スメルハラスメントとは? 職場のにおい、対策法、伝え方

近年、取り沙汰されるさまざまなハラスメント。そのひとつ、スメルハラスメントをご存知でしょうか。気付かないうちに不快感を与えてしまうやっかいなタイプです。そのため、悪意の有無に限らず相手の気分を害することもあります。

しかし、スメルハラスメントの特徴や注意点をしっかり理解していれば、事前に対処することは可能です。

1.スメルハラスメント(スメハラ)の意味とは?

スメルハラスメントはハラスメントの中でもにおいに関するもの。基本、職場内で起こると考えられており、社内における人間関係をも壊しかねない注意すべき存在でしょう。

においといっても、種類は一つではありません。口臭のイメージが先行しがちですが、

  • 体臭
  • タバコ
  • 香水や柔軟剤の香り

など対象は多いのです。しかも自分のにおいには、気付きにくいため自覚がなくても、気を付ける必要があります。

ハラスメントとは?

ハラスメントという言葉は、さまざまな分野に使われています。セクハラことセクシャルハラスメントや、パワーハラスメントの略であるパワハラ、そしてスメルハラスメントと、分野に限らず用いられているのです。

いずれもいやがらせや不快感を与えるもの。このことからも分かる通りハラスメントの意味は「いやがらせ・いじめ」と定義されています。アルファベットの表記は、「Harassment」。意図的かそうでないかに限らず、相手を不快にさせる、尊厳を傷つける、不利益を与えるといった場合に使われます。

香水や化粧品による「コスメティック・バイオレンス」も

前述したスメルハラスメントのうち、香水に関するものは毛色が違うように見えるでしょう。体臭などによる悪臭と異なり、適度であれば好感の持てる香りです。そのため、どちらもスメルハラスメントと同様に定義する点に、疑問を覚えることもあるでしょう。

香水などのスメルハラスメントについては、コスメティック・バイオレンスという別の名称が用いられる場合も多いのです。香水だけでなく、化粧品の香りも該当します。

職場のスメルハラスメントの訴えに関する現状

スメルハラスメントに関する調査も行われています。対象は25~49歳の働く男女、男性525名・女性503名からなる1,028名。東京・大阪をメインにインターネットを用いて調査されました。

調査では、以下のような設問が設けられました。

  • 職場の身だしなみについて、どうにかして欲しいこととは?
  • 「嫌だ」と感じるニオイはなに?
  • ニオイ(体臭)が気になって仕事に集中できないことがあるかどうか?

職場の身だしなみでどうにかして欲しいことは「ニオイ(体臭)」67.1%

社会において、身だしなみはとても重要。顧客や職場関係、さまざまな点で影響します。調査によると、身だしなみ以上ににおいの問題が大きいようで、高い割合を占めていました。

「職場の身だしなみでどうにかして欲しいこと」のランキングを見ると、

  • 1位:体臭 67.1%
  • 2位:口臭 60.2%

服装や髪型といった一般的な身だしなみを抑えてにおいの問題が上位を占めたのです。また、男性以上に女性のほうが気にしがちという傾向も発表されており、目を引きます。

「嫌だ」と感じるニオイ: 1位「体臭」2位「口臭」3位「タバコのニオイ」

職場で感じるにおいにも、いくつかあります。ビジネスシーンで特に嫌だと感じるにおいは何でしょうか。

  • 1位:体臭 64.9%
  • 2位:口臭 59.3%
  • 3位:タバコのニオイ 55.5%

1位は体臭でした。しかし同じ服を着て一日中忙しく働いていると、それなりのにおいは避けられません。また、個人差があるという点も気にするべきでしょう。

「ニオイ(体臭)が気になって仕事に集中できないことがある」56.2%

においは、不快感だけの問題にとどまりません。業務にすら影響を及ぼすこともあるのです。事実、「ニオイ(体臭)が気になって仕事に集中できないことがあるか」という設問では、56.2%もの人が「ある」と答えました。

また、自分のにおいと他人のにおい、どちらが気になるかという調査では、やはり他人のほうが気になりやすいようで、約3人に1人の割合という結果が出ています。以上のことから気をつけるべきハラスメントといえるでしょう。

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2.なぜ臭うのか? 体臭の原因とメカニズム

体臭はなぜ起こるのでしょう。

  • 時間が経つとにおう
  • 汗をかくとにおう

など単純に把握しているかもしれませんが、そもそもにおいがどのようなメカニズムで発生しているかまでも詳しく知る人は少ないでしょう。

においは、皮膚ガスこと皮膚から発生しているガスが影響しているそうです。またガスは、いくつかの経路で発生するといわれています。それぞれの経路を知っておけば、ピンポイントに対策できるでしょう。

皮膚ガスとは?

皮膚ガスの定義は、主に人の体の表面から放散される、微量のガスの総称。おならのようにはっきり出ているわけではありませんが全身さまざまな部位から放出されているのです。代表的な経路は、

  1. 血液
  2. 皮脂腺
  3. 表面反応

の3種類。詳しくご紹介します。

①血液由来

血液由来といっても、出血時に出るガスではありません。血管中を流れる状態でも揮発するガスのため、ケガをしていない平常時でも発生します。

また、血液そのものでなく、血中成分の一部がガスのもととなる点も特徴的。

  • 飲酒時のアルコールを分解するアセトアルデヒド
  • 疲労時に生じるアンモニア

が代表的です。

②皮脂腺由来

いわゆる、すっぱいような印象が特徴の汗のにおいで、皮膚内部にある汗腺や脂腺から、生じるガス。すっぱいように感じる通り、汗の中の酢酸が主な成分です。

その他の成分には、アンモニアや皮脂成分も挙げられます。特徴は常在菌や過酸化物は介在しないもののみが皮脂腺由来ガスです。

③表面反応由来

常在菌や過酸化物を要因とするのが表面反応由来のガス。発生元は皮膚の表面で、

  • ジアセチル:皮膚上に存在する常在菌が汗の中に含まれる乳酸を代謝することで発生
  • 2-ノネナール:皮膚表面に出てきた皮脂と過酸化物が反応して発生

が代表的です。皮膚表面で反応して発生するため、表面反応由来と名付けられています。

ジアセチルとは?

ジアセチルはいわゆる加齢臭、ミドル脂臭といった、嫌がられるにおいの代表格。表面反応由来で発生するガスで、におい成分の中でも特に注意したい存在でしょう。前述の通り、汗中の乳酸を皮膚常在菌が代謝することで発生し、においの中でも不快に感じられやすいのです。

時間帯によって放散量が変動する点もポイント。特に昼食時や午後に発生しやすいので、このタイミングでのケアは欠かせません。

30~40代の男性のジアセチル放散量が圧倒的に多い

においの測定法として一般的なのは、「パッシブ・フラックス・サンプラー」ことPFS。小型デバイスによって、微量な皮膚ガスを採取する方式です。

これによると、20~59歳男女のジアセチルを捕集したところ、特に30~40代の男性に多く見られたというデータが公表されています。まさに、ミドル脂臭といった結果でしょう。とはいえ、女性にも微量ながら検出されているそうなので、性別に限らず油断はなりません。

距離は25センチ圏内がにおいやすい

体から発せられるにおいは、近づくほどにおい、離れるとにおわなくなります。実際、どれくらいの距離がにおいやすいのでしょう。

調査結果では、特に25センチ圏内がにおいを感じやすかったそうです。においが気になる際は、他人から25センチ以上離れる意識を持つとよいでしょう。ただ、この測定環境は換気のされたオフィス内だったそうです。換気されていない空間では注意が必要でしょう。

頭上ににおいは集まりやすい

皮膚からにおいが出やすいとなると、露出した肌に注意がいきがちです。しかし、全身が平均的ににおっているわけではありません。

実は、体臭はある一点…頭上に集中するという特徴を持つのです。人間は発熱体なので、上昇気流によって全身のにおいが頭上に集まります。特にジアセチルは首や頭部に発生しやすいという現象が顕著に見られるのです。

食事中に放散量が上昇しやすい

ジアセチル臭の発生で特徴的なのが、昼食時に多い点。ランチ後のオフィスなどでは、気を付けなくてはなりません。食事の際には、ジアセチルのもととなる汗が出やすいことから、においも発生しやすいのです。

またあるデータによると、1週間のうち木曜日や日曜日ににおいやすかったという結果が出ています。気温や疲労など、さまざまな条件に影響されやすいのかもしれません。

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3.なぜスメルハラスメントは起こるのか? 問題化する理由

人間が生き物である以上、においが発生するのは仕方のないことです。だからといって、周囲の不快感までをも仕方ないという理由だけで片付けることはできません。においは人間関係にも影響を及ぼすからです。

スメルハラスメントはなぜ起こってしまうのでしょう。理由さえ分かれば、においを完全に遮断できないとしても解決法が考えられるかもしれません。問題化の理由について、掘り下げていきましょう。

においが迷惑になる理由

ハラスメントは、迷惑、不快に感じられる行為のこと。その点、基本的に悪意を伴わないハラスメントであるにおいは、少し異質とさえいえます。なぜにおいが迷惑になるのでしょう。

においを感じる嗅覚は、記憶と強く結び付いているといわれています。つまりにおいによる不快感は、長時間・長期間にわたり記憶に刻まれ続けるのです。良いにおいなら好印象につながる一方、不快なにおいはネガティブな印象として長く尾を引くでしょう。

自分のにおいには、なかなか気付くことができない

そもそも、不快に感じるほどのにおいを有しているなら、周囲に気を遣うべきでしょう。スメルハラスメントという言葉が取りざたされている昨今。ケアに注意を払うのは当然に
思えますが、意外と気を回すことができません。

その理由は、自分のにおいは自分で気付きにくい点。強いにおいでも、長時間その環境に居続けると嗅覚は順応を起こします。このような馴れてしまってにおいが分からなくなることを、馴化と表現しますが自分のにおいにおいては、この馴化が起こりやすいのです。

相談・指摘しにくい

パワハラやセクハラなど、相手に明確な悪意が伴う場合、周囲に相談が可能でしょう。しかし、スメルハラスメントは悪意が伴わないため、難しいです。

上司ににおいを注意するのは、失礼に当たりますし、同僚や部下であってもそれは同じでしょう。しかし、においは気にならない人には気付いてもらいにくいですし、該当者の体調や体質なども絡むため、相談・指摘しにくいのです。

スメルハラスメントは、他のハラスメント以上にデリケートといえます。

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4.会社で起こるスメルハラスメントの対処法

スメルハラスメントが指摘しにくいといっても、限界があります。仕事の能率が下がる、健康に影響するといった事態に発展することもあるでしょう。ここで重要となるのが、人間関係に波風を立てにくい対処法です。

スメルハラスメントの特性や、具体的な対処法を把握しておけば、影響が少ない時点で事態を改善できるかもしれません。以下にポイントやお勧めの対処方法をまとめましたので、参考にしてください。

なぜ対処が難しいのか?

目に見えないにおいとはいえ、重大な問題に他なりません。実際、においの問題で人間関係がこじれることも少なくないようです。気付きにくい問題のため、当人はどうすることもできません。かといって、職場では身近に接しなければならないケースも多々。人間関係のこじれは、悪化する一方でしょう。

またさらに問題なのが、前述でも触れている指摘のしにくさです。

  • 人間関係を悪化させたくない
  • 相手を傷つけたらどうしよう

そんな思いは、アクションを起こしにくくさせます。

人事部の基本的な対応姿勢

スメルハラスメントへの対応は基本、人事部や人事担当者が行うべきでしょう。社員個人間でセンシティブなにおいの問題を指摘し合うのは、リスクを伴います。当人を傷つける可能性はもちろん、指摘を発端として陰湿ないじめに発展する可能性も出てきます。

その点人の扱いを専門とする人事部からアクションを起こせば、感情のベクトルは対人事部、対会社となるため、職場の人間関係におけるこじれには影響しにくいです。

注意点:スメハラ加害者への指導がセクハラやパワハラと見なされることも

スメルハラスメントは、ハラスメントの中でも決定的な問題にはなりにくい部類に属します。パワハラやセクハラと比べて、重みという意味ではやや軽めでしょう。社則でピンポイントに罰則を規定しているような会社はあまりないはずです。

ですが、スメルハラスメントを行ってしまっている当人に対しての指摘が、パワハラやセクハラに該当する可能性は大いにあり得ます。

  • 強制的なにおいの改善要求
  • 性的いじめに近い指摘

など。スメルハラスメントも軽い問題ではありません。気を付けましょう。

具体的な対応方法

スメルハラスメントは、デリケートでセンシティブな問題であることが多いため、本人に直接注意をすることは困難です。においに耐えられない場合、上司や人事部などに相談する場合もあるでしょう。

上司に相談して解決すればよいですが、においの感じ方には個人差があります。上司が問題視せずに注意しない、もしくは上司も注意できない場合人事部や総務部で解決する必要があります。どのような対処をしたらいいのでしょうか。

①席替えをする

スメルハラスメントの被害を訴えている社員を、においのもとである社員の席から離すため席替えをします。次に隣になった社員がにおいに敏感でなければ、これで解決する場合もあるでしょう。

②消臭対策をする

職場やエレベーター、会議室など、苦情が出そうな場所に芳香剤や消臭剤を置いたり、空気清浄機を設置したりして対処します。

③本人に注意喚起する

①と②はすぐに行える対策です。しかし根本的な解決にはなっていません。においのもととなる社員本人が自覚して改善しなければ、またいつか同じ訴えがあがるかもしれないのです。

そう考えると本人に注意を促すことが一番でしょう。しかしデリケートな問題だけに伝え方は難しいです。その社員が信頼している上司がいれば、上司から1対1の場面で伝えるようにしましょう。これにより傷つきにくいですし、真摯に受け止めてもくれるでしょう。

しかし、伝え方を間違えると「パワハラだ」となりかねません。直属の上司ではなく人事部から話すほうがよい場合もあります。その場合は、「ビジネスマナーとしてにおいのケアも大切である」点を伝えましょう。

防止対策

スメルハラスメントを起こさないためには日頃から人事部主導で防止対策を行うことが大切です。

人事部が社員に対して面談などで注意を促す際、日頃からスメルハラスメントについて社内で取り組んでいるという実績があれば、理解されやすいでしょう。人事部としてできるスメルハラスメントの防止対策を紹介します。

①人事研修などでスメルハラスメントについての理解を深める

人事研修でスメルハラスメントについて触れ、 においのエチケットは身だしなみとともに気を付けることと周知しましょう。また、身だしなみと思って使っている香水も場合によってはスメルハラスメントになることを理解してもらいましょう。マナー研修などがあれば、その中で取り上げるとよいです。

②社内広報誌などで理解を深める

社内広報誌などでもスメルハラスメントについて取り上げて、どのようなケアをしていけばいいかなど具体的に紹介しましょう。

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5.トラブルに発展しにくい注意の仕方例

ハラスメントは、感覚的な問題にとどまらないため扱いにくいのです。遠まわしに察してもらう手法も有効ですが、明確な変化を実現するには時間がかかるでしょう。

どうしても指摘しなければならない空気になっている、そんなときはどのようにすればよいのでしょうか。指摘を実際に行いながらも、問題化を最小限にとどめられるよう、工夫してみてください。

ランチなどで気軽に話題にしてみる

通勤時や仕事中と違って、肩の力を抜ける時間となるのがランチ。つかの間の休息、心許せるひとときのため、気兼ねなく話に花を咲かせられます。そんなランチのときにさりげなく指摘してみてはいかがでしょうか。

指摘といっても、個人の感想をストレートにぶつけることは避けてください。

  • 周囲でそんな話が出ているみたい
  • スメルハラスメントへの取り組みが話題になっている

そんな具合にさりげなく伝えるとよいでしょう。

マナーの観点から指摘

確かに、においの問題はセンシティブですが、マナーから考えれば、ごく当たり前のことでもあります。そのためマナーという名目から伝えることは間違いではありません。しかしこの際、上司をはじめとした上の人間から伝えるよう心掛けてください。

それから「マナー上」「上司として」といった枕詞を、必ず使用しましょう。これにより個人の伝達ではなく、立場や常識の観点から伝えるかたちがつくれます。これなら、人間関係の問題は起こりにくいでしょう。