ワーキングプアとは?【なぜ?】年収200万の壁、人口割合

ワーキングプアは「働く貧困層」と訳され、現代の日本社会で大きな社会問題になっています。ワーキングプアについて正しく理解しておくことは重要でしょう。

  • ワーキングプアの定義
  • ワーキングプアの実態
  • ワーキングプアの増加した理由
  • ワーキングプアが多い業界・業種
  • 解決への取り組み

などについて、説明します。

1.ワーキングプアとは?

ワーキングプアとは、「働く貧困層」と訳されている言葉です。

「働く貧困層」は、

  • 正社員並み、もしくは正社員としてフルタイムで就労しているにもかかわらず、ギリギリの生活さえ維持が困難であること
  • 生活保護の水準すら満たさない収入しか得ることのできない就労者の社会層

といった貧困線以下で就労している労働者を示しています。しかし日本では、国民の貧困線が公式に設定されていません。貧困線の目安として考えられるのは、生活保護制度です。

生活保護における給与水準は、

  • 月額約17万円
  • 年額約200万円

となっています。

ワーキングプアは、「働く貧困層」と訳されており、日本では生活保護制度を基準に考えられています。

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2.ワーキングプアの歴史と現在

ワーキングプアという用語の定義について、はっきりとした結論は出ていません。

思想家の間では、ワーキングプアという用語の基本的な定義は「貧困線を満たす収入を就労から得られていない労働者」で一致していますが、一般的な用語の意味や定義については議論が続いているのです。

議論のきっかけは、1890年~1920年の進歩主義時代にさかのぼります。Robert Hunter、ジェーン・アダムズ、W・E・B・デュボイスらによってワーキングプアの議論が社会で取り上げられるようになりました。

日本におけるワーキングプアの起源

日本にワーキングプアの言葉をもたらしたのは、社会学者の江口英一です。高度経済成長期の1965年、旧厚生省が貧困の統計をやめ「1億総中流化」が叫ばれるようになった中で、東京都中野区の課税台帳の電算集計が実施されました。

その結果、住民の約1/4が生活保護水準以下の生活をしていることが明らかになったのです。

  • 労働市場の流動化
  • 経済活動の長期停滞

といった影響もあり、ワーキングプアと呼ばれる低賃金労働者が増えていきました。

規制緩和・自由化による非正規雇用の増加

1990年代以降、経済のグローバリゼーション化に対応して、

  • 労働市場の規制緩和
  • 経済活動の自由化

が進められました。派遣労働の段階的解禁も実施され、派遣、パート、契約社員など非正規雇用の全労働者に占める割合は、以後、増加しています。

また、1990年代は日本経済の長期停滞を迎え、リストラや就職氷河期といった言葉に象徴されるように、職を失う・職に就けない人材が続出したのです。これもワーキングプアを増長させました。

非正規雇用の問題点

非正規雇用の問題点は、

  • 雇用期間が1カ月から最長でも1年程度の短期で、雇用が不安定
  • キャリアアップの機会が乏しいこと
  • 雇用保険、社会保険といった社会保障が不十分であること

また、労働基準法第24条第2項の規定により賃金の支払い日が「月1回払いのみ」の場合が多く、かつ「締め日から支払日までの日数が長い」ため、すでに労働した分の賃金をすぐに受け取ることができません。

それにより、

  • 所得と貯蓄の低下
  • モチベーションの低下
  • 生存権の侵害

に拍車をかけてしまうのです。

無期転換ルールと雇い止め

2018年4月、無期転換ルールが開始されました。無期転換ルールとは、反復更新された有期労働契約が通算5年を超えた場合、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換できるルールのこと。

無期転換ルール開始前に、企業から労働契約を打ち切られる「雇い止め」が増加し、職を失い生活に困窮した労働者も増えました。現代日本の労働市場では、ワーキングプアといった問題以前に「失職の問題」も深刻化していることが分かります。

日本では経済活動の自由化や労働市場の流動化によって、非正規社員の増加、失職といった問題が多発しているのです。

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3.日本におけるワーキングプアの実態

ワーキングプアの実態調査によれば、

  • 2012年の275万世帯がピーク
  • 2012年をピークとして緩やかに減少傾向
  • 2017年は2012年以降で最低水準の247万世帯

徐々にではありますが、ワーキングプアの現状は回復傾向にあるのです。

日本総合研究所『調査部 副主任研究員 星 貴子・中高年ワーキングプアの現状と課題

非正規雇用の割合と給与水準の推移

  • 非正規雇用労働者は、平成6年から現在まで増加傾向にある
  • 正規雇用労働者は、平成26年まで減少傾向を示したが、平成27年に8年ぶりにプラスに転じた後、4年連続の増加

という調査結果が出ています。また、正社員として就労チャンスがなく、非正規で就労する不本意非正規の割合は、非正規雇用労働者全体の12.8%(平成30年平均)です。

厚生労働省 HP掲載資料『【正規雇用と非正規雇用労働者の推移】

ワーキングプアの男女別人口比率

ワーキングプアの男女別人口比率を調査すると、

  • 女性のワーキングプアの割合の全国平均は、40.5%
  • 女性のワーキングプアの割合が高いのは、沖縄県、青森県、秋田県
  • 割合が50%を超えるのは10の府県

一方、

  • 男性のワーキングプアの割合の全国平均は、25.8%
  • 割合が50%を超えている都道府県はなし

となりました。さらに分析を進めると、

  • 男性の全国平均は9%(20代のおよそ4人に1人から10人に1人にまで大幅減少)
  • 女性の全国平均は43.9%(20代に比べて3ポイント以上増加、50%超の道県も10と悪化)

男女の格差は30代で大きく拡大していると分かったのです。

日本におけるワーキングプアの実態は、非正規雇用や女性の就労と大きく関係していることが分かりました。

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4.ワーキングプアの増加理由:貧困の原因

ワーキングプアの増加の原因は、貧困にあるのです。急速な経済活動のグローバル化などの影響で、労働市場も規制緩和や自由化への動きが進みます。そこで企業が競争力を高めるための施策として人件費の削減を行った結果、

  • 非正規雇用の全労働者に占める割合の増加
  • 就職氷河期の到来

が起こりました。そして、安定した就労どころか職に就くことさえも難しくなり、生活に困窮する貧困が生まれたのです。

  1. 企業による人件費削減
  2. デフレによる賃金水準の低下
  3. 正社員採用の減少

①企業による人件費削減

大量のワーキングプアの発生の一因は、企業の人件費削減の流れです。

企業は、国際競争力を高めるために、

  • 安価な労働力確保のため、労働市場を海外へ求める動き
  • 高い賃金を払う必要のある正社員の新規採用抑制
  • 安価な人件費の上、雇用調整しやすいアルバイト、パート、契約社員、派遣社員といった非正規社員を増やす

といった総人件費の削減や抑制を行った結果、企業が労働者に支払った給与総額は、

  • 1999年:217兆円
  • 2009年:192兆円

と大きく減少したのです。

②デフレによる賃金水準の低下

ワーキングプアの発生の一因には、デフレによる賃金水準の低下も考えられます。バブル崩壊以降、一気に日本経済のデフレが進み、その影響は現在に至るまで尾を引いています。そして労働者の賃金水準は低下傾向で推移したのです。

労働者の平均年収を比較すると、

  • 1999年、461万円
  • 2009年、406万円

といったように大きく減少しています。企業の人件費抑制という側面だけでなく、日本経済全体がデフレから脱却できていないことも、ワーキングプアの原因になっているのです。

③正社員採用の減少

ワーキングプアの発生には、正規雇用者の減少も問題視されています。

労働者の中の正規雇用の割合は、

  • 2000年、74.0%
  • 2010年、65.6%

と、10年間で約10%減少しているのです。正規雇用者がここまで減少した背景には、

  • 新卒採用の抑制で就職できなかった
  • 正社員となった後の自発的な離職
  • 倒産やリストラといった非自発的離職で職を失う

などが考えられます。

ワーキングプアの原因には、企業の人件費抑制、デフレ、正規雇用者の減少などが考えられています。

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5.高学歴ワーキングプアとは?

高学歴ワーキングプアとは、世間で難関大学といわれている大学・大学院を卒業して修士号や博士号を取得したにもかかわらず企業への就職が実現せず、無職または非正規雇用労働者になっている人たちのこと。

また「ポスドク」と呼ばれ大学や研究機関などへの就職を希望して大学院卒業後、非正規雇用の研究員になる人も多く存在しており、給料の額によってワーキングプアの層に分類される場合もあるのです。

交通費が支給されないケースもあり、生活は非常に厳しいものになっています。

高学歴ニートとは?

高学歴ニートとは、東京大学や慶應義塾大学、早稲田大学といった有名大学を卒業しているにもかかわらず、定職に就いていない人たちのこと。大学生の就職率は過去最高98%である点から考えると、決して就職難とはいえません。

高学歴ニートの特徴は、何らかの個人的事情によってニートの道を選んでいることにあります。

ワーキングプアのカテゴリーには、高学歴ワーキングプアや高学歴ニートなどの人たちも含まれています。

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6.中高年ワーキングプアとは?

中高年ワーキングプアとは、正規雇用の職を希望している、非正規雇用に甘んじている、両方の条件に当てはまる不本意非正規雇用労働者のこと。

中高年の不本意非正規雇用労働者の数は、2017年167万人で、2016年に新社会人となった人数を上回ります。

人数そのものは減少傾向にあるものの、2013年から2017年の4年間を見るとその減少幅は16.9%。同期間で若年層と比較すると32.5%減少した若年層に遅れをとっていることが分かったのです。

中高年ワーキングプアも大きな問題となっており、減少傾向にはあるものの、若年層の減少幅には追いついていません。

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7.ワーキングプアに陥りやすい業界・業種の具体例

ワーキングプアに陥りやすい性格を持つ4つの業界や業種について、説明します。

  1. 保育士
  2. 相談員
  3. 農林漁業作業者
  4. 採掘・建設・労務作業者

①保育士

保育士の中でも特に非正規雇用の保育士のワーキングプア問題が、クローズアップされています。公立保育園でさえも、非正規社員の収入は低く、ワーキングプア化しているのです。

また、国立病院や国立大学といった機関でも、年収200万円以下での就労を余儀なくされている非正規社員が多くいると判明しました。劣悪な処遇によるワーキングプアは、今後大きな社会問題になっていくでしょう。

②相談員

相談員とは、

  • 消費者問題
  • 労働問題
  • 年金問題

などに関して、出先機関による住民への直接サービスの最前線で活躍している人たちのこと。

特に非正規社員の割合が高いのが、消費生活相談員です。消費生活相談員の約9割が非正規社員であるといわれています。住民に対して重要なサービスを担っているにもかかわらず、劣悪な処遇にある点について、今後、議論が必要になるでしょう。

農林漁業作業者

農林漁業作業者も、非正規雇用労働者の割合が高い業種の一つです。

厚生労働省の調査によれば、

  • 農林漁業作業者
  • サービス職業従事者

の約4割強がフルタイムワーキングプアであると分かっています。日本では、第一次産業が衰退傾向にあり、なかなか賃金が上がらないうえ、

  • 拘束時間が長い
  • 休みが不定期
  • 肉体的な重労働

といったことで担い手が多くないのが現状です。しかし、その中でも必死に就労を続けている様子が伝わってきます。

採掘・建設・労務作業者

採掘・建設・労務作業者も、非正規雇用労働者の割合が高い傾向にあります。厚生労働省の調査によると、採掘・建設・労務作業者の約25%がフルタイムワーキングプアであるという結果が出ているのです。

建設などの業種は常時一定作業が保証されているわけではないため、日雇いやアルバイトなどの雇用契約で雇用されているケースも多く見られます。これらの業種は、フルタイムで働いても安定雇用に結び付かないといった課題を抱えているのです。

非正規雇用労働者の割合が高い業種には、保育士、相談員、農林漁業作業者、採掘・建設・労務作業者などがあります。

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8.ワーキングプア解決への政策や取り組み

ワーキングプア問題の解決に向けて、政策や取り組みが検討されています。実現には時間が必要ですが、このような検討がなされていることは、ワーキングプアの問題解決に大きな光となるでしょう。

  1. ベーシックインカム
  2. 負の所得税

①ベーシックインカム

ベーシックインカムとは、政府が主導するかたちで、すべての国民に対し毎月最低限の生活を送るために必要と考えられる金額相当の現金を、無条件で支給するという構想のこと。

全国民に対するセーフティーネットになることで、ワーキングプアに陥る可能性のある層の底上げを狙っています。

しかし、

  • 労働意欲の減退
  • ベーシックインカムを求める外国人の流入
  • 予算的な課題

などの問題が大きくのしかかるため、実際に実現することは困難といわれています。

②負の所得税

負の所得税とは、一定収入のない人々は政府への税金納付が免除されるだけではなく、政府から給付金を受け取ることができるという制度のこと。累進課税システムの一つです。

実際、1970年頃にアメリカで社会実験が実施されました。負の所得税は労働意欲を損なうことなく生活を保障できますが、

  • 所得税の公平性
  • 財政面での負担

さまざまな観点から考えると乗り越えるべき課題が大きいのです。

ワーキングプア問題の解決に向けて、ベーシックインカムや負の所得税といった制度が検討されています。