その面談、意味ありますか? 意味のある面談に変える問いと対話とは

形骸化した面談にうんざりしていませんか?

「最近の面談、形式的なやりとりになっているな」そんな経験はありませんか? 人事担当者も現場のマネージャーも、忙しい中で時間を捻出しているのに、手応えのない面談は生産性を下げる一方です。

──「意味のある対話」を生み出すための具体的な「問い」と「見直し方法」を、現場のリアルな声から問い直します。

面談を「意味のある時間」に変えた実践事例のご紹介
カオナビ人事用語集では、人事の現場で起きているリアルな課題と解決策を探るため、実際に面談改革を経験した3名の人事担当者にインタビューを実施しました。今回は匿名での掲載とし、率直な体験談を語っていただいています。

お話を伺った方々

高橋さん
大手IT企業で長年人事を担当。現在は独立し、コンサルタントとして中小企業を支援

木元さん
HRBPとしてデータドリブンな人事施策を推進。理論と実践の両面に精通

藤井さん
外資系企業でリモート環境での人事制度設計を経験。現在は組織開発に特化

形骸化した面談に疲れた現場が語るリアル

──「この面談、本当に意味あるの?」と感じたことはありますか?

高橋さん高橋さん

以前の会社では半年ごとの評価面談が主流でした。目標設定、振り返り、フィードバックと一連のプロセスを制度化し、研修でロールプレイまでしていたんです。ですが、実際に制度どおり実施できていた上司は少なかった
アイスブレイクで雑談から始めましょう」と研修では習うのに、実際は「うちの上司、アイスブレイクで終わっちゃったんですけど」という声すらありました(苦笑)。形式的な面談では、お互いに時間を無駄にしている感覚が強かったですね。

木元さん木元さん

それは本当にありますね。私の会社でもマネジメント研修は受けさせていましたが、現場で浸透しない。形式ばかりで、中長期的な成長支援の場にはならず「業務確認の延長」で終わってしまうことが多かったです。結果として、面談の時間は確保されているのに、実際には何も進展がない。部下からも「また同じ話の繰り返し」という不満が出ていました。

藤井さん藤井さん

現場感で言うと、私はリモート環境だったので、面談の重要性を逆に強く感じました。部下が全国や海外に散らばり、顔も見えず、何に困っているか分からない状況。そんな中で、面談は”唯一のコミュニケーションの場“でした。ただ、目的が曖昧だと、リモートでも対面でも同じように形骸化してしまう。「とりあえず話している」だけでは、お互いにとって意味のない時間になってしまいます。

──お三方とも、研修と現実のギャップに苦労されていたんですね。特にリモート環境では面談の位置づけが大きく変わったように感じます。

キーワード解説
アイスブレイク:面談の冒頭で緊張をほぐすための軽い会話や質問。効果的に使えば場の雰囲気を和らげるが、目的を見失うと本題に入れなくなるリスクがある。

HRBP(HRビジネスパートナー):経営戦略に基づいて人事施策を企画・実行し、事業部門と密接に連携しながら組織の成果向上を支援する人事担当者。

目的が不明確なまま進む面談の重さ

──なぜそのような状況になってしまったのでしょうか?

高橋さん高橋さん

最大の問題は「形骸化」です。半年経ってから振り返っても手遅れ軌道修正やフォローが必要な時にそれができず、ただの儀式になってしまう。
さらに人事という立場には宿命的に板挟みもあります。私もリストラを担当したとき、地方工場では「対象者の家族が近所に住んでいる」なんてこともあり、地域で肩身の狭い思いをしました。その経験から「面談は制度のためではなく、本当に社員のためにならなければ意味がない」と痛感しました。

木元さん木元さん

そうですね。マネージャーは目の前の業績達成に意識が集中しがちで、育成にリソースを割けない構造的な問題があります。
特に日本企業では、短期的な成果を求められるプレッシャーが強く、中長期的な人材育成が後回しになりがちです。面談も「やらなければいけないもの」として扱われ、本来の目的を見失ってしまうんです。

藤井さん藤井さん

現場では本当にそうです。特にリモート環境では、意図的に「障害を取り除く場」を設けないと、社員が何に悩んでいるかすら分からない。だからこそ面談は必須でしたが、最初は目的が曖昧で「何を話せばいいのか分からない」空気が重くのしかかっていました。

──面談が形骸化する背景には、タイミングの問題や構造的な課題があることがよく分かりました。高橋さんのリストラの体験談からは、人事施策の重みと責任についても考えさせられますね。

問いかけを再設計し、面談を再定義する

──そこから、どのような見直しを行ったのですか?

高橋さん高橋さん

ちょうど1on1という概念が注目され始めた頃です。そこで「業務報告の場にしない」という大前提を置きました。目的は”関係性を作ること“。嫌いな上司でも毎週15分顔を合わせれば、やがて「この人は悪い人じゃない」と歩み寄りが生まれる。そこから本音が出るんです。
従来の面談は「評価」や「査定」のイメージが強く、どうしても部下が身構えてしまう。しかし関係性を重視した対話にすると、自然に相談しやすい雰囲気が生まれます。

藤井さん藤井さん

現場の実感としても同じです。私は「働きやすい環境を作るための障害を取り除くこと」にフォーカスしました。フォローアップが多すぎるとか、カウンターパートとうまく連携できないとか、細かい課題をその場で潰していく。そうすると「この時間は自分のためになる」と部下が理解してくれるんです。

木元さん木元さん

私はタスクアセスメントモデルを導入しました。自己効力感→影響感→有意味感→自己決定感の4ステップを意識し、問いかけやフィードバックを設計する。そうすると部下が「やってみよう」と自然に思えるようになり、面談の質が安定します。

──皆さんそれぞれ異なるアプローチを取られていますが、「業務報告から脱却する」という点では共通していますね。特に木元さんのフレームワーク活用は興味深いです。

キーワード解説
1on1:上司と部下が定期的に行う一対一の面談。業績評価ではなく、部下の成長支援や関係性構築を主目的とする。ヤフーが先駆的に導入し、日本でも普及が進んでいる。

タスクアセスメントモデル:仕事に対するモチベーションを4つの感覚で評価するフレームワーク。
・自己効力感:「やればできる」という自信
・影響感:「自分の仕事が価値を生んでいる」という実感
・有意味感:「この仕事には意味がある」という納得感
・自己決定感:「自分で選択している」という主体性

社員が行動を変えた瞬間

──改革の効果はどのように現れましたか?

高橋さん高橋さん

関係性ができてくると、やっぱり変わります。以前は業務報告だけで終わっていた部下が「ちょっと聞いてもいいですか?」と声をかけてくるようになった評価面談すら不要では?と思えるほどでした。
特に印象的だったのは、いつも受け身だった若手社員が、自分から「新しいプロジェクトに関わりたい」と提案してきたことです。日頃の面談で関係性ができていたからこそ、本音で話してくれたんだと思います。

藤井さん藤井さん

現場では本当にそうですね。リモートでも、社員が自分で環境を作れるようになったのが最大の変化です。「家庭の事情で勤務時間を調整したい」とか「他部署と話せなくて困っている」といった相談が自然に出るようになった環境を自分で作るための行動が増えパフォーマンスが上がったのを実感しました。

木元さん木元さん

数値的にも裏付けがあります。以前は「無理です」と尻込みしていた社員が、タスクアセスメントモデルを通じて「私やります」と手を挙げるようになった。過去の強みをフィードバックしながら後押しすると、挑戦への意欲が高まる行動とデータの両面で変化が見えました。

──どの取り組みでも、社員の自主性が向上しているのが印象的です。受け身だった社員が能動的に変わる瞬間があったということですね。

継続のコツは”完璧を求めないこと”

──面談を意味あるものにし続ける工夫は?

高橋さん高橋さん

完璧を求めすぎると続かない。大事なのは「まず当たり前にやる」こと。形式ではなく習慣化です。
最初はうまくいかなくても、継続することで徐々に質が向上します。「今日は何も話せなかった」という日があっても、それはそれで意味がある継続することで、相手のリズムや状況が見えてくるんです。

木元さん木元さん

そうですね。共通フレームを整えてトレーニングすると自然に回り出します基本の徹底こそ効果的です。
マネージャー向けの研修では、完璧な面談を求めるのではなく、「毎回小さな改善を重ねる」ことを伝えています。PDCAサイクルを面談にも適用し、振り返りと改善を継続することが重要です。

藤井さん藤井さん

私の前職でも「善意」ではなく「仕組み」で回す思想でした。過去の成功体験や強みをフィードバックし、新しい挑戦を前向きに捉えられるよう仕掛けるのが重要です。
仕組み化のポイントは、面談の前後にも工夫を加えることです。事前に話したいことを整理してもらい、事後には次回までのアクションを確認する。このサイクルを回すことで、面談の効果が持続します。

──継続の秘訣は「完璧主義からの脱却」と「仕組み化」ということですね。個人のスキルに依存しない制度設計の重要性がよく分かりました。

キーワード解説
共通フレーム:組織全体で統一された面談の枠組みや手法。質問の仕方、進行方法、記録方法などを標準化することで、マネージャーのスキルに依存しない安定した面談品質を確保できる。

まとめ

この座談会で見えた共通点は、面談の「存在意義を再定義すること」でした。

高橋さんの関係性重視藤井さんのリモート環境での実践知木元さんのフレームワーク活用──いずれも「何のための時間なのか」を問い直すことから始まったのです。

意味のある面談にする3つのチェックポイント

次の面談の前に、これらを確認してみてください。

  1. 目的の明確化:この面談は何のため?(目的が曖昧だと形骸化しやすい
  2. 継続の前提:単発で終わらず、継続的な対話になっているか?(続けることで関係性が深まる
  3. 双方の準備:上司・部下双方が意味を理解し、準備して臨んでいるか?(準備不足は時間の浪費につながる

あなたの会社の面談は、本当に“意味ある時間”になっていますか?

※参考文献:『ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社、2017年)