社会保険の種類とは?人事労務担当者注目の年末調整・確定申告の処理方法

企業経営において社会保険の理解は単なる法令順守だけでなく、従業員の福利厚生と会社の持続的成長に直結する重要な制度です。特に2024年4月から社会保険の適用範囲が拡大し、多くの中小企業に新たな対応が求められています。

健康保険や厚生年金をはじめとする5種類の社会保険制度の違い、どのような条件で加入が必要になるのか、適切な手続きを怠った場合のリスクなど、人事労務担当者が把握すべき基本知識から実務のポイントまで解説します。

社会保険の5種類と基本知識

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社会保険制度は5種類から構成され、その仕組みを理解することは人事労務担当者にとって必須の知識です。健康保険や介護保険は私たちの医療や介護をサポートし、年金保険は老後の生活における支えとなってくれます。また、雇用保険や労災保険は労働者を支えるための役割があります。これらの社会保険は広義と狭義の区分があり、実務では異なる扱いがされることも多いため注意が必要です。

ここでは各保険制度の仕組みや給付内容、そして実務上の区分について詳しく解説します。社会保険の基本を押さえることで、年末調整や確定申告の処理もスムーズに行えるようになるでしょう。

健康保険と介護保険の仕組みと給付内容

健康保険は、私たちが病気やケガをした際に医療費の負担を軽減する社会保険制度です。加入者が医療機関で受診した場合、医療費の一部(一般的に3割)だけを支払い、残りは保険から給付されます。保険料は事業主と加入者が折半するのが原則で、給与(標準報酬月額)に保険料率を掛けて計算されます。

一方、介護保険は40歳以上が加入する制度で、介護が必要になったときのサービス利用をサポートします。65歳以上の第1号被保険者は原因を問わず利用できますが、40〜64歳の第2号被保険者は特定の16疾患が原因の場合に限られます。

介護サービスを受けるには要介護(要支援)認定が必要で、状態に応じて要支援1〜2、要介護1〜5の7段階に分類されます。サービス利用時の自己負担割合は原則1割ですが、所得に応じて2割や3割になる場合もあります。要介護度別に月々の支給限度額が設定されており、これを超えると全額自己負担となります。

年金保険・雇用保険・労災保険の特徴と役割

厚生年金保険は老齢、障害、死亡に対して給付を行う社会保険制度で、被保険者とその家族の生活を保障します。老齢年金、障害年金、遺族年金などの給付があり、国民年金(基礎年金)と合わせて受給できる仕組みです。

雇用保険は、失業時の生活保障や再就職支援を目的とした制度です。失業給付のほか、育児休業給付金や教育訓練給付金なども提供され、労働者のキャリア形成を支援します。週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者は強制加入となります。

労災保険は業務上や通勤途中の事故・疾病に対応する保険制度です。労働者を一人でも雇用する事業主は必ず加入しなければなりません。

広義と狭義の社会保険の違いと実務上の区分

社会保険という言葉には、広義と狭義のふたつの意味があります。

広義の社会保険 狭義の社会保険
厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5種類すべてを含む 健康保険、厚生年金保険、介護保険の3種類だけを示す
※雇用保険と労災保険は「労働保険」として区別される

実務上は、この狭義の意味で「社会保険」という言葉が使われることが多いため、書類処理の際には注意が必要です。管轄機関も異なり、狭義の社会保険は健康保険組合や協会けんぽ、日本年金機構が担当するのに対し、労働保険は労働基準監督署や公共職業安定所が管轄しています。

保険料負担の面でも違いがあり、狭義の社会保険は労使折半が原則ですが、労災保険は全額事業主負担、雇用保険は労使で負担割合が異なります。人事労務担当者は、これらの区分を理解し、適切な申請先に正確な書類を提出することが重要です。

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社会保険の加入条件と2024年4月からの変更点

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社会保険制度は法人と個人事業主で加入条件が異なり、近年は適用範囲が拡大しています。事業所の規模や業種によって適用基準が変わるほか、2024年には短時間労働者への適用もされました。

社会保険の加入要件は労働条件によって定められ、被扶養者には収入や親族関係の条件があります。適切な加入手続きと認定基準の理解は、企業の法令順守と従業員の福利厚生において重要です。これから社会保険の種類ごとの適用事業所の条件、従業員の加入要件、そして被扶養者認定に必要な条件と手続きについて詳しく解説します。

社会保険の適用事業所となる条件と判断基準

社会保険の適用事業所となる条件は法人と個人事業主で明確に区分されています。法人の場合、従業員数に関わらず強制適用事業所となるため、社長一人の会社でも社会保険への加入義務があります。一方、個人事業所の場合は業種に応じて判断され、製造業や運送業などの特定業種において常時5人以上の従業員を雇用している場合に強制適用となります。

社会保険の適用拡大は段階的に進められており、2024年10月からは従業員数51人以上100人以下の企業で働くパート・アルバイトも、一定条件を満たせば新たに社会保険の適用対象となりました。これは2022年10月に施行された従業員数101人から500人の企業への適用拡大に続くものです。

従業員数のカウント方法は厚生年金保険の被保険者数で判断し、法人の場合は法人番号が同一の全事業所の従業員を合計します。一方、個人事業所は個々の事業所ごとにカウントする点が特徴です。

従業員の加入要件と短時間労働者の適用拡大

社会保険の加入要件は、従業員の労働条件によって定められています。2024年10月から、従業員数51人以上の事業所においても社会保険の適用拡大が実施され、短時間労働者への加入要件が変わりました。

社会保険に加入すべき短時間労働者は、次の条件をすべて満たす方です。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
  3. 2か月を超える雇用の見込みがあること
  4. 学生でないこと(休学中や定時制・通信制の学生は対象)

契約上の労働時間が基準ですが、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となる場合は、3か月目から加入対象となります。

被扶養者認定の条件と確認すべき書類

健康保険の被扶養者認定には、明確な条件があります。被扶養者になれるのは、被保険者の3親等内の親族で、主として被保険者により生計を維持されている方です。具体的には被保険者の配偶者、子、孫、両親、祖父母、兄弟姉妹などが対象となります。

収入条件としては、60歳未満の場合は年間収入130万円未満(月額108,334円未満)、60歳以上または障害年金受給者の場合は年間180万円未満(月額150,000円未満)であることが必要です。また、いずれの場合も被保険者の収入の1/2未満であることが求められます。

別居している場合は、被保険者からの仕送りが被扶養者の収入を上回っていることも条件となります。仕送りは、現金書留や銀行振込など記録に残る方法で行う必要があります。

認定手続きには、収入証明書類(雇用契約書、源泉徴収票など)、別居の場合は送金証明書、住民票などの提出が必要です。2020年4月からは国内居住要件も追加され、海外在住者は特定の条件を満たす必要があります。被扶養者認定は自動的に行われるものではなく、健康保険組合への申請と審査が必要な点に注意しましょう。

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社会保険料の計算と年末調整・確定申告との関係

給与明細の社会保険料部分と紙幣、硬貨
社会保険料は年末調整や確定申告において重要な控除項目となりますが、その計算方法や処理手順は複雑で、多くの人事労務担当者を悩ませています。特に標準報酬月額に基づく計算や労使の負担割合の違い、個人で支払った保険料の取り扱いなど、正確な知識が求められる場面が多いのが実情です。

以下では、社会保険料の計算方法と負担割合、年末調整での正しい処理方法、そして個人事業主と従業員それぞれの確定申告における社会保険料の扱い方について詳しく解説していきます。

社会保険料の計算方法と労使の負担割合

社会保険料は、標準報酬月額と標準賞与額に各保険の保険料率を乗じて計算します。各種保険によって計算方法は共通していますが、保険料率や負担割合に違いがあります。厚生年金保険は2025年現在、保険料率18.3%を適用しており、健康保険と厚生年金保険は原則として労使で折半する仕組みです。

例えば標準報酬月額が30万円の従業員の場合、厚生年金保険料は54,900円となり、従業員と事業主がそれぞれ27,450円ずつ負担します。健康保険料率は協会けんぽの場合、都道府県によって異なります。また、40歳以上の方は介護保険料も負担し、これも労使で折半となります。

雇用保険は業種によって保険料率が異なり、一般の事業では労働者負担0.6%、事業主負担0.95%となっています。労災保険については事業主が保険料を100%負担するため、給与からの控除はありません。

保険の種類 計算方法 労使負担割合
健康保険 標準報酬月額×保険料率 労使折半(原則50%ずつ)
厚生年金保険 標準報酬月額×18.3% 労使折半(原則50%ずつ)
介護保険(40歳以上) 標準報酬月額×介護保険料率 労使折半(原則50%ずつ)
雇用保険 賃金総額×保険料率 業種により異なる(従業員負担分あり)
労災保険 賃金総額×保険料率 事業主100%負担

社会保険料控除と年末調整の正しい処理方法

社会保険料控除は年末調整の重要な手続きです。一般的に給与から天引きされる社会保険料は会社側で把握しているため申告不要ですが、従業員が配偶者や親族の社会保険料を負担している場合は、本人からの申告が必要です。

年末調整では「給与所得者の保険料控除申告書」に記入が必要で、社会保険料控除欄には①社会保険の種類、②支払先名称、③保険料負担者氏名、④年間支払保険料額、⑤控除額合計を記入します。

国民年金保険料など個人で支払った社会保険料については「社会保険料控除証明書」の添付が必須です。国民健康保険や介護保険料は証明書添付は不要ですが、支払証明書類があると安心です。

年度途中入社の従業員は、前職での社会保険料や離職期間中に個人で支払った保険料も控除対象となるため、前職の源泉徴収票と関連書類を合わせて提出するよう案内しましょう。

項目 内容
必要書類 給与所得者の保険料控除申告書、社会保険料控除証明書
記入事項 保険の種類、支払先名称、負担者氏名、支払金額、控除額合計
添付必須の証明書 国民年金保険料、国民年金基金の掛金
特記事項 給与天引き以外で支払った社会保険料が対象、家族分の保険料も控除可能

個人事業主と従業員の確定申告における社会保険料の扱い

確定申告における社会保険料の取り扱いは、個人事業主と従業員で大きく異なります。個人事業主は確定申告で自ら社会保険料控除を申告する必要があり、「所得税及び復興特別所得税の確定申告書」の第一表左下にある「所得から差し引かれる金額」の欄に年間支払った社会保険料の総額を記入します。第二表には内訳も記載しましょう。

会社員と異なり、個人事業主は自分で保険料を納付するため、支払い忘れがないよう注意が必要です。クレジットカード払いを活用すると支払い忘れ防止になり、ポイント獲得や資金準備の余裕も得られます。特に国民年金保険料はまとめて前納すると割引が適用されるため、クレジットカード納付がおすすめです。

社会保険料控除は1年間に支払った保険料全額が所得から控除され、自分だけでなく生計をともにする家族の分も対象となります。確定申告時には保険料支払いを証明する書類の添付も忘れないようにしましょう。

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社会保険実務の効率化とトラブル防止策

キーボードを操作する女性ビジネスパーソン
社会保険に関する実務では、手続きの抜け漏れやタイミングの誤りが大きなリスクとなります。特に各種保険の切り替え時期や未加入時のペナルティは、企業経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

この章では、人事労務担当者が押さえておくべき「社会保険と国民健康保険の切り替え手続き」や「社会保険未加入・手続き遅延のリスク」について解説します。

社会保険と国民健康保険の切り替え手続きと注意点

退職・入社時に欠かせない重要手続きが、社会保険と国民健康保険の切り替えです。社会保険の資格喪失後は、原則14日以内に国民健康保険への加入手続きが必要になります。手続きには、資格喪失証明書や健康保険資格喪失確認通知書などの喪失を証明する書類のほか、本人確認書類とマイナンバー関連書類が必要です。

逆に、入社時は社会保険の資格取得と同時に国民健康保険からの脱退手続きが必要となります。これらの手続きは市区町村の窓口で行いますが、多くの自治体ではマイナポータルを利用した電子申請や郵送での手続きも可能になっています。

切り替え手続きの遅れは保険料の二重払いや資格喪失による医療費全額自己負担といったトラブルにつながります。特に家族が被扶養者となっている場合は、その手続きも忘れないようにしましょう。

社会保険未加入・手続き遅延のリスクと対処法

社会保険未加入や手続き遅延が発覚した場合、企業には厳しいペナルティが課されます。まず、健康保険と厚生年金保険の未加入は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金、雇用保険は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金のリスクがあります。

特に深刻なのは遡及徴収で、未加入が発覚すると最大2年間さかのぼって保険料を支払う必要があります。この場合、本来は従業員が負担する分も含めて事業主が全額負担することになるため、資金繰りを圧迫する事態に発展することも少なくありません。

さらに、延滞金の発生や取引先からの信用低下も避けられません。納付期限を過ぎると督促状が送付され、指定期限内に支払わなければ年利7.3%~14.6%の延滞金が発生します。

未加入が発覚した場合は、速やかに加入手続きを行い、専門家に相談することが重要です。社会保険料の納付が困難な場合は、納付猶予制度の活用も検討しましょう。

ペナルティの種類 内容
刑事罰 健康・厚生年金保険:6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
雇用保険:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
遡及徴収 最大2年間分の保険料を一括納付(従業員負担分含む)
延滞金 年利7.3%~14.6%(延滞期間による)
その他 信用低下、財産調査、差し押さえのリスク

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まとめ

デスクワークする男性ビジネスパーソン
社会保険には健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険という5つの種類があり、広義と狭義に区分されます。各保険制度の仕組みや給付内容を理解することが、適切な人事労務管理の基本となります。

2024年4月からは社会保険の適用範囲が拡大され、より多くの事業所と従業員が加入対象となりました。事業所と従業員それぞれの加入要件を正確に把握し、保険料計算や労使の負担割合についても正しい知識を持つことが重要です。入退社時の手続きや年末調整・確定申告での処理方法を適切に行うことで、社会保険実務のトラブルを未然に防ぐことができます。

ご紹介した社会保険の複雑な手続きや計算方法は、人事労務担当者の大きな負担となっています。健康保険から労災保険まで5種類の保険制度を適切に管理し、2024年の制度改正にも対応するのは容易ではありません。

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