ナラティブとは?【意味をわかりやすく】ストーリーとの違い

ナラティブは、ビジネスシーンだけでなく、医療や教育の現場で多く使われる言葉です。意味やナラティブアプローチ、活用方法などについて見ていきます。

1.ナラティブ(narrative)とは?

ナラティブ(narrative)とは、「物語」「話術」「語り」といった意味を持つ言葉です。ビジネスシーンでは、「ナラティブマーケティング」「ナラティブアプローチ」といった言葉で使われ、相手(患者、部下、顧客など)視点での物語を重視することで、問題解決に役立てます。

そもそも文学理論の用語

ナラティブはもともと、文学理論の用語として用いられてきました。1960年代、フランス構造主義を中心とした物語の役割について関心が高まるなか、後述する「ストーリー」と異なる文芸理論上の用語として定着したといわれています。

現代では文学、言語学の領域をはるかに超え、心理や教育、医療や社会などさまざまな領域で使われるようになりました。

なお映画や演劇などで物語を語る「ナレーション」や、声によって解説を行う「ナレーター」などもこの「ナラティブ」という言葉から広がったものです。

ナラティブとストーリーの違い

ナラティブ(narrative)を直訳すると「物語」や「話術」、「語り」といった意味になります。似た英語としてあげられるのが、聞き馴染みのある「ストーリー(story)」という単語です。

「ストーリー」では物語の内容や筋書きを指します。主人公はじめ登場人物を中心に起承転結が展開されるため、そこに聞き手はおろか、語り手も介在しません。

一方の「ナラティブ」は語り手自身が紡いでいく物語です。主人公は登場人物ではなく語り手となる話者自身。変化し続ける物語に終わりはありません。ストーリーとナラティブは、「主人公は誰か」「完結しているか」などのニュアンスがわずかに異なるのです。

ナラティブアプローチとは?

1990年代、臨床心理学の領域から生まれた支援療法に「ナラティブアプローチ」と呼ばれるものがあります。

カウンセリングの際、患者自身が自分の物語、すなわちナラティブを語って抱えている問題を解決しようとするアプローチです。これにより、患者自身が持つ能力や価値観などの肯定、患者が抱える負の影響を減らせると考えられています。

ドミナント・ストーリーを聴くこと

心理療法家エプストンとホワイトは、患者の状況を支配する物語を「ドミナント・ストーリー」と呼びました。ドミナント・ストーリーとは思い込みの物語のこと。

たとえば「女性が家庭内で家事をするのは当然」「自分は部下に嫌われている」というように、患者が置かれている精神的な苦痛のもととなる「支配的なドミナント・ストーリー」を聴くための方法が「ナラティブアプローチ」です。

問題を外在化し、反省的な質問をする

ナラティブアプローチでは、ドミナント・ストーリーを聞くことで問題を外在化し、悩んでいる人が問題を客観視できるようにするのです。

そこに「具体的に誰があなたを嫌っているのですか?」「どのような出来事があって部下に嫌われると感じたのですか?」といった反省的な質問を投げかけます。

目的は、どのような経験が問題に関わっているのかを本人に問いかけ、一緒に考えて例外的な答えを見つけ出すこと。質問のなかで「部下は自分によく相談してくれる」と分かれば、次の「オルタナティブ・ストーリー」を構築できます。

オルタナティブ・ストーリーを構築する

聞き出したドミナント・ストーリーに反省的な質問を投げ、別の角度から見た物語「オルタナティブ・ストーリー」に置き換えていくことが「ナラティブアプローチ」のゴールです。

「相談されているというのはつまり、は部下から信頼されているという意味では?」と、対話によって例外的なストーリーの発見を促し、患者が新しい意味に気付けるアプローチといえます。

組織内におけるナラティブアプローチのポイント

ナラティブアプローチは心理療法の領域や対ユーザーだけでなく、組織における上司や部下、経営と現場の対立を解消するためにも有効な手段です。組織内でナラティブアプローチを活用する際、どのような点がポイントになるのでしょうか。

  1. 傾聴する
  2. 問題を外在化させる
  3. 対話する

①傾聴する

ナラティブアプローチを実践する際はまず、相手の「ドミナント・ストーリー」を聴くことから始まります。上司が部下から相談を受けるシーンについて想定するとイメージしやすいでしょう。

相談を受けた上司は話の途中で指摘や見解を伝えるのではなく、部下の話にとことん耳を傾けるて、部下の「思い」と「立場」を顕在化し、問題点を探っていくのです。

傾聴とは?【意味・目的ややり方を簡単にわかりやすく解説】
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②問題を外在化させる

次に部下が抱える悩みや課題を次々と言葉に出させ、問題を外在化させます。これは主観的だった問題を客観的に捉えるための第一歩。正しい問題と目標設定を支援する際、課題の外在化は欠かせません。

「問題に対して名前を付けて、問題を抱える本人と問題そのものを切り離す」「客観的に捉える機会を作る」ことが目的です。

③対話する

「課題を外在化する」「反省的な質問をとおして例外的要素に気付かせる」つまり「対話」によって真に向き合うべき課題が発見されます。

ここでいう「対話」とは、相手が語ることをそのまま受け止めるのではなく、状況も含めた相手をよく知ること。表面的な同意から対話は生まれません。「お互いについて実は分かっていない」と同意する点から、真の課題が見えてくるのです。

メディア作品における「ナラティブ」の使われ方、一例

ナラティブがさまざまな分野に浸透している点は、メディア作品の領域からもうかがい知れます。ここでは2018年に全国の劇場で公開されたアニメーション映画「機動戦士ガンダムNT」の例を見てみましょう。

機動戦士ガンダムNT

「機動戦士ガンダムNT」のNTは「ナラティブ(narrative)」です。ナレーター(語り手)に近い「語り直す」や「編集する」といった意味を持つナラティブという単語と、ガンダムシリーズでは重要なキーワード「ニュータイプ」を掛け合わせました。

また作中に登場する「ナラティブガンダム」には、「定義するもの」「新たなニュータイプのナラティブ(物語)を紡ぎだすもの」という意味があるともいわれています。

ナラティブははじめ、文学理論の用語として使われ、やがて臨床心理や医療現場にも浸透しました。今やメディア作品や企業内でも使われる用語となったのです

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2.ビジネスシーンにおけるナラティブの活用

幅広い分野で使用されるようになったナラティブ。ここではビジネスシーンにおけるナラティブの活用について、もう少し詳しく見ていきましょう。ナラティブという概念は、ビジネスの現場でどのように使われているのでしょうか。

ナラティブマーケティング

ナラティブマーケティングとは、ユーザーそれぞれが語る自身のストーリーにアプローチしたマーケティング手法のこと。つまり主役は売り手ではなくユーザー自身です。ユーザーそれぞれを主人公とし、当人が語る物語に対してアプローチを行います。

日本ではあまり知られていないものの、世界では次世代のマーケティング方法として主流になっているのです。

ナラティブマーケティングのメリット

ユーザーの物語を聴き、それにフィットしたアプローチを行うナラティブマーケティングにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは下記3つから、ナラティブマーケティングのメリットについて見ていきます。

  1. ストーリーテリングマーケティングの問題点を克服
  2. リピート率の向上
  3. ユーザーのニーズに合った商品・サービスが開発できる

①ストーリーテリングマーケティングの問題点を克服

ユーザーとのコミュニケーションといえばこれまで、売り手が商品やサービスについてのストーリーをユーザーに伝える一方的なアプローチ「ストーリーテリングマーケティング」が主流でした。

ここにはブランドに付加価値を付け、売上を出すことが目的にあるため、ユーザー自身の物語はほとんど関与しなかったのです。

そこでユーザーを主役として、「ユーザーから好感を得にくい」「商品の本質がユーザーに届きにくい」といったストーリーテリングマーケティングの問題を克服したのがナラティブマーケティングでした。

②リピート率の向上

ユーザー自身を主人公としたナラティブマーケティングを活用すると、ユーザーは商品やサービスに好感を持ちやすくなります。ユーザーからの好感が得られれば当然商品は売れ、リピート率も上がるでしょう。

売り手目線で一方的に用意された商品やサービスと、ユーザーのニーズに絞って用意された商品やサービス。どちらのリピーターになりたいかはいうまでもありません。

③ユーザーのニーズに合った商品・サービスが開発できる

たとえば丈夫な皮の靴を想像してみてください。

「この靴はこの職人がこう加工したから何十年でも使える」とアプローチするのがストーリーテリングマーケティング

「年月とともに皮の色が変わり、これから何十年もあなたの相棒になる」とユーザーが主役となったアプローチを行うのがナラティブマーケティング

「ユーザーが自身のニーズに合っている」「サービスの本質が伝わる」と感じるのはどちらでしょうか。ナラティブマーケティングでは、ユーザーの語りを聴くことで、よりニーズにフィットした商品やサービスの開発が可能になるのです。

ナラティブマーケティングを実践する企業

実際にナラティブマーケティングを実施している企業は、国内にも多数存在します。ここではナラティブマーケティングを実践する企業の実例を3つ紹介します。企業の実例を通して、ナラティブアプローチの効果や重要性について見ていきましょう。

  1. Glossier(グロッシアー)
  2. SUBARU(スバル)
  3. ウォルト・ディズニー・スタジオ

①Glossier(グロッシアー)

コスメのD2Cブランド「Glossier(グロッシアー)」の創業者、エミリー・ワイス氏はブランドからの一方的な発信ではなく「共創」の姿勢を重要視しています。

ブランド誕生のきっかけにもなったブログでは本人自らが読者にコメントを返し、インスタライブを活用して双方向のコミュニケーションを体現。双方が語る場やきっかけを作り続けている点こそが、Glossierの熱狂的なファンを作り出した理由といわれています。

②SUBARU(スバル)

日本が世界に誇る自動車メーカーのひとつ、SUBARU(スバル)もまた従来のストーリーテリングマーケティングではく、限りなくユーザーに近い人物像を主人公としたショートストーリーを公開する、ナラティブマーケティングを実施しています。

自分のことのように物語の世界に入り込めるこのCMは、ユーザーが主人公を自分に投影しながら動画を楽しめる構成になっているのです。

③ウォルト・ディズニー・スタジオ

ディズニースタジオコンテンツの事業部門のひとつ、ウォルト・ディズニー・スタジオでは、実際に働く社員のナラティブを紹介して会社をPRしています。

社員一人ひとりに焦点を当てた結果、ディズニーのクリエイティブな雰囲気をより身近に、より具体的にイメージできる事例です。

ビジネスシーンにナラティブマーケティングを実践すると、ユーザーに商品やサービスのより本質的な価値を感じてもらえるようになります

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3.ナラティブマーケティングの手順

見せかけではない本質的なブランドづくりに欠かせないナラティブマーケティング。実際にどのような手順で進めていけばよいのでしょうか。ここではナラティブマーケティングの手順を以下3つの段階に分けて解説します。

  1. ユーザーに語りの場を用意する
  2. ユーザーの語りに理解を示し対話する
  3. SNSの活用

①ユーザーに語りの場を用意する

まず「SNSやサンプルの配布」「利用者目線のCMづくり」など、ユーザーが語るための場や自身を投影できるイベントを通して「体験の自分事化」を進めましょう。体験型のイベントを実施して、自分ならではの物語を感じてもらうことも効果的です。

ユーザーは未知の商品やサービスを買うのではなく、自身の物語を買う感覚で手を伸ばします。体験の自分事化が進めば、ユーザーはおのずと「口コミ」という形で商品やサービスを広めていくようになるでしょう。

②ユーザーの語りに理解を示し対話する

ユーザー自身に自分だけの物語としてイメージしてもらうためには、ターゲット層の明確化も欠かせません。ターゲットへの理解を深めると、「メッセージの具体性」「ナラティ
ブへの理解」にもつながります。

売り手はユーザーがより明確に物語をイメージできるように問いかけ、ナラティブに対する対話を行いましょう。その際、売り手の一方的な損益が表に出たり、誤ったナラティブの解釈による行き違いが起きたりしないよう注意が必要です。

③SNSの活用

ナラティブマーケティングを実践する際、TwitterやInstagram、LineやFacebookなどSNSの活用は欠かせません。

LineやFacebookなどを活用し、特定のユーザーに的を絞ってナラティブマーケティングを展開すれば、より効率的にマーケティングコミュニケーションを行えます。現在いる地域で情報の出し分けを行う機能も有効です。

ナラティブマーケティングは、広告やメッセージを見ているユーザー一人ひとりが主人公。見ているユーザーが「自分のこと」として受け取れるアプローチが必要です

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4.ナラティブマーケティングのこれから

日本ではまだ耳にする場面の少ないナラティブマーケティングですが、海外では従来のストーリーテリングマーケティングより主流になっています。ナラティブマーケティングは今後も重要なマーケティング方法になっていくでしょう。

ポストコロナ時代の新戦略

コロナ禍に見舞われた2020年以降、日本における約半数の生活者が自分の購買行動に不可逆な変化が起こったと認識しています。事実、ユーザーが直接店舗に足を運び、店員と対話しながら商品やサービスを選択する機会は激減しました。

変化を自覚した人の約8割は、商品の選び方や買い方はコロナ禍が過ぎたあとも変化したままだと思うと回答しているのです。将来のマーケター仮説を組み立てるためにも、ナラティブマーケティングは必須といえる手法でしょう。

ナラティブマーケティングは、ポストコロナ時代の新しいコミュニケーション方法として重要視されると予想できます