所得税法とは? 所得税の種類や計算方法について

所得税法とは、年間の個人の所得にかかる税金、つまり所得税について定めた法のことです。ここでは所得税の種類や計算方法について解説します。

1.所得税法とは?

所得税法とは、個人の所得に対して課せられる「所得税」について定めた法のこと。国または地方自治体が法律にもとづいて強制的に徴収する金銭、すなわち租税のなかでも、私たちの生活と特に密接な関わりを持つ税法です。

そもそも所得税とは?

所得税とは、取得(収入からその収入を得るために支出した必要経費を引いて残った金額)のある人が必ず納めなければならない税金のこと。納税者が自分の担税力に応じて租税を負担する「負担の公平」を基本理念としています。

所得税では担税力の指標に所得そのものを取り上げており、担税力を表す指標としては、所得のほかに資産や消費、取引などがあります。

  • 所得:直接税・所得税や法人税など
  • 資産:直接税・相続税や贈与税など
  • 消費:間接税・消費税など
  • 取引:間接税・印紙税など

納税の義務

取得税の納税対象者は、会社員や個人事業主など所得がある人です。会社員は給与から毎月天引きされ、個人事業主は確定申告時期に納税します。

会社員の場合、「源泉徴収」と聞いたほうが分かりやすいでしょう。給与や利子、配当などの所得を支払う者が所得税額を計算し、支払金額から取得税額を差し引いて国に納付する仕組みです。

所得税の納税は義務となっています。不正行為で納税を逃れようとした場合、重加算税や過少申告加算税などが課される場合もあるのです。

所得税とは、所得を得ている社員が公平に納めなければならない税金のこと。税収は、我が国の予算でも非常に大きな割合を占めています

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2.所得税法の規定における4つの柱

所得税法では、個人の能力に応じて負担が決まる「応能負担」の目的を達成するため、以下4つの柱を立てています。

  1. 所得の総合
  2. 超過累進税率の適用
  3. 世帯構成の考慮
  4. 個人的事情への考慮

①所得の総合

所得税とは、毎年1月1日から12月31日まで1年間の所得総合から課税される仕組みのこと。1年間にその人個人が得た所得を合計して課税の対象とする計算方法を「総合課税」と呼ぶのです。

取得税法ではこの総合課税を基本としています。すべての所得を合計したうえで各種所得控除を差し引き、適切な累進課税率を掛けて納税額を計算したのが所得税です。

②超過累進税率の適用

取得税法では「超過累進税率」を採用しています。これは課税標準が大きくなるほど高い税率を課する「累進税率」のひとつ。所得の増加につれて高い税率を適用する仕組みです。所得税だけでなく、相続税や贈与税など累進税を科する際の税率として使われます。

③世帯構成の考慮

所得税法では、家族生活のための費用も考慮されています。配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除や基礎控除などです。所得税法では納税者の税負担能力に配慮する目的で、各人の所得のうち一定金額を課税の対象から除外しています。

④個人的事情への考慮

取得の額が同じでも、各人が置かれた状況によって負担能力は異なると考えられています。そのため所得税法では、以下のような個人的事情についても配慮しているのです。

  • 雑損控除
  • 医療費控除
  • 障がい者控除
  • 寡婦(寡夫)控除

所得税法では超過累進税率を適用し、さらに公平な負担となるよう4つの柱を定めています。いずれも応能負担の目的をよりよく達成するためのものです

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3.所得税法で定められている所得の種類

所得とは「収入」から「必要経費」を引いて残った額のこと。たとえば商品を売って得た金額が収入に、品物を売るために仕入れた代金などが必要経費に、そして収入から必要経費を引いた額が「所得」になるのです。

所得税法では、それぞれの性質に応じて所得の種類を10種類に分類しているのです。それぞれについて解説しましょう。

  1. 利子所得
  2. 配当所得
  3. 不動産所得
  4. 事業所得
  5. 給与所得
  6. 退職所得
  7. 山林所得
  8. 譲渡所得
  9. 一時所得
  10. 雑所得

これらに該当しない遺族年金や損害賠償金などは、一定の要件を満たせば「非課税所得」となり、税金がかかりません。

①利子所得

「利子所得」とは、以下5つの金融機関に金銭を貸した、もしくは預けた場合にもらえる利息のこと。いずれも源泉徴収される前の収入金額がそのまま、利子所得の金額として計算されます。

  • 預貯金の利子:銀行の普通預金や定期預金などの利子
  • 公社債の利子:国債や地方債、社債などの利子
  • 合同運用信託の収益の分配
  • 公社債投資信託の収益の分配
  • 公募公社債等運用投資信託の収益の分配

②配当所得

「配当所得」とは、株主および出資者が受け取る配当金や公募株式投資信託の収益分配金などのこと。たとえば決算配当や中間配当金、投資法人から受ける金銭の分配などです。資産運用にもとづく所得として以下3つの方法から申告できます。

  • 総合課税方式で確定申告をする
  • 申告分離課税方式で確定申告をする
  • 申告不要制度を活用する(源泉徴収方式)

③不動産所得

「不動産所得」とは、土地や建物などの不動産を貸し付けて得た所得のこと。たとえば下記のようなものが該当します。

  • 土地や建物など不動産の貸付け
  • 地上権といった不動産のうえに存する権利の設定および貸付け
  • 船舶や航空機の貸付け

不動産貸付の規模が事業的規模でなされている場合、それは事業所得ではなく不動産所得になります。

④事業所得

「事業所得」とは、以下事業の営みから生じる所得のこと。

  • 農業
  • 漁業
  • 製造業
  • 卸売業
  • 小売業
  • サービス業
  • そのほかの事業

事業所得には次のようなものも含まれます。

  • プロ野球選手やモデルなどの報酬
  • 事業を営む者の社員宿舎の使用料収入
  • 商品が被害に遭い、支払いを受けた損害賠償金

⑤給与所得

「給与所得」とは、給料や賃金、俸給や賞与といった性質を有する給与に係る所得のこと。一定額を超える昼食の弁当代や商品券といった有価証券なども含まれます。給与所得から社会保険などの控除を差し引いて源泉徴収税を確定するのが「年末調整」です。

⑥退職所得

「退職所得」とは、退職によって勤務先から受ける手当のこと。「退職金」と聞いたほうがイメージしやすいでしょう。

社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金のほか、適格退職年金契約にもとづいて生命保険会社や、信託会社から受ける退職一時金なども含まれます。

労働基準法第20条の規定による解雇予告手当や、法律第7条の規定により退職した社員が弁済を受ける未払賃金も退職所得です。

⑦山林所得

なじみの薄い所得のひとつとして「山林所得」があります。山林所得とは、山林の伐採または譲渡による所得のこと。山林経営に伴って長期間発生した所得が、伐採あるいは譲渡によって一時的に実現する点に着目して定められました。

なお山林を取得してから5年以内に伐採また譲渡した場合は山林所得に含まれません。事業所得や雑所得、あるいは譲渡所得になります。

⑧譲渡所得

「譲渡所得」とは、土地や建物、株式や宝石などの資産譲渡によって得られる所得のこと。ここでいう資産の範囲は、土地や借地権、建物や機械など、本来販売を目的としない資産です。

なお「譲渡」とは有償無償関係なく所有資産を移転させる行為のこと。事業用商品の棚卸資産や山林などの譲渡による所得は含まれません。

⑨一時所得

「一時所得」とは、資産の譲渡や役務の対価当に該当しない営利外の所得のこと。たとえば下記のような所得です。

  • 懸賞や福引きの賞金品
  • 生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金
  • 法人から贈与された金品
  • 競馬や競輪の払戻金(いずれも業務に関する受け取りを除く)

一時所得はほかの給与所得や事業所得と損益通算できないため、注意が必要です。

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⑩雑所得

以上9つの所得に該当しない所得を「雑所得」といいます。この雑所得は次の2つに分かれます。

  • 公的年金の雑所得:国民年金や厚生年金、企業年金などの支給による所得
  • 公的年金以外の雑所得:アフィリエイトでの収入、会社員がインターネットオークションで得たお金、個人的に頼まれてセミナーの講師をした場合の謝礼金など

所得の種類はその性質に応じて10種類に分かれます。所得の種類によって計算方法や課税方式が異なるため注意しましょう

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4.各所得の計算方法

一言に「所得」といっても、その実は10種類に分かれます。そのうえ計算方法や課税方式、収入や必要経費の範囲はそれぞれに異なるのです。ここでは各所得の具体的な計算方法について見ていきましょう。

  1. 利子所得の計算
  2. 配当所得の計算
  3. 不動産所得の計算
  4. 事業所得の計算
  5. 給与所得の計算
  6. 退職所得の計算
  7. 山林所得の計算
  8. 譲渡所得の計算
  9. 一時所得の計算
  10. 雑所得の計算

①利子所得の計算

利子所得の計算式は「利子所得の金額=税込の収入金額」です。

源泉徴収される前の収入金額がそのまま利子所得の金額になります。これは利子を受け取る際に原則、20.315%(所得税:15%、地方税:5%、復興特別所得税:0.315%)の税率が差し引かれているためです。

受け取る際は、すでに納付が終わっている状態となります。そのため基本、確定申告の必要はありません。

②配当所得の計算

配当所得の計算式は「配当所得の金額=税込の収入金額-株式などを取得するための借入金の利子(元本の保有期間分のみ)」です。

なお配当所得の課税方式は次の3つから選択できます。上場株式以外の配当は、総合課税もしくは申告不要制度のいずれかになるのです。

  • 申告不要制度:自身が確定申告しなくても自動的に源泉徴収される
  • 総合課税:年間で獲得したほかの所得と合算したうえで税額を計算する
  • 申告分離課税:ほかの所得と分け、個別に税額を計算する

③不動産所得の計算

不動産所得の計算式は「不動産所得の金額=総収入金額-必要経費」です。ここでいう総収入金額には、賃貸料収入のほかに以下のものが含まれます。

  • 名義書換料や承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの
  • 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
  • 共益費といった名目で受け取る電気代・水道代・掃除代など

また必要経費では家事上の経費と明確に区分する必要があります。たとえば固定資産税や損害保険料、修繕費などです。

④事業所得の計算

事業所得の計算式は「事業所得の金額=総収入金額-必要経費」です。総収入金額に含まれるのは次の金額となります。

  • 事業から生ずる売上金額
  • 金銭以外の物品や権利、そのほか経済的利益の価額
  • 商品を自家用に消費した場合、あるいは贈与した場合の商品価額
  • 棚卸資産の損失を受けたことによる保険金や損害賠償金など
  • 空箱や作業くずなどの売却代金
  • 仕入割引やリベート収入

不動産所得と同じく、必要経費に家事上の経費は含まれません。売上原価や地代・家賃、減価償却費などです。

⑤給与所得の計算

給与所得の計算式は「給与所得の金額=源泉徴収される前の収入金額-給与所得控除額」です。給与所得には役員報酬や青色事業専従者の給与なども含まれます。

また給与所得では原則、必要経費を差し引けません。そのため所得税法で定められた「給与所得控除額」を収入金額から差し引いて算出するのです。

給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて6段階に分かれます。ただし給与等の収入金額が660万未満の場合、別途「給与所得控除後の給与等の金額」が適用されるのです。

⑥退職所得の計算

退職所得の計算式は「退職所得の金額=(税込みの収入金額-退職所得控除)×1/2」です。「退職所得控除」は、所得者の勤続年数に応じて異なります。

  • 通常の退職で勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数(最低80万円)
  • 通常の退職で勤続年数が20年を超える場合:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
  • 障がい者になった状況に直接基因した退職の場合:勤続年数20年以下の金額+100万円

⑦山林所得の計算

山林所得の計算式は「山林所得の金額=総収入金額-必要経費-最高50万円の特別控除額」です。山林所得の必要経費には植林費などの取得費をはじめ、下刈費などの育成費や維持管理のための管理費、伐採費や搬出費などが含まれます。

山林所得は山林を長期にわたって育成する点により生じる所得です。その特性から、伐採または譲渡した年から見て15年前の12月31日以前より所有していた場合、概算経費控除の特例が認められています。

⑧譲渡所得の計算

譲渡所得の計算式は「譲渡所得の金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」です。それぞれの言葉の意味は、下記のようになっています。

  • 収入金額:土地や建物を売ったことにより買主から受ける金銭の額
  • 取得費:土地や建物の購入代金や建築代金、設備費や改良費など
  • 譲渡費用:土地や建物を売るために支払った仲介手数料や立退料、名義書換料など
  • 特別控除額:譲渡益が50万円未満の場合はその譲渡益、50万円以上の場合は50万円

⑨一時所得の計算

一時所得の計算式は「一時所得の金額=総収入金額-その収入を得るために支出した金額-一時所得の特別控除額」です。

収入を得るために支出した金額とは、収入を生じた行為をするため、またはその収入を生じた原因にともなって直接必要とした金額のこと。収入を生じない行為はここに含まれません。なお一時所得の特別控除額は以下のとおり定められています。

  • 特別控除額:総収入金額-その収入を得るために支出した金額の残額が50万円未満の場合はその残額、50万円以上の場合は50万円

⑩雑所得の計算

雑所得の金額は、以下の合計額です。

  • 公的年金等の雑所得=収入金額-公的年金等控除額
  • 業務に係るそのほかの雑所得=総収入金額-必要経費
  • 上記2項目以外の所得=総収入金額-必要経費

「公的年金等控除額」は定額控除額と定率控除額の合計額です。具体的な金額は受給者の年齢および年金の収入金額に応じて異なります。

また「業務に係るもの」とは副業に係る収入のうち、営利を目的とした継続的な所得のこと。その年の前々年分の「業務に係る雑所得」の収入金額が300万円を超える場合、「現金預金取引等関係書類」の保存が別途必要になります。

所得の種類によって計算方法は異なるのです。確定申告が必要な場合は、それぞれの意味や計算方法を正しく理解したうえで申告しましょう