職務分掌とは? 業務分掌との違い、メリット、規定の作り方

職務分掌とは会社や組織の部署や部門、担当者などの役割を明確にすること。今回は職務分掌について解説します。

1.職務分掌とは?

職務分掌とは、組織にて役職者や担当者それぞれが果たすべき責任や、職責をまっとうするうえで必要な職権を明確にし、その権限を適切に整理・配分することです。「だれがどのような仕事をすべきか」と「その仕事を遂行するためにどのような権限が必要か」を決め、規定や表にまとめます。

社員一人ひとりの仕事内容とその責任がはっきりするため、負担軽減や業務効率化、不正防止などさまざまな効果が期待できるのです。大企業では職務分掌を積極的に取り入れる傾向にあります。しかし近年、ベンチャー企業にも浸透しつつあるようです。

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業務分掌との違い

2つの違いは下記のとおりです。

  • 職務分掌:「人」が果たすべき役割と責任
  • 業務分掌は「部署や部門」が果たすべき役割と責任。より具体的な仕事内容が記載される

たとえば人事課の業務分掌なら、「人材採用計画の立案と実施」や「給与制度の運用生に関する業務」など、課全体が担当する業務を明確にするのです。

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職務権限との違い

職務権限とは、職務ごとに設定された決定権。たとえば一社員には採用や内定を決める権限はありませんが、人事部課長や部長などは採用や内定を決められます。これは、課長や部長には採用や内定に関する職務権限が付与されていることです。

責任の所在を明確にする職務分掌とは意味合いが異なります。

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2.職務分掌の必要性

大きな組織ほど、職務分掌の規程を定めているところが多い傾向にあります。効率化や混乱防止などにくわえて、下記のような必要性があるのです。

  1. 内部監査
  2. 上場審査

①内部監査

大きな企業が内部監査を行う際、まず内部監査人は職務分掌をチェックします。職務分掌がないと、内部統制が取れていない証拠になるからです。

まただれが何をするのかが明確になっておらず責任の所在がはっきりしないため、業務の漏れやミス、不正なども起こりかねません。そのため職務分掌がない場合、内部監査から職務分掌を作成するよう指示されるでしょう。

②上場審査

会社が上場するときの審査で職務分掌が必要になります。上場審査の際、さまざまな規定を提出し、業務実態への適合や規定間の整合性、法令の遵守などをチェックしてもらうのです。そのうち組織運営に関する規定に職務分掌が含まれています。

「適切な権限と責任の委譲が行われ、職務分掌が明確になっている」「職務権限の規定に定められた権限を持った人が承認している」と確認できれば、規程どおりの運用がなされていると評価されるのです。

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3.職務分掌のメリット

職務分掌を作成するメリットは何でしょうか。ここでは職務分掌を作成する4つのメリットについて説明します。

  1. リスクマネジメントと内部統制の強化
  2. 責任範囲の明確化
  3. 担当外の業務によるストレスの軽減
  4. 人材育成の効率化

①リスクマネジメントと内部統制の強化

社員それぞれの職務と有する権限、また責任の範囲が明確になるため、不正行為を抑えながら組織を健全に運営できます。つまりリスクマネジメントと内部統制を強化できるのです。

たとえばだれもが機密情報や金銭を扱えるとなると、情報漏えいや横領といった不正が行われても「だれがやったか」を特定するのは難しいでしょう。

職務分掌で権限や職務が明確になっていればすぐに原因と担当者を特定できますし、同様の不正行為を抑制する効果が期待できます。

②責任範囲の明確化

仕事における責任の所在がはっきりとしているので、社員一人ひとりが責任感を持って仕事を進められます。職務分掌が明確になっていれば、ミスやトラブルがあった際に他人のせいにはできません。

また職務分掌で仕事の責任者が明確になれば、だれも手をつけない・放置されてしまった仕事をなくせます。業務が円滑に進められる点も職務分掌を作成するメリットです。

③担当外の業務によるストレスの軽減

自分の担当ではない分野の仕事がなくなるため、社員のストレスが軽減されます。たとえば自社製品の購買を目的としたWebサイトの運営を総務部が担当していたとしましょう。しかし実際、顧客から問い合わせがあった際、対応するのは営業部です。

それであればWebサイトの運営は営業部内で行うべきでしょう。職務分掌で職務と責任を明確にすれば、社員は本来の仕事だけに注力できるため、ストレスも減っていきます。

④人材育成の効率化

職務分掌を明確にすると、一人ひとりの職務とその職務に必要な知識やスキルのほか、だれが部下の育成責務を持つかが決まります。それによって人材育成を効率的に進められるのです。

必要な知識やスキルが明確なので目標設定がしやすくなり、社員も目標達成への意欲が生まれやすくなります。「業務に関係のない作業や知識を覚えさせてしまった」や「ほかの人が教育すると思っていた」などの失敗も避けられるでしょう。

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4.職務分掌のデメリット

職務分掌はデメリットにつながる場合もあります。注意すべきデメリットについて知っておきましょう。

  1. 範囲が不明確な業務の押し付け
  2. 分掌された業務内容によるモチベーション低下
  3. 指示系統の硬直

①範囲が不明確な業務の押し付け

自分の職務と責任というのが明確になるがゆえ、担当以外の仕事が発生すると、その仕事に責任を持つ人がいない状態になります。「自分の仕事ではない」とほかの人に仕事を押し付けてしまうことが考えられるのです。

このような押し付け合いは、一社員間だけでなく部門の管理職間でも起こりえるでしょう。あらかじめイレギュラーな業務の担当者を決めておくべきです。

②分掌された業務内容によるモチベーション低下

職務分掌で自分が本来やりたかった仕事に携われなくなると、社員のモチベーションが下がってしまいます。また自分の仕事を遂行するだけになり、ほかの人の仕事に関心がなくなっていくのです。

このような状況は生産性や作業効率の低下につながりかねません。定期的にジョブローテーションして、やりたかった仕事以外でさまざまな仕事に携わる機会を作るとよいでしょう。

③指示系統の硬直

職務における権限を明確にした結果、上司の許可や指示がなければ仕事を進められないという状況になる場合もあります。これが指示系統の硬直化です。社員が上司の指示を待っていては、効率や生産性も低下してしまうでしょう。

このような状況を防ぐには、「ある程度の権限を社員へ付与する」「目標制度や評価制度を活用して仕事に対する自主性を持たせる」ことが重要です。

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5.職務分掌を定める手順

職務分掌を作成する際、組織図や関連書類もあわせて作成する必要があります。ここでは職務分掌を作成する手順について説明しましょう。

  1. 全社員に事前了承を取る
  2. 重要項目の決定
  3. 組織図の作成
  4. 関連書類の作成
  5. 職務分掌規程の作成

①全社員に事前了承を取る

職務分掌の制定について経営者と全社員から了承を得ましょう。経営者が許可しなければ勝手に職務分掌を定められませんし、実際に定めていくには全社員の協力が不可欠です。職務分掌制定の目的を明確に伝えると、全社員からの了承を得やすいでしょう。

②重要項目の決定

職務分掌を定める際、職務内容や権限、責任の3つを決めなければなりません。ここではそれぞれを決めるときの注意点を説明します。

業務の内容

それぞれの社員が担当する業務を決めるには、どのような業務があるのか、あるいは必要なのかを把握しなければなりません。収集すべきは以下の業務になります。

  • 経営者が欠かせないと思う業務
  • 管理者の業務
  • 一般社員の業務

経営者と管理者の意見をヒアリングし、部門や部署でやるべき仕事をまとめましょう。そのあとに一般社員の意見をヒアリングし、実作業を把握。すべての業務を把握できたら、最適な部署や役職へ振り分けていきましょう。

責任の範囲

部署や役職、個人の業務が明らかになったら、それぞれがどのような責任を負うかを決めます。

たとえば一般社員がミスやトラブルを起こしてしまった際、内容や発生状況によっては、指示を出した上司や会社が責任を取る形になります。「ここまでは個人が対応し、それ以上は上司が対応」など責任範囲を明確にする必要があるでしょう。

権限の範囲

各社員の職務と責任が決まれば、業務を遂行するために必要な権限が判明します。権限は関連部署も含めて検討するとよいでしょう。

たとえば人事データは人事評価や給与計算、手続きや申請などで必要となります。そのため人事や経理、総務などの関連部署および業務の担当者には、人事データの閲覧権限を付与しなければならないでしょう。

③組織図の作成

職務分掌が定まったら会社全体の組織図(役職や担当者をツリー形式で図表化したもので、組織の内部構成と指示系統を表す)を作成します。

会社全体の組織図を作成したら、部署ごとの組織図も作りましょう。全体の組織図に盛り込んでしまうと記載内容が膨大になってしまい、部署ごとの役職や担当者などがわかりにくくなってしまうからです。

④関連書類の作成

関連書類として挙げられるのは、以下の4つです。

  • 職務分担一覧表:それぞれの職務の担当者と重要度をまとめたもの
  • 職務基準書:職務分担一覧表で抽出した仕事の詳細や難易度、目標や成果などをまとめたもの
  • 職能基準書:職務基準書を参考に職務の内容や責任、必要な知識や技能の要件などを明確に示したもの
  • 職務・職能基準表:職務基準書と職能基準書をまとめてひとつにしたもの

⑤職務分掌規程の作成

職務分掌規程を作成して職務分掌を明文化し、つねにだれでも閲覧できるようにしておきます。イレギュラーな業務あるいはミスやトラブルが発生した際に、だれが対応すべきかをすぐに調べられるからです。

なお職務分掌規程は社内規則のひとつであるものの、労働基準監督署への届出は不要です。

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6.職務分掌規程の作り方

ここでは職務分掌既定の作成方法を3つ紹介します。なお省庁から職務分掌規程の書式について指定はありません。

  1. テンプレートを利用する
  2. 社労士といった専門家に作成を依頼する
  3. 業務システムの作成支援機能を使う

①テンプレートを利用する

インターネットから無料でダウンロードできるテンプレートを使うと、作成がスムーズです。多くはWordファイルで作られているため、カスタマイズもしやすいでしょう。社会保険労務士事務所が提供しているテンプレートならより安心できます。

②社労士といった専門家に作成を依頼する

自社での作成が難しい場合、社会保険労務士といった専門家に任せるとよいでしょう。労使トラブルや最新の法令、裁判の判例などを踏まえたうえで最適な職務分掌規程を作成してくれます。また関連する規程や書類の作成も依頼できるのです。

③業務システムの作成支援機能を使う

人事システムや会計システムなどで職務分掌規程を作成できる場合があります。いずれも会社の業務システムとして使用される場合が多いです。自社で導入しているシステムに職務分掌規程作成機能があるか、確認してみましょう。

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7.そのほかの社内規程

社内規程とは会社が独自に定めたルールをまとめたもの。実は企業理念や経営理念なども規程に含まれるのです。ここでは4つの社内規程について説明します。

  1. 経営規程
  2. 人事規程
  3. 総務規程
  4. 組織規程

①経営規程

会社の設立や運営に関する重要な規程。たとえば以下のものです。そのほか取締役規程や役員規程、規程管理規程などもあります。

  • 定款:会社の目的や所在地、出資額や発起人などが書かれたもの
  • 取締役会規程:締役会の構成や開催、議題や決議、報告などについて定めたもの
  • 取締役会議事録および株主総会議事録:会議の経過や出された意見、決議された事項などを記載したもの

②人事規程

社員の就業や処遇などに関する規程。たとえば以下のものです。そのほか転勤や出張、退職金などに関する規程もあります。

  • 就業規則:労働条件や職務上の規則をまとめたもの
  • 賃金規程:賃金の決定方法や計算方法、支払い日などをまとめたもの
  • 育児・介護休業等に関する規程:育児や介護が理由の休暇や休業の取得や期間、労働時間短縮などについて定めたもの
  • 人事評価規程:人事評価の方法や適用範囲、評価項目などをまとめたもの

③総務規程

円滑な会社運営に必要な機密情報や安全管理の管理などを定めた規程。たとえば以下のものです。そのほか規程の改廃をまとめた規程管理規程もあります。

  • 株主取扱規程:自社株式の取得や発行、株主の権利などをまとめたもの
  • 文書管理規程:社内外文書の保管や破棄、規程の適用範囲や罰則などをまとめたもの
  • 印章管理規程:社印や業務で使用する印章の種類や使用範囲、保管や管理責任者などをまとめたもの
  • 営業秘密管理規程:生産方法や販売方法などの営業秘密の保護や管理についてまとめたもの

④組織規程

組織の業務や職位、権限などをまとめた規程。たとえば以下のものです。

  • 組織図:組織の内部構造を記載した図
  • 稟議規程:稟議事項の基準や手続きなどをまとめたもの
  • 職務権限規程:各役職に付与される権限範囲をまとめたもの
  • 業務分掌規程:部署や部門などの業務の役割と責任、権限をまとめたもの
  • 職務分掌規程:各職位の役割と責任、権限をまとめたもの
  • 関係会社管理規程:子会社や関係会社の定義や業務、管理などについてまとめたもの