出向起業とは? 補助金、メリデメ、出向起業の手引き

出向起業とは、大企業に在職中の社員が事業を立ち上げ、所属企業からの出向という形式でその事業の経営者になること。出向企業のメリット、デメリット、手引き書、利用できる補助金、事例について解説します。

1.出向起業とは?

出向起業とは、大企業に属している社員が新事業を起こし、在籍している会社から出向する形でその事業の経営者になること。なお事業の設立資金は、事業を起こす本人が調達します。

退職せず事業を設立できるため起業のハードルが下がり、イノベーションを促進する効果が期待できるのです。そのため経済産業省も出向起業を支援しており、「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」を提供しています。

出向起業と見なされる要件は以下のとおりで、すべてを満たす必要があります。

  • 新事業を行うために所属する人材が、所属元資本20%未満かつ所属元以外の資本を80%以上活用して会社を設立する
  • 所属する起業から出向した社員が、経営者として新事業に向けた実務をフルタイムで行う
  • 出向して新事業を運営する経営者に対して、「そのまま独立する」あるいは「所属元に戻す」という計画が用意されている

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2.出向起業のメリット

出向起業のメリットは、大企業に勤めながら社員が起業できること。万が一新事業が成功しなくとも、元の所属先へ戻れるため安心してチャレンジできます。

また子会社と異なり、自由度の高い経営ができる点もメリットです。出向元企業からの出資は20%未満と決められているため、出向元企業の意思が経営方針を左右する心配がありません。

一方、企業にとってもメリットがあります。経営や新事業設立の知識や経験を得た社員を確保できるからです。また採用時に「出向起業が可能」と応募者へアピールでき、意欲や能力の高い人材が集まりやすくなります。

  1. 新規事業の創出
  2. 経営⼈材・社内新規事業⼈材の育成
  3. 新卒⼈材等への訴求効果が得られる
  4. 新規事業創出が加速

①新規事業の創出

社内での新規事業創出が困難でも、出向起業で事業化を図れます。たとえば大企業が新規事業に着手しようとすると、一定以上の確実性や収益性が見込めなければ実現は難しいでしょう。投入した経営資源を新規事業で回収しなければならないためです。

そのため新規事業を企画しても実現できるとは限りません。専門外のようなノウハウの少ない事業であればなおさらです。出向起業では外部資本を活用できるため、リスクを低減しながら新規事業へ挑戦できます。

②経営⼈材・社内新規事業⼈材の育成

自社の社員へ経営や新規事業設立の経験を積ませられるため、次世代の経営層や社内事業を運営できる人材を育成できます。

近年、経営層だけでなく一般の社員にも経営者視点が求められるようになってきました。社会や市場が変化しやすくなり、社員が主体的かつ迅速に判断して行動しなければならない状況が増えたからです。

しかし適切な判断を下すには、自社の経営方針や戦略、経営資源などを考慮する必要があります。そのため一社員でも、経営者視点を身につけるべきといわれているのです。

また経営者視点を持った社員は、自社の成長や発展につながる新規事業の企画から運営までを任せられるでしょう。

③新卒⼈材等への訴求効果が得られる

出向起業を認める企業として、新卒人材へアピールできます。新しいことにチャレンジしたいと考える意欲の高い人材や、自分で事業を運営できるほど能力の高い人材を獲得しやすくなるのです。

働き方改革以降は多様な働き方を希望する傾向が高まっています。そのため、出向起業という新しい働き方を取り入れている企業は、新卒採用市場でも注目されるでしょう。

自社の出向起業が広く認知されると、出向起業を希望して他社から転職してくる人材も期待できます。

④新規事業創出が加速

出向起業を活用すれば、事業創出までのスピードもアップします。とくに大企業が新規事業に着手するときは、多数の意思決定が必要です。社内で検討する時間が増えて、好機を逃してしまうかもしれません。

出向起業ならば意思決定を起業者へ任せられるため、短期間で事業を運営できるようになります。

さらに成功した出向起業を自社で買い取れば、その事業を自社で運営できるようになるのです。自社でシリアルアントレプレナーを確保するような形で、出向起業が増えるほど短期間で複数の新規事業創出が可能となります。

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3.出向起業のデメリット

出向起業のデメリットとして挙げられるのは次の2点です。

  1. 出向元起業:出向起業した社員が独立してしまうと、人材を失うことになる
  2. 出向起業者:個人事業主や自分で会社を設立するケースにくらべ、就業時間や運営などの面で自由度が低い

また出向起業者には、自分で資金を調達しなければならないのです。補助金を申請しても、必ず受けられるわけではありません。補助金を給付する出向起業は公募で採択される必要があるからです。

そのため出向起業者は、補助金を受けられなくても起業に十分な資金を用意しておかなければなりません。

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4.出向起業の手引とは?

経済産業省が公開している出向起業ガイドラインのこと。手引きの作成には、弁護士や公認会計士が携わっています。

出向起業の概要やメリットのほか、出向人材や契約、法令や社内規程などから実施におけるポイントや法令上の解説までを掲載。たとえば以下のような項目が記載されています。

  • 出向起業で創出する事業や、出向させる人材の選び方
  • 出向起業で発明された知的財産権の取り扱い方
  • 出向元の出資が利益供与や寄付金に該当する可能性
  • 兼業や副業に該当する可能性

巻末には、出向起業の事例集、出向起業に似た「スタートアップ起業」の概要、スタートアップ起業のモデル契約書が付属しています。いずれも自社で出向起業を検討する際に役立つでしょう。

参考 出向×起業の手引き『#出向起業』公式サイト

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5.出向起業を支援する補助金制度

新規事業創出を推進すべく、経済産業省が2020年から出向起業を後押しし、「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」を開始。この補助金では、条件を満たせば最大500万円が支給されます。

大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金

経済産業省が発足し、出向起業を希望する大企業の社員を支援する補助金のこと。2022年10月時点に公表された補助金の詳細は以下のとおりです。

  • 対象者:出向起業に該当する事業を起業した社員
  • 補助経費:試作やPoC(概念実証)に要した外注費や委託費、材料費など
  • 補助率:補助経費の1/2、上限500万円(ものづくり関連事業は上限1,000万円、MBO型起業は補助率2/3かつ上限3,000万円)

なおMBO型起業とは、特殊な出向起業の一形態です。具体的には大企業が子会社やジョイントベンチャー会社などを設立し、その会社を経営者や社員が買い取って資本独立させて、新事業創立に向けたスタートアップ組織を作ります。

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6.出向起業の事例

実際に出向起業を検討しているなら、できるだけ多くの事例を参考にするとよいでしょう。出向起業の手引にも6社の事例が掲載されており、そのほかにも事例は多数あります。ここでは3パターンの出向起業事例を紹介しましょう。

  1. 株式会社DIFF. 清水 雄一氏(ミズノ株式会社)
  2. 株式会社リバース 松原 安理佐氏(神姫バス株式会社)
  3. 株式会社Mobirta 田島 昇一氏(株式会社デンソー)

①株式会社DIFF. 清水 雄一氏(ミズノ株式会社)

清水雄一氏は、サッカーシューズを作りたいという思いからミズノに入社。細部までこだわるミズノの職人技に感動を覚えたものの、平均的な足のサイズに合わせて作られていることに疑問を持ち、平均サイズ以外の人たちからもニーズがあると考えました。

そこでミズノの社内応募プログラムに応募。残念ながら落選したものの、新規事業の創出に興味を持った清水氏は、プログラム事務局に参画したのです。

プログラムの企画や運営と並行しながら、自身でユーザーへのヒアリングやビジネスモデルの立案などを進め、「左右別サイズのシューズ販売」事業を考案します。

自社への愛着があったため、退職せずに起業する方法を社長へ相談。スムーズに出向起業が承認され、株式会社DIFF.を設立し、左右別サイズのシューズを販売するECサイトを立ち上げました。

② 株式会社リバース 松原 安理佐氏(神姫バス株式会社)

神姫バス株式会社の不動産事業部に所属していた松原安理佐氏は、入社時から自分で企画を立てて新しいことに取り組みたいと考え、事業戦略部へ異動しました。

しかしコロナ禍でバスの利用客が激減してしまったため、松原氏は、バスのリブランディングに取り組みました。そこで廃車になるバスをサウナやキッチン、シャワールームなどに活用するアイデアなどが生まれたのです。

また大幅な収益減を回復させるために、いち早く新事業を打ち立てる必要がありました。そこでアイデアをスピーディーに実現できる出向起業を選択し、株式会社リバースを設立。2022年2月、ついに移動型サウナバス「サバス」の完成に至りました。

今後はほかのバス会社やタクシー会社などにも、ビジネスモデルを提供していく方針です。

③株式会社Mobirta 田島 昇一氏(株式会社デンソー)

田島昇一氏は、自動車部品メーカーのデンソーで車載コンピュータを製造していました。

しかし自動車業界のすそ野が広がり、さまざまなスタートアップ起業が参画。田島氏は自社の市場シェアが奪われるという危機感を持ち、新たな価値を創造する事業が必要だと考えたのです。

まず社内の新規事業開発プログラムへ参加し、「軽微な衝突を検知する」製品を企画。社内での新事業設立も可能であったものの、どうしても大規模なプロジェクトになってしまうためためらってしまいました。

そしてデンソーの技術を活用しつつ、トライアンドエラーが可能な小規模事業で始めるためには、出向起業という形式が最適だったのです。株式会社Mobirtaでは、これまで検出できなかった軽微な自己を自動検出し、事故の証明レポートを発行するサービスの展開を目指しています。