エンゲージメント測定、9ボックス、目標の赤ペン|現場をコントロールする人事の「介入設計」

放置すれば腐る。人事は“空気入れ”であれ、データとフレームで組織を動かす実践術

「人事は現場に任せればいい」そう思っていませんか? 現実は違います。放置すれば、マネージャーは業績に追われ、部下の育成は後回しになる。この記事では、仕組みで組織を機能させてきた3名の人事責任者が、具体的な介入手法を公開します。

──現場の「機能不全」を未然に防ぎ、組織を健全に保つための人事の役割(空気入れ)を、データとフレームワークの活用事例から探ります。

データとフレームワークで組織を動かす実践術
カオナビ人事用語集では、組織の「機能不全」を防ぐための人事の介入手法を探るため、経験豊富な3名の人事プロフェッショナルに対談形式でインタビューを実施しました。

お話を伺った方々

高橋さん
大手IT企業で長年人事を担当。現在は独立コンサルタントとして中小企業を支援

木元さん
HRBPとしてデータドリブンな人事施策を推進。理論と実践の両面に精通

藤井さん
外資系企業でリモート環境での人事制度設計を経験。現在は組織開発に特化

「善意ではなくメカニズム」──Amazonから学んだ仕組み化の思想

──「やらされ1on1」を防ぐために、どんな工夫をしていましたか?

藤井さん藤井さん

外資系企業では、「善意(グッドインテンション)は悪」という思想がありました。マネージャーの善意に期待するのではなく、メカニズムで機能させる。具体的には、毎週30分の1on1を仕組みとして組み込み、やらざるを得ない状況を作る。リモート環境で部下が別拠点にいることも多かったので、定期的な対話なしには仕事が回らない設計にしていました。

木元さん木元さん

目的を明確にすることも重要です。1on1は業績管理の場ではなく、障害を取り除く場。「今、何が仕事の妨げになっているか?」を引き出し、解決する。この目的がはっきりしていれば、マネージャーも意味を理解して動いてくれます。

高橋さん高橋さん

でも現実には、「今月の数字どうなの?」で終わる1on1が9割ですよね。それを防ぐには、人事が介入するしかない。私は、1on1のフレームを提供して、「この流れで進めてください」と明示していました。フレームがあれば、最低限の質は担保できます。

──善意に頼らず、仕組みで回す──これが機能する1on1の前提なんですね。

エンゲージメントスコアで問題を”検知”する

──マネージャーの1on1の質をどうチェックしていましたか?

藤井さん藤井さん

エンゲージメントスコアを毎日測定していました。1日1問、365日続ける。週次や月次で分析して、スコアが下がっているメンバーがいたら、すぐに介入する。「上司の問題なのか、業務負荷の問題なのか、人間関係の問題なのか」ヒアリングして原因を特定します。

木元さん木元さん

スコアが下がっている人に、人事が直接面談するんです。「空気を入れに行く」感覚ですね。「最近どう?」「困っていることない?」と聞くと、たいてい「上司が見てくれない」「フォローがない」という声が出てくる。そこで、マネージャーに「この人、ほったらかしにしてませんか?」とフィードバックする。

高橋さん高橋さん

データがあるから介入できるんですよね。数値で可視化されていないと、「人事の主観でしょ?」と反発される。でもエンゲージメントスコアがあれば、「この人、3ヶ月連続で下がってますよ」と客観的に指摘できる

──データドリブンな介入が、人事の説得力を生むんですね。

キーワード解説
エンゲージメントスコア:従業員の仕事への熱意や組織へのコミットメントを数値化した指標。定期測定により、問題の早期発見と迅速な介入が可能になる。

9ボックスで人材を可視化し、育成課題を言語化させる

──評価面談を「育成の場」にするために、どんな工夫をしていましたか?

木元さん木元さん

9ボックスを活用していました。縦軸にパフォーマンス、横軸にバリュー発揮度を置いて、各メンバーをマッピングする。そうすると、「この人は成果は出しているけど、行動面に課題がある」「この人はバリューは体現しているけど、成果が伴っていない」というのが一目で分かります

藤井さん藤井さん

9ボックスで可視化した後、各マネージャーに育成課題を言語化してもらうんです。「このメンバーを次の等級に上げるには、何が課題で、どう支援するか?」これを明確にさせる。マネージャーは日常業務で目の前のバジェットを追うので、意図的にこういう場を作らないと、育成を考えないんですよ。

高橋さん高橋さん

評価調整会議でも、人事が入って目線を揃えます。部署によって評価の甘辛が絶対あるので、9ボックスを使って「この人とこの人、本当に同じレベル?」と問いかける。そうやって全体最適の視点を持ち込むのが、人事の役割です。

──人材の可視化と育成課題の言語化──これがマネージャーの質を底上げするんですね。

キーワード解説
9ボックス:パフォーマンスと行動評価(バリュー発揮度)の2軸で人材を9つのカテゴリーに分類する手法。後継者育成や配置戦略の基盤となる。

目標設定に”赤ペン”を入れる──期末の評価を期初で決める

──目標設定の段階で、人事はどう関わっていましたか?

木元さん木元さん

期初の目標設定に、人事が赤ペンを入れます。マネージャーが作った目標を見て、「これ、期末にどうやって評価するんですか?」「達成基準が曖昧じゃないですか?」と指摘する。目標の“水準”が書けていないマネージャーが本当に多いんですよ。

藤井さん藤井さん

例えば「売上を伸ばす」だけでは目標になりません。「前年比120%の売上達成、具体的には○○件の新規受注」ここまで書いて初めて評価できる。期初の段階で達成基準を明確にしておかないと、期末に不満が噴出します

高橋さん高橋さん

私は目標設定面談の前に、マネージャーと事前ミーティングをしていました。「この目標、どう評価するつもりですか?」と。そこで曖昧さを潰しておく。期末の評価は、実は期初で決まるんです。

──目標設定の質が、評価の納得度を左右するんですね。

タスクアセスメントモデル──「私、やります」と言わせる対話設計

──キャリア支援面談で、具体的にどんなフレームを使っていましたか?

木元さん木元さん

タスクアセスメントモデルを意識していました。まず「自己効力感」「あなたならできる」と思わせる。過去の成功体験や強みをフィードバックして、やったことがない仕事でも前向きに挑戦しようと思わせるのが最初のステップです。

藤井さん藤井さん

次に「影響感」「この仕事をすることで、自分にどんなインパクトがあるのか」を腹落ちさせる。そして「有意味感」この仕事が将来のキャリアにどう意味があるかを伝える。最後に「自己決定感」で、「私、やります」と本人に言わせる。この4ステップです。

高橋さん高橋さん

このプロセスを意図的に設計できているマネージャーは少ないです。だから人事がフレームを提供して、「こういう順番で質問してください」と具体的に示す。そうすると、コーチングスキルがなくても、最低限の面談ができるようになります。

──フレームがあれば、属人化を防げるということですね。

キーワード解説
タスクアセスメントモデル:自己効力感・影響感・有意味感・自己決定感の4要素から、メンバーのモチベーションとパフォーマンスを高めるフレームワーク。面談の質を標準化する際に有効。

「ちゃんとやっている」を信じるな──介入のタイミングを逃すな

──マネージャーが「ちゃんとやってます」と言っているのに、実は機能していないケースをどう見抜きますか?

藤井さん藤井さん

エンゲージメントスコアが嘘をつきません。「ちゃんとやってます」と言っているマネージャーの部下のスコアが下がっていたら、確実に何か問題がある。そこで部下に直接ヒアリングすると、「1on1は形だけ」「相談しても聞いてくれない」という本音が出てきます。

木元さん木元さん

あとは離職の兆候ですね。優秀な人が辞める前には、必ずサインがある。スコアの低下、欠勤の増加、会議での発言が減る。こういうサインを見逃さない。気づいた時点で人事が介入して、「何があったんですか?」と聞く。手遅れになる前に空気を入れるんです。

高橋さん高橋さん

マネージャー本人も気づいていないケースも多いんですよ。「いや、あの子は大丈夫です」と言っているけど、実は限界寸前。だから人事は、マネージャーを信じすぎない。データと直接対話で、現場の実態を掴む努力を怠らないことです。

──「ちゃんとやってる」という報告ほど、疑うべきなんですね。

難しいことより、基本を徹底する方が効果がある

──介入の結果、組織に変化は生まれましたか?

藤井さん藤井さん

エンゲージメントスコアが明らかに上がりました。特に、ほったらかしにされていたメンバーの変化が顕著でした。人事が介入して、マネージャーに「ちゃんと見てください」と伝えただけで、スコアが回復する。やれていなかった基本をやれるようにするだけで、全然変わります。

木元さん木元さん

難しいフレームワークを導入するより、基本を徹底する方が効果が大きいんですよね。毎週30分の1on1、目標の明確化、フィードバック。これらをちゃんとやるだけで、組織は機能し始めます。

高橋さん高橋さん

人事の介入は、最初は嫌がられます。「余計なことしないでくれ」と。でも、結果が出ると、「もっと早く介入してほしかった」と言われるんですよ。現場は忙しくて見えていないことが多い。だから人事が外から見て、「ここ、おかしいですよ」と指摘することに価値がある。

──介入は「お節介」ではなく、組織を健全に保つ必須機能なんですね。

まとめ

この座談会で明らかになったのは、人事は「空気入れ」であり、組織を腐らせないための介入者だということでした。

藤井さんのエンゲージメント測定、木元さんの9ボックス活用、高橋さんのフレームを提供する──いずれも放置すれば機能不全に陥る現場を、データとフレームでコントロールする実践です。

組織を腐らせない人事介入・3つの実践

「マネージャーに任せる」は、一見尊重しているようで、実は放棄です。本当にマネージャーを支援するなら、人事が仕組みを作り、介入し、質を担保するしかありません。

  1. データで検知する:エンゲージメントスコアや離職兆候を定期測定しているか?(主観ではなく、数値で問題を可視化し、早期介入できる体制があるか
  2. フレームで標準化する:1on1や目標設定のフレームを提供しているか?(タスクアセスメントモデルや達成基準の明確化など、属人化を防ぐ仕組みがあるか
  3. 遠慮せず介入する:「ちゃんとやってます」を鵜呑みにせず、直接確認しているか?(マネージャーの報告だけでなく、部下への直接ヒアリングや9ボックスでの可視化を実践しているか

あなたの組織は今、放置されていませんか? まずは一つの指標から測定を始めましょう。エンゲージメントでも離職率でも、数値で現状を把握することが、介入設計の第一歩です。