内部通報制度とは? ガイドライン、義務化、デメリット

内部通報制度とは、社内における不正行為を社員やその関係者が通報する制度のこと。内部通報制度の目的や意義、メリット・デメリット、内部通報制度の整備のポイントについて解説します。

1.内部通報制度とは?

内部通報制度とは、社内の問題や不正行為を発見した社員が上司をとおさず、社内の窓口へ報告できる制度のこと。「公益通報制度」とも呼ばれています。

2022年6月に公益通報者保護法が改正され、社員数301人以上の企業に内部通報制度の整備の義務が課せられました。内部通報制度の対象となる問題は、パワハラやセクハラ、不正会計や情報漏洩など多岐にわたります。

内部通報と内部告発との違い

双方の違いは、「通報を企業内のみで行うか」「外部(行政機関やマスコミなど)に告発するか」。細かな違いは下記のとおりです。

  • 内部通報:企業内で生じた問題や不正行為を知った社員が通報するのは社内のみ。企業の内情が外に漏れず、企業内で問題を収束できる可能性も高い
  • 内部告発:社内ではなく直接企業の外部へ通報。企業の内情が世間的に知られることになるため、企業のイメージや信頼が大きく損なわれる

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2.内部通報制度のガイドラインとは?

「社員が安心して通報できる環境整備」や「内部通報制度に関する経営幹部の責任の明確化」などを明記したガイドラインのこと。

内部通報の問題点は、通報者が解雇や降格といった不当な取り扱いを受ける可能性がある点です。リスクを負いたくない社員は、たとえ不正を発見しても保身のため通報をためらう可能性も高いでしょう。

2016年、このような課題を解消するため「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が制定されました。

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3.内部通報制度の目的と意義

内部通報制度の最大の目的は、企業の自浄作用です。企業ではさまざまな問題が起こります。たとえば不正会計や隠蔽行為など企業利益を損ねるような問題や、セクハラやパワハラといった不条理なトラブルなどです。

こうした問題が放置されたままでは企業の体質や社員の意識が改善されず、不正が常態化する恐れもあるでしょう。

内部通報制度を導入すると、このような企業内の問題が表面化しやすくなり、早期に調査や改善などの対策が取れるうえ、自社のコンプライアンス強化にもつながるのです。また内部通報制度の設置は一種の抑止力となり、不正を未然に防ぐ効果も期待できます。

内部通報制度を適切に運用している企業であると提示すれば、顧客やクライアントなどから、安心感や信頼感を高められるでしょう。

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4.内部通報制度のメリット

内部通報制度は、専門の窓口が企業内の不正を知った社員から直接情報提供を受けられる仕組みのこと。内部通報制度を設けると、現状の不正行為を早期に発見できるだけでなく、不正を未然に予防できるなどさまざまなメリットが得られるのです。

  1. 信頼性の獲得
  2. 不祥事の予防
  3. 不正行為の早期発見

①信頼性の獲得

内部通報制度を整備すると、コンプライアンスを重視している企業として顧客や取引先からの信頼が高まります。

「相手企業の不正に巻き込まれたくない」という意識から近年、取引先の企業が内部通報制度を整備しているかどうか、考慮するケースが増えているのです。内部通報制度の整備で信頼関係が強化されると、長期かつ安定した取引が可能になります。

②不祥事の予防

内部通報制度は不祥事の予防にも効果が高いといえます。企業における不祥事はさまざまあり、その根本にあるのは社員のコンプライアンスの欠如です。

内部通報制度を整備すると「自分の行為を誰かが通報するかもしれない」「通報されたら厳しい処分を受けるかもしれない」という気持ちが起こり、不正やハラスメントなどの行為を辞めるきっかけになりえます。

③不正行為の早期発見

内部通報制度の大きなメリットは、不正行為の早期発見。通報で不正が早期発見できれば迅速な対処が可能となり、自社へのダメージを最小限に抑えられます。小さな不正でも通報してもらうためにも、社員が気兼ねなく通報できる体制を整えましょう。

たとえば「通報者に匿名を許可する」「メールやチャットなどでも受け付ける」などです。

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5.内部通報制度のデメリット

メリットの多い内部通報制度も、効果のある形で運用できなければ「ただ設置しただけ」になり、人的コストが無駄になります。

たとえば通報者が不利益を被ってしまう場合、内部通報制度に対する社員の不信感が募り、制度自体が機能しなくなる可能性も高いです。運用時には専用窓口の設置と秘密保持の徹底が欠かせません。

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6.法改正による内部通報制度の義務化と整備のポイント

内部通報の実効性を高めるため、2022年6月から「改正公益通報者保護法」が施行。

改正公益通報者保護法では、「内部通報制度の義務化」「通報者の保護対象の拡大」「各種機関への通報の保護要件緩和」などが盛り込まれました。これから企業で内部通報制度を設置する場合、これらの改正ポイントを踏まえておく必要があります。

改正法のポイント

公益通報者保護法の改正のポイントは4つです。それぞれのポイントについて詳しく説明しましょう。

  1. 体制整備の義務化
  2. 守秘義務の創設
  3. 保護範囲の拡大
  4. 保護要件の緩和

①体制整備の義務化

改正法におけるもっとも大きな変更点は、内部通報制度の体制整備の義務化。社員数が301人以上の企業は体制整備を必須とし、300人以下の企業は努力義務が課せられます。体制整備を怠った企業は、行政措置の対象となるので注意が必要です。

この体制整備について、消費者庁では「窓口設定、調査、是正措置」の整備を提示しています。たとえば下記のようなものです。

  • 内部通報の窓口を設置し、幹部などから関与を受けないように独立させる
  • 通報があったら正当性をふまえたうえで必要な調査を実施し、違反行為が見られたら速やかに是正する仕組みを作る
  • 通報者へ不利益な扱いをした場合の処罰を決める

具体的な施策は企業にゆだねられています。施策は内閣府が公開している「公益通報者保護法第11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」に沿って決定していくのです。

②守秘義務の創設

内部通報対応業務の担当者には、守秘義務が課せられました。内部通報対応業務の担当者は、業務で得た情報を漏えいしてはなりません。たとえば通報者の名前や社員番号、住所などの情報は個人の特定につながるため漏えいしてはいけないのです。

守秘義務を守らなかった担当者には、30万円以下の罰金が科される可能性もあります。なお社内での情報共有のため通報者自身が情報の開示に同意した場合、守秘義務違反にはなりません。

③保護範囲の拡大

改正前は現役の社員のみを通報者保護の対象としていましたが改正後は退職者(退職から1年以内)や役員(取締役など)も含まれました。

また保護の範囲も拡大。改正前は通報者に対する解雇や減給、降格などが禁止されていましたが改正後は通報者に対する損害賠償請求も禁止されます。

さらに通報可能な内容として、刑事罰にあたる行為だけでなく「行政罰にあたる行為」が追加されるのもポイント。よって懲役や罰金を課せられるような重大な犯罪のみならず、過料の支払いで済むような軽微な違反なども通報の対象となるのです。

④保護要件の緩和

社内ではなく行政機関などの外部へ通報した場合、通報者を保護する際の要件が追加されました。改正前の要件は、「通報内容が事実であることを信じるに足る理由があること」。しかし社員が証拠を集めるのは難しく、通報のハードルが上がっていました。

改正後はこの要件にくわえ、「違法や違反行為が生じている(または生じようとしている)旨と、通報者の氏名を記載した文章の提出」を追加し、通報しやすくしています。

またマスコミへの通報の場合、改正前の要件にくわえ、「重大な財産被害が起こりえる場合の通報」や「通報者が特定できる情報の漏洩の可能性がある場合の通報」も保護の対象に追加されました。

整備のポイント

2022年6月以降、内部通報制度の整備を適切に行わない企業には、行政指導や勧告がなされます。場合によっては企業名が公表され、社会的な制裁を受ける場合もあるのです。

社員数が301人を超える企業を新たに作る場合のみならず、社員数が現状から301人を超える場合も、すみやかに内部通報制度の整備が必要です。以下で整備におけるポイントを説明します。

  1. 内部通報窓口の設置
  2. 内部通報窓口の独立
  3. 秘密保持の徹底
  4. 不利益な取扱いの禁止
  5. 公正な検討と調査
  6. 社内リニエンシー制度の整備

①内部通報窓口の設置

内部通報窓口とは、社内で不正行為を発見した社員から通報を受け付ける窓口のこと。内部通報窓口がなければ、社員が不正を発見してもそのまま放置されてしまうでしょう。また窓口を設置するだけでも、抑止効果が期待できるのです。

一般的に窓口を作る際、人事部や総務部、監査部などが管理担当します。一方、社外に通報窓口を設けるのも可能です。この場合、法律事務所や窓口代行業者などが通報先となります。また社内と社外の窓口を併設するのも可能です。

②内部通報窓口の独立

内部通報制度の整備では、内部通報窓口を独立させるのがポイント。窓口を企業内だけで設置してしまうと、通報対象となる企業自体が通報窓口となってしまうため、内部通報のもみ消しが起こる可能性も高いのです。

内部通報制度を十分に機能させるためにも、企業内(とくに経営陣)から独立した窓口を設置しましょう。外部機関に通報窓口の運営を委託したり、電話やメール、Webフォームなどの通報専用回線を設けたりすると、窓口を独立させやすくなります。

③秘密保持の徹底

内部通報制度の整備で気をつけるべきは、通報者の情報保護。企業内の重大な事実を告発する通報者の情報が漏れてしまうと、上層部が通報を止めるだけにとどまらず、通報者へ処罰を与えるといった対処も想定されます。

内部通用制度の整備では、通報者の秘密保持を徹底しなければなりません。

「通報者の情報は必要範囲を超えて開示しない」「通報者の情報を開示するときは通報者の同意を得る」「誰が通報者なのかを探索することを禁止する」などの内部通報規定を定め、全社員へ周知しましょう。

④不利益な取扱いの禁止

現行の公益通報者保護法では、通報者が不利益になる取り扱いは禁止されています。通報者が不利益になる取り扱いの例として挙げられるのは「解雇命令を出す」「自宅待機命令を出す」「降格または減給を実施」「退職を強要する」「退職金を没収する」など。

これは自社社員だけでなく、外部からの派遣社員に対しても同様です。また同法では、内部通報によって損害を受けた企業側が、通報者に対して損害賠償訴訟を行うことも禁止しています。

⑤公正な検討と調査

内部通報窓口に通報があった場合、行為に正当な理由がないなら調査の必要性を検討し、必要だと判断したら速やかに調査を進めなければなりません。

たとえば通報数が少ない、あるいは軽微な内容は検討しないなどの対処は公正性に欠けます。「通報しても対応してもらえない」と感じた通報者は、自社を信頼できなくなってしまうでしょう。

通報に対する検討状況や調査の進捗、改善措置などを通報者へ伝えることをルール化しておけば、公正かつ誠実な対応を行っていると示せます。

⑥社内リニエンシー制度の整備

社内リニエンシー制度とは、不正や違反などの行為を犯してしまった社員(またはその関係者)が自主的に内部通報したら、該当社員の処分を減免する制度のこと。

リニエンシー制度はもともと独占禁止法にて定められている制度で、組織的な談合や(企業同士の不正な協定)といった内容を自己申告すると課徴金が減免されます。

社内リニエンシー制度も、同様に自己申告による通報を促し、不正行為の早期発見を促すことが目的です。制度を実施する際、通報の内容やタイミングに応じた減免措置のレベルを明確に決めておく必要があります。

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6.内部通報制度の企業事例

企業の内部通報制度の実施において、過去にさまざまな問題が発生しています。たとえば「内部通報者に対する損害賠償訴訟」「窓口担当者の守秘義務違反」など。

トラブルを避け、社員が利用しやすい内部通報制度を整備するには、運用に成功している企業の事例を参考するとよいでしょう。ここでは4社の事例を紹介します。

  1. オリンパス
  2. アクサダイレクト生命
  3. りそなホールディングス
  4. トプコン

①オリンパス

オリンパスグループでは、3つの内部通報窓口を設置しています。

社内に設置している「コンプライアンスヘルプライン社内窓口」、社外に設置している「コンプライアンスヘルプライン社外窓口(外部弁護士委託)」、そして2019年に新たに設置された「グローバル通報受付窓口」です。

グローバル通報受付窓口は社外の専門会社が運営する形になっており、自社の社員だけでなく取引先の人々も利用できます。またグローバル通報受付窓口では、「匿名での通報が可能」「通報時に発信元が検索されない」など個人情報保護も徹底されているのです。

②アクサダイレクト生命

アクサダイレクト生命では、内部監査本部内に内部通報窓口(コンプライアンスレスキューダイヤル)を設置。

電話だけでなくメールやWeb、紙による郵送などでも通報を受け付け、通報手段を複数設けて、レスキューダイヤルの活用を促進させるのが目的です。通報だけでなく相談も可能で、匿名でもOKとしています。

また内部通報整備に関するポスターの貼り付けや、全社員に対するカードの配布など、社内での啓蒙活動も実施。通報制度の対象範囲も広く、元社員でも退社してから1年以内であればいつでも通報できるのです。

なおアクサダイレクト生命は、消費者庁の「内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)」にも登録しています。優れた内部通報制度の整備と運用を行う企業であると、政府が認めているのです。

③りそなホールディングス

りそなホールディングスでは社員が通報しやすいよう、「りそな弁護士ホットライン」「りそなコンプライアンス・ホットライン」「りそな会計監査ホットライン」3つの通報窓口を設置しています。それぞれの違いは下記のとおりです。

  • りそな弁護士ホットライン:法律事務所に業務を委託した社外窓口で、不正行為やコンプライアンス違反、倫理違反などを受け付けている。りそなグループの全社員およびその家族、退職者、外部事業者も利用可能
  • りそなコンプライアンス・ホットライン:上記のような通報を法律事務所ではなく外部の専門業者へ行う窓口
  • りそな会計監査ホットライン:会計や内部統制、会計監査などの不正行為を通報できる

④トプコン

トプコンでは、2006年から内部通報制度を導入し、2013年には国内8社、海外14社のグループ会社へ適用。

社内の内部通報窓口とトプコングループから独立した社外窓口を設置しており、贈収賄や汚職、差別行為や人権問題、ハラスメントなどさまざまな不正行為を通報対象としています。

通報は本名だけでなく、匿名や半匿名でも可能です。電話やメールで直接連絡できます。

また内部通報制度の事前の制度設計では、内部通報制度をスムーズかつ有効に機能させるため「監査役は通報内容をすみやかに報告する義務」「重大リスク案件は取締役会に報告する義務」「通報者お秘密保持」「報復行為の禁止」などのルールを設けました。