーダーを決めます。リーダーの司会・進行にもとづいて討議を行い、個人研究で整理した思考を発表する段階です。

メンバーの前で自分の思考を口に出して、思考のポジショニングや偏りの確認、次の大グルーブディスカッションに向けた意見の磨き上げなどを行います。

③大グループディスカッション

少グループディスカッションでまとめた意見を大グループ(全体)で討議します。大勢の前で発表すると、人に伝える表現スキルが身につきます。ほかの参加者の理論や反対意見にも耳を傾けるため、話す力だけでなく聴く力を身につけるのも可能です。

自分の意見をさらに深めると同時に、多くの考えや価値観を学び、より実践に近い実行力を身につけていきます。

④解決策の検証

グループで出された解決案を比較・検討して、最終的な解決策を決定します。その解決策が正解か不正解か、はさほど重要ではありません。あくまでもケースの分析に意味があるのです。

最後に講師が短くレクチャーします。また講師が最後まで補佐の役割に徹して、時間いっぱい徹底的に討議するのもよいでしょう。段階を追って進めるなか、参加者の思考力を養い、最善策を導き出すのがケースメソッドの狙いです。

ケースメソッドにおける事例の選び方

ケースメソッドを実施する際、「どの事例にもとづいて討議を進めるのか」というケース選びが重要になります。またニーズに応じて講師たちが事例を作り出す場合もあるのです。ここでは事例の入手方法や事例を探す際のポイントなどについて説明します。

  1. 事例の入手方法
  2. 事例を賢く探すポイント
  3. 事例を作り出す場合も

①事例の入手方法

実際にケースを作成している機関から入手します。おもな入手先は大学院やビジネススクールなどのサイトや担当部署。複数機関のケースを集めて紹介している組織から入手したり、いくつかのケースをまとめたケースブックなどを購入したりする方法が主流です。

②事例を賢く探すポイント

ケースを探す際「自分がどのようなケースを探しているのか」というニーズを明確にしておきましょう。目的をはっきりさせたうえで、候補の抽出や絞り込みを進めます。

なお事例を選ぶ際はすでに分析された事例ではなく、今までに分析されたことのない事例を選ぶとよいでしょう。討論しやすくなり、学習の質も高まります。

③事例を作り出す場合も

ニーズが具体的であればあるほど、ケース探しはないものねだりになります。そのため修士論文研究や博士論文研究の成果をもとに、講師(おもに大学職員)たちが事例を作り出す場合もあるのです。

欧米には研修用の教材としてケースを開発する、ケースライターと呼ばれる職業もあります。

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4.ケースメソッドのメリットと抱えている課題

実際に企業で起きたケースを教材として自己研究やグループ討論を重ねていくケースメソッドには、いくつかのメリットと課題があります。ここではケースメソッドのメリットと、ケースメソッドが抱える課題について説明します。

ケースメソッドのメリット

ケースメソッドのメリットはおもに次の4つです。

  1. 問題解決能力や意思決定能力の開発
  2. 実践力や分析力、統合力や構築力などの習得
  3. 知識や事例を蓄積できる
  4. リーダーシップの育成

①問題解決能力や意思決定能力の開発

ケースメソッドは座学のように知識をインプットするだけでなく「あなたならどうするか」を問うアウトプット学習。正解は用意されておらず、何もないところから自分自身で解決の手段を見つけなければなりません。

自ら課題に対する戦略や解決方法を考えるため、主体的な問題解決能力や意思決定力を開発できます。

②実践力や分析力、統合力や構築力などの習得

ケースメソッドでは参加者が問題解決方法を主体的に考えて討論を繰り返します。この過程で実践能力としての分析力や洞察力、戦略構築力や意思決定力などを身につけられるのです。一方的な理論の講義では得られない、実践的な実務能力が身につきます。

③知識や事例を蓄積できる

ケースの分析・討論を繰り返すケースメソッドを積み重ねると、実践に役立つ知識や事例を蓄積できるのです。ケースメソッドでは自分が概念化・省察して得た知識はもちろん、他者の知識や見解を吸収できます。

疑似体験による実務的能力を、一度のケースメソッドで実際の経験よりも多く得られるのです。

④リーダーシップの育成

自発的な問題解決能力や実践力、知識と事例の蓄積はいずれもリーダーに求められるスキル。学習者に自ら考える機会を与え、戦略を構築する能力を身につけさせられるのは、ケースメソッド最大のメリットともいえるでしょう。

自分の意見と他者の意見をぶつけ合い、より深い検証を重ねていくとリーダーとしての資質も備わっていきます。

ケースメソッドが抱えている課題

実践力やリーダーシップの獲得ができるケースメソッドには、3つの課題があります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 明確な答えがない
  2. 指導者の力量に左右される
  3. 実際の問題解決に役立つとは限らない

①明確な答えがない

ケースメソッドで取り扱うケースは教科書と違います。よって知識を獲得するための理論は存在しません。「明確な正解が出ないならいくら討論を重ねても意味がない」「結局どんな選択をしても同じ結論しか出ない」と思われる恐れもあるのです。

②指導者の力量に左右される

「ケースメソッドの学習効果が指導者の力量に左右される」点も、ケースメソッドが抱える課題のひとつ。テーマを与える指導者の能力差が成果にあらわれるため、受講者に均等に思考力や問題解決力が身につくとも限りません。

③実際の問題解決に役立つとは限らない

数多くのケースメソッドを経験したからといって、必ずしも実際の経営で正しい判断ができるようになるとは限りません。取り扱うケースによっては現実より単純な問題を扱う場合も多く、結果として大きな失敗を引き起こす危険性も秘めています。

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5.ケースメソッドを理解できるおすすめの書籍

ケースメソッドを理解するには、討議を進めるだけでなく効率的な学習法について書かれた書籍を読む方法もあります。ケースメソッドを理解できるおすすめの書籍について説明しましょう。

スクールリーダーとしての意思決定を疑似体験できる書籍と、世界のビジネススクールで実際に採用されている書籍です。

『入門 ケース・メソッド学習法』―世界のビジネス・スクールで採用されている

『入門 ケース・メソッド学習法』は、ハーバード・ビジネススクールのライティングコンサルタントとしてケースに関する学習法を指導している、ウィリアム・エレット氏の書籍です。

さまざまな判断基準から自分はどう意思決定していくのか、反論や異論に耳を傾けながらどうやって自分の思考を磨きぬくのかなどが論じられています。

『次世代スクールリーダーのためのケースメソッド入門』 単行本 –

日常的に直面する事例から経営判断能力を育成するケースを集めたのが、『次世代スクールリーダーのためのケースメソッド入門』。

学校管理職や次世代リーダーに必要なスキルの獲得にむけて、日本教育経営学会実践推進委員会によるコメントが掲載されています。キーワード解説やコラムなども掲載されているため、自己啓発書としても活用できるのです。