ランチェスター戦略とは、販売競争に勝つための理論と実務の体系です。そのルーツや法則、活用方法について解説します。
目次
1.ランチェスター戦略とは?
ランチェスター戦略とは、販売競争に勝つための理論と実務の体系で、世界で最も広く利用されている戦略の1つといわれています。弱者が強者に勝つための戦略方法で、中小企業が大企業に勝ち抜くために役立つ戦略です。
ランチェスター戦略のルーツ
ランチェスター戦略は、イギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスター(1868〜1946年)が第1次世界大戦の際に提唱した数理モデルです。
兵力数と戦闘機や戦車などの武器の性能が戦闘力を決定付けるというもので、同じ武器なら勝敗は兵力数で決まることになります。
第2次世界大戦中、コロンビア大学の数学教授であるバーナード・クープマンらによって、ランチェスターの法則は軍事戦略モデルとして発展しました。
2つに分かれるランチェスター戦略
ランチェスター戦略は、下記の2つに分かれます。
- 「弱者の戦略」と呼ばれる第1法則:一騎打ちの状態で、50人と30人が一騎打ちで闘った場合、50人側は20人残り、30人側は全滅します。つまり戦闘力が同じであれば、兵士の多いほうが勝つというもの
- 「強者の戦略」と呼ばれる第2法則:集団と集団が狙い打つ状態で、1人で複数の相手を同時に攻撃する広範戦、遠隔戦をイメージしています。この場合の攻撃力は兵力数の2乗に比例するというもの
2.ランチェスターの法則とは
ランチェスターの法則とは、「戦闘力=兵力の質✕量」という法則です。1位を強者、2位以下をすべて弱者と定義します。同じ武器なら勝敗は兵力数で決まるという定義をもとにした弱者の戦略、強者の戦略に分けられています。
第一法則
第1法則は、一騎打ちの法則とも呼ばれており、1人が1人と戦う一騎打ちをイメージしています。武器を持った兵士が10人いる側と、20人いる側では、20人いる側は10人生き残り、10人いる側は全滅するのです。
また刀を持った10人と、銃を持った10人が戦った場合、武器効率は銃のほうが高いため刀側が全滅します。戦闘力が同じであれば、兵士の数が多いほうが勝つと示しているのです。
弱者の5大戦略
第1法則が示すとおり、戦闘力が同じであれば人数が多い側が勝ちます。そのため弱者は、正面から挑んでも強者には勝てません。ビジネスでは次の「弱者の5大戦略」をもって強者に勝つとされています。
- 局地戦…ビジネスの領域を絞る
- 一騎打ち…1社限定と競合する
- 接近戦…敵ではなく、顧客に接近する
- 一点集中…1点に絞って戦う
- 陽動作戦…競合相手の裏をかく戦法
第一法則の計算
第1法則は、戦闘力が同じであれば人数が多いほうが勝ち、兵力数が同じであれば戦闘力が高いほうが勝つという非常にシンプルで分かりやすい法則です。計算式にすると、次のようになります。
戦闘力=武器効率(質)× 兵力数(量)
第二法則
第二法則は、集中効果の法則とも呼ばれ、1人で複数の相手を同時に攻撃できる、または集団が同時に複数の相手に攻撃できる確率戦です。広い範囲で戦う広域戦、敵と離れて戦う遠距離戦をイメージしています。
戦国時代の一騎打ちとは対照的で、近代的な兵器を使う集団戦をイメージすると分かりやすいでしょう。
強者の5大戦略
第2法則が示す、1人で複数の相手を同時に攻撃する、または集団が同時に複数の相手に攻撃する5つの戦い方は次のとおりです。
- 広域戦…大きな市場をねらう
- 確率戦…アイテム数を積極的に増やす、新製品を積極的に売り出す
- 遠隔戦…広告などを大々的に行って離れて戦う
- 総合戦…すべての武器、力を総動員して勝負する
- 誘導作戦…こちらの戦いやすい場所に誘導して勝負する
第二法則の計算
第2法則は1人で複数の相手を同時に攻撃する、集団が同時に複数の相手に攻撃する広域戦、遠距離戦で、次のようになります。
戦闘力=武器効率(質)× 兵力数の2乗(量)
武器効率は同じで、兵力数が2乗になるため、兵力の多いほうが圧倒的に有利です。
3.ランチェスター戦略理論
ランチェスター戦略は、弱い立場にある側が強者にどのようにして挑むかを考えた弱者の戦術で、軍事戦略を基にして編み出された戦略です。単純に兵士によって戦闘力が決まるのではなく、兵士個人の質を高めるなど戦術の工夫を重要としています。
弱者の戦略理論
弱者の戦略としての考え方は第1法則にあたり、戦闘力は、「武器効率(質)×兵力数(量)」で求められます。
この公式にあてはめると多数の兵士(社員)がいる側(大企業)が圧倒的に有利ですが、社員の少ない中小企業は、数ではなく質を高める戦略に替えればよいのです。労働環境を整えて業務を効率化すれば成果も上がります。弱者の基本戦略は差別化です。
強者の戦略理論
強者の戦略としての考え方は第2法則にあたり、すでに量(社員数)で勝っている企業が2位以下の弱者を寄せ付けないための方法となるのです。
これをミート戦略といい、弱者の基本戦略である差別化戦略を封じ込めるという意味があります。資質が同等であれば、量で勝っている大企業の大勝利は間違いありません。模倣、2番手作戦、追随などをミートと呼んでいます。
マーケットシェア理論
マーケットシェア理論とは、市場地位はマーケットシェア(市場占有率、占拠率)で判断するというもの。マーケティングコンサルタントの田岡信夫氏によって具体的な数字が設定されました。
これによると、業界内で自社のシェア率がどのくらいなのかを7段階に分かれ、それぞれに合った戦略を考えていくと、実践的な経営プランが生み出せるのです。
7つのシンボル目標数値
マーケットシェア理論による7つのシンボル目標数値は、現在の自社のシェアはどの段階なのかを判断します。
たとえば73.9%以上で占有、41.7%以上で地位は安泰など。そして短期・中期・長期にはどこまで伸ばしていくのか、現状分析と目標設定に活用します。
上限目標値73.9%
73.9%(上限目標値)の場合、独占的となります。100%にならずともこの数値ですでに、その地位は絶対的に安全・安泰とあり、よほどのことがない限り2位以下に逆転されることはないとされているのです。
これ以上の数値を得ても、安全性、成長性、収益性の面で安定しなくなってしまいます。つまり1社独占は必ずしも安全とは限らないのです。
安定目標値41.7%
41.7%(安定目標値)の場合、地位が安定します。多くの人が50%を安定と予想しますが、ランチェスター戦略では、4〜5社以上の集団競争になるので40%を超えれば地位が圧倒的に有利となり地位は安定するのです。
これは2位以下をかなり引き離している状態で、首位独走の条件として多くの大企業が目指す数値となります。
下限目標値26.1%
26.1%(下限目標値)というのは、トップの地位に立てる強者の最低条件となります。26.1%をシェアすれば1位になるものの、1位でも2位とは僅差となるなどその地位は不安定なものになってしまうのです。
1位とはいえ、いつ逆転されてもおかしくない状況では強者の戦略は取れません。26.1%はギリギリの数値と捉えられます。
上位目標値19.3%
19.3%(上位目標値)を確保すれば、多くの場合上位3位以内に入れます。しかしどれも同程度で、弱者の中の強者という立場です。
この数値は、弱者が当面の間、目標とする数値とされるもの。20%確保に近づけば、1位がすぐ目の前まで見えてきている状況なので1位獲得するための戦略に切り替えます。
影響目標値10.9%
10.9%(影響目標値)は、「10%足がかり」といわれ、10.9%を確保すれば市場全体に影響を与える存在となります。市場参入時の目安となる数値で、10%を超えると、本格的な競争に突入するのです。
存在目標値6.8%
6.8%(存在目標値)は競合相手に存在を認められる立場になります。しかし市場に影響を与える力がないため本格的な競争には巻き込まれません。
この数値の段階では、他社を気にするよりも自社製品のセールスに必死に取り組むとよいでしょう。新発売から年月が経っても7%を超えないようなら先がありません。撤退の判断基準にも使われます。
拠点目標値2.8%
2.8%(拠点目標値)は、存在価値がないに等しい立場です。この数値は市場参入時に、参入できたか、できなかったかを判断する数値となります。3%→7%→10%が市場参入の中間目標数値です。
10%を超えると本格的なシェア争いに突入していきます。2.8%以下となれば、ランチェスター戦略を行っても生存は厳しい立場です。
4.3つのグランドルール
ランチェスター戦略には、守るべき3つのグランドルールがあります。3つのグランドルールについて解説しましょう。
- 1点集中主義
- 足下(そっか)の敵攻撃の原則
- No.1(ナンバーワン)主義
①1点集中主義
1点集中主義は、攻撃目標を1つに絞り、達成するまで集中して攻撃し続けるという考え方です。
たとえば、勝ち目のある商品、地域、流通、顧客を設定して、そこに経営資源を集中して投入します。要素を分散させずに、集中させて競合相手から負けない状況をつくり出すのです。しかし1つの市場に継続して集中する状況は、非現実的といえます。
②足下(そっか)の敵攻撃の原則
足下(そっか)の敵攻撃の原則とは、市場シェアで成果を出したい場合、自社の1ランク下の競合他社(足元の敵)を攻撃(売上を奪う)するという考え方です。
理由は自社よりも強い敵と戦って体力を失うよりも、勝ちやすい敵と戦った方が勝ち目があるからです。1ランク下の敵を倒せば自社は伸び、敵は下がるため差は倍もつきます。
③No.1(ナンバーワン)主義
ランチェスター戦略の結論は、No.1(ナンバーワン)になること。しかも2位を圧倒的に引き離した1位で、それ以下は2位であっても弱者という考え方です。その際のNo.1は総合力ではなくて、ある市場においての1位となります。
それについての明確な定義は、「2社間競合、単品の客内シェアであれば1位と2位との間に3倍の差」「それ以外は、約1.7倍の差を2位に対して付けた1位」です。
5.ランチェスター戦略の実践体系
ランチェスター戦略が最も多く使われるのは、営業現場単位での戦略づくりとされ、4つの実務体系に分かれます。それぞれについて詳しく紹介しましょう。
- 地域戦略論
- 流通戦略
- 営業戦略
- 市場参入戦略
①地域戦略論
地域戦略論とは、営業地域を細分化してその地域のナンバーワンになること。総合的なシェアでは弱者ですが、特定の地域でシェアナンバーワンの強者を目指します。
たとえば全国シェアのハンバーグレストランと、地域密着でそれ以上に知名度の高い人気のレストランといったものです。地域戦略論では、地域の特製や市場シェア、世帯数など定量的、定性的にとらえるため独自の戦略が充実します。
②流通戦略
流通戦略とは、流通チャンネルをコントロールしていかにシェアを広げていくかという実務のこと。現代ではインターネットを活用したインターネットの通信販売という形式で、流通戦略を実施する企業が増えています。
間接販売の場合は販売チャンネルとユーザー、直接販売する場合はユーザーの需要規模と顧客内シェアから顧客を戦略的に各付ける「ランチェスター式ABC分析」を行います。
③営業戦略
営業戦略とは、チーム全体をどのようにマネジメントしていくかという戦略のこと。
市場において自社の商品やサービスが競合他社よりも優位に立ち、顧客に購入してもらえるかを、訪問や電話など顧客別の営業方針や商談方法、訪問すべき頻度などを重点にして戦略を立てます。営業活動の基準値をつくったうえでのプロセス管理が大切です。
④市場参入戦略
市場参入戦略とは、経営者、企画、マーケティング部門向けの戦略です。市場導入期や成長期の事業に対しての戦略で、たとえば商品開発や市場開発、新規事業開発など。これらは先に開発を行うか、後に開発を行うかによって戦略が異なります。
一方の地域戦略、流通戦略、営業戦略は営業部門の戦略です。すでに進行している事業で従来の顧客から新たな需要を掘り起こしていく戦略となります。
6.弱者が強者に勝つためには
ランチェスター戦略は、弱者が強者に勝つための唯一のマーケティング戦略ともいわれています。戦略のポイントは、市場シェアでナンバーワンになる、競合他社と差別化することです。そんなランチェスター戦略の活用法を紹介しましょう。
競合局面でのトップを目指す
資本力のない弱者(中小企業)がどれだけ優れた商品を開発しても、資本力のある強者(大企業)には太刀打ちできません。すぐに大手に商品を真似されてしまい、さらには市場を奪われてしまうでしょう。
ランチェスター戦略では、弱者が強者に勝つには総合1位を目指さず、競合局面ごとで1位を目指すことを示しています。
差別化の意味を理解する
弱者が強者に勝つための方法は、競合他社との差別化です。商品の性能や品質だけではなく、ランチェスター戦略では顧客やユーザーの立場になって感じるほかにはない優れたものを指します。
たとえば誰でも簡単に購入できる手軽さや、購入後のアフターサービスの充実化などです。商品の高品質、高機能などは顧客が使って価値を認めて初めて有効となります。