最低賃金とは? 種類、計算方法、対象、引き上げの際の企業の対応

最低賃金とは賃金の最低額のこと。制度の目的や種類、計算方法や対象、決定までの流れ、引き上げ時の対応などについて解説します。

1.最低賃金とは?

最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならないとされる最低額の賃金のこと。たとえば最低賃金額より低い賃金で契約した場合、法律によって無効とされます。そして最低賃金額と同様の定めをしたものと見なされるのです。

最低賃金制度の目的

最低賃金制度とは、最低賃金法にもとづいて国が定めた賃金の最低額以上を、使用者が労働者に支払わなければならない制度のこと。

目的は、事業もしくは職業の種類または地域に応じて賃金の低い労働者の最低額を保障すること。それにより労働条件の改善を図ります。そして「労働者の生活安定」「労働力の質向上」「事業の公正な競争」に役立て、国民経済の健全な発展に寄与するのです。

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2.最低賃金の種類

最低賃金には、下記の2種類があります。

  1. 各都道府県にひとつずつ定められた「地域別最低賃金」
  2. 特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」

特定最低賃金は地域別最低賃金よりも高い金額水準で定められています。

①地域別最低賃金

産業や職種を問わず、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金です。労働者の生計費や賃金、事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定めるとされています。

労働者の生計費を考慮する際は、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営めるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するとされているのです。

②特定(産業別)最低賃金

特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使の申出にもとづき最低賃金審議会の調査審議を経て、「同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要」と認めた産業について設定されています。

令和2年4月1日時点、全国で228件の最低賃金が定められているのです。また228件のうち227件は各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件は全国単位で決められています。

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3.2020年度の都道府県別最低賃金ランキング

厚生労働省が公表する「2020年度の都道府県別最低賃金ランキング」は以下のとおりです。最低賃金が高い都道府県、最低賃金が低い都道府県を見ていきましょう。

最低賃金が高い都道府県

最低賃金が高いのは、「東京・神奈川・大阪・埼玉・愛知」の5都道府県。大都市ほど賃金が高いという一般的な見解は、集積の経済による正の外部性と関連するためです。

「集積地における投入産出連関効果の高さ」「労働者と企業のより良いマッチング」「観測できないような活発な知識波及」などから生じる正の外部性が、生産性向上をもたらしその結果、賃金の上昇がもたらされていると考えられています。

最低賃金が低い都道府県

最低賃金が低い都道府県は九州や東北などの県。同じ都道府県内で比較した場合、人口密度が低いほど店舗別時給と最低賃金が重なり、人口密度が高くなるほど最低賃金から離れ始める傾向にあるのです。

ここから集積の経済からの便益が存在していると示唆されます。人口密度が高い地域ほど最低賃金を大幅に超えた時給を提示しているのです。

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4.最低賃金の計算方法

最低賃金の計算方法は、賃金の種類によって異なります。それぞれの計算方法について見ていきましょう。

  1. 時間給の場合
  2. 日給の場合
  3. 月給の場合
  4. 出来高払制やそのほか請負制によって定められた場合

①時間給の場合

時間給の場合「時間給≧最低賃金額(時間額)」で計算します。すべての地域別最低賃金と大部分の特定最低賃金については、時間額で定められているものの、一部の特定最低賃金は、従前どおり日額と時間額の両方で定められているのです。

②日給の場合

日給の場合「日給÷1日の所定労働時間=時間額≧最低賃金額(時間額)」で計算します。なお日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合の計算方法は、「日給≧最低賃金額(日額)」です。

特定最低賃金については、日額は日給制の労働者に、時間額は日給制以外の時間給制・月給制などの労働者にそれぞれ適用されます。

③月給の場合

月給の場合「月給÷1カ月月平均所定労働時間=時間額≧最低賃金額(時間額)」で計算するのです。

日額と時間額の両方が定められている特定(産業別)最低賃金は、日額は日給制の労働者に、時間額は日給制以外の時間給制・月給制などの労働者にそれぞれ適用されます。

④出来高払制やそのほか請負制によって定められた賃金

出来高払制やそのほか請負制によって定められた賃金は「賃金の総額(出来高払制そのほかの請負制によって計算された賃金の総額)÷総労働時間(当該賃金算定期間において出来高払制そのほか請負制によって労働した総労働時間数で除した金額)≧最低賃金額(時間額)」で計算します。

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5.最低賃金の対象

最低賃金の対象とは何でしょうか。ここでは下記について解説します。

  1. 最低賃金が適用される労働者
  2. 最低賃金に含まれるもの
  3. 最低賃金に含まれないもの

①最低賃金が適用される労働者

最低賃金は、正規雇用労働者やアルバイト、パートタイマーといった雇用形態に関係なく適用されます。

しかしそれぞれで労働能力が異なるため、最低賃金を一律に適用すると、かえって雇用機会をせばめる可能性がある労働者も存在します。よって「使用者が都道府県労働局長からの許可を得ること」を条件に、個別で最低賃金を減額する特例が認められているのです。

②最低賃金に含まれるもの

最低賃金は通常の労働時間、労働日に対応する賃金に限られます。具体的には、実際に支払われる賃金から次にあげる賃金を除外したものです。

  • 結婚手当など臨時に支払われる賃金
  • 賞与といった1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外割増賃金
  • 休日割増賃金
  • 深夜割増賃金
  • 精勤・皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

③最低賃金に含まれないもの

最低賃金の対象とならない賃金は、次のとおりです。

  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
  • 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
  • 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間で計算した賃金額を超える部分
  • 精皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当

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6.最低賃金が決まるまでの流れ

最低賃金が厚生労働省より発表されるのはおもに7月と10月で、毎年7月末に改定目安が発表されます。地域によって異なるものの発効年月日は毎年10月1日からです。地域間格差の縮小を求める意見も勘案しつつ、適切に審議が行われます。

毎年7月末に改定目安が発表

厚生労働省の中央最低賃金審議会にて、毎年の地域別最低賃金額改定の目安について答申が取りまとめられ、その結果が毎年7月末に発表されます。

中央最低賃金審議会とは、厚生労働大臣または都道府県労働局長の諮問に応じて最低賃金に関する重要事柄を調査・審議する組織のこと。最低賃金改定額の目安を参考に、各地方最低賃金審議会が審議・答申し、都道府県労働局長が最低賃金を決定します。

発効年月日は毎年10月1日〜

最低賃金の改定は、毎年10月1日から発表されます。ただし地域によって異なるため毎年チェックが必要でしょう。とくに複数の都道府県にまたがって求人を掲載する企業は注意したいところです。

最低賃金を1円でも下回った求人の掲載は法律違反となります。掲載の継続ができなくなる場合もあるのです。

最低賃金の判断軸

都道府県別最低賃金のデータをもとに、「全国物価統計調査」(総務省)といった都道府県別物価水準データを用いて実質化し、名目最低賃金と実質最低賃金の都道府県間格差とその推移について、観察した事実を整理します。

地域間格差の縮小を求める意見も勘案した、適切な審議が求められています。2020年度は新型コロナウイルス感染症拡大により、現行水準の維持が適当と示されました。

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7.最低賃金引き上げの際、企業が取る対応

最低賃金を引き上げた際に企業が取る対応は、下記のとおりです。それぞれ詳しく解説しましょう。

  1. 業務改善助成金を活用する
  2. 退職一時金を年金にする
  3. 生活残業を抑制する

①業務改善助成金を活用する

設備投資(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)などを行って生産性を向上させ、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた中小企業にかかった費用の一部を助成する制度のこと。

引き上げ額や助成対象や助成率、上限は、コースや対象労働者数によって異なります。

②退職一時金を年金にする

退職一時金を年金化して、企業の負担を軽減します。年金化すると年金の掛金を損金算入できるのです。また損金化による税金の低減により、財務負担の軽減が期待できます。

退職一時金は企業の純利益から税金や配当金、役員賞与などを差し引いた内部留保型の預金となります。そのため負債計上しても、財政上で損金算入できません。

③生活残業を抑制する

残業申請・許可制度の徹底をとおして生活残業(基本給の低い労働者が、意図的に不必要な残業を行うこと)を抑制します。

最低賃金の引き上げ対策として、こうした業務改善は不可欠です。プロジェクト管理の導入や既存の賃金体系、人事評価制度の見直しなどにも取り組むとよいでしょう。

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8.最低賃金に関する注意点

最低賃金について知っておきたい注意点は次のとおりです。それぞれについて解説しましょう。

  1. 最低賃金法に違反した場合の罰則
  2. 最低賃金額より低い賃金で契約した場合
  3. 派遣労働者の最低賃金
  4. 最低賃金の周知義務

①最低賃金法に違反した場合の罰則

地域別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった使用者は、50万円以下の罰金に処せられる場合もあります(最低賃金法第40条)。

また産業別最低賃金額以上の賃金を支払わなかった場合、最低賃金法の罰則は適用されません。代わりに労働基準法の「賃金の全額払違反の罰則(罰金の上限額30万円)」が適用されます(労働基準法第120条)。

②最低賃金額より低い賃金で契約した場合

労働者と使用者の双方が合意していても、法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものと見なされます。したがって最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。

地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合、罰則(50万円以下の罰金)が科される可能性もあります。

③派遣労働者の最低賃金

派遣労働者には、派遣元の所在地にかかわらず派遣先の最低賃金が適用されます。

よって派遣先の所在地である県が定めた最低賃金額以上の賃金を、支払わなければなりません。したがって派遣会社は、労働者を派遣している派遣先の事業場に適用される最低賃金額を把握しておく必要があります。

最低賃金は雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。

④最低賃金の周知義務

使用者は最低賃金の適用を受ける労働者の範囲や最低賃金額、効力発生日について、職場の見えやすい場所に掲示するといった方法で周知する必要があるのです。

最低賃金額は、賃金や物価などの動向に応じてほぼ毎年改定されています。そして報道機関や市町村広報誌、各種団体の機関紙などを通じて周知されているのです。