厚生年金保険料とは? 制度の仕組みや加入条件、厚生年金保険料の算出方法について

厚生年金保険料とは、会社員や公務員などが加入する公的年金制度にかかる保険料のことです。ここでは制度の仕組みや加入条件、保険料の算出方法などについて解説します。

1.厚生年金保険料とは?

厚生年金保険とは、厚生年金保険の適用を受ける事業所(企業)に勤務する70歳未満の会社員や公務員が加入する、公的年金制度のこと

加入者(被保険者)は厚生年金制度を通じて国民年金にも加入している状況になるため、将来は「基礎年金」と「厚生年金」の両方を受け取れます。

納付する年金保険料について

厚生年金保険の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料を掛けて計算します。ここで出た保険料を、事業者と被保険者が半分ずつ負担するのです。これを「労使折半」といいます。

  • 毎月の保険料額:標準報酬月額×保険料率
  • 賞与の保険料額:標準賞与額×保険料率

保険料率は年金制度改正にもとづいて段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月を最後に引上げが終了。以降現在まで、183.%で固定されています。

年金保険料の納付方法について

厚生年金保険、および健康保険の保険料徴収は日本年金機構(年金事務所)が行うとされています。事業主は毎月の給料および賞与から被保険者負担分の保険料を差し引き、事業主負担分の保険料とあわせて翌月末日までに納めなければなりません。

厚生年金保険とは、70歳未満の会社員や公務員が原則として全員加入しなければならない公的年金制度のことです

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2.公的年金とは?

先に出てきた「公的年金」の意味をおさらいしておきましょう。日本の公的年金は、以下2つの年金制度による2階建てになっています。

  • 国民年金(基礎年金):日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する(1階)
  • 厚生年金:会社などに勤務している人が加入する(2階)

厚生年金と国民年金の違い

厚生年金と国民年金には、どういった違いがあるのでしょうか。厚生年金の加入対象者は、会社などに勤務している人。保険料は月ごとの給料に対する定率(令和2年度現在で18.3%)となっており、実際の納付額は個人によって異なります。

一方、国民年金(基礎年金)は日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象です。こちらも段階的に保険料が引き上げられていきました。しかし平成29年度に上限へ到達(令和2年度現在で16,540円)。納付期間に応じて給付額が決まります。

企業年金とは?

厚生年金と似た制度に「企業年金」があります。企業年金とは、公的年金に上乗せして支給される年金制度(いわゆる3階部分にあたる私的年金)のうち、企業が従業員の老後保障のため掛金を拠出して実施する年金制度の総称です。

日本の企業年金は、もともとあった退職一時金の支払い負担を平準化する趣旨で制度化されました。現在は「厚生年金基金」「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」などの制度があり、それぞれ法令で規定された税制上の優遇措置が講じられています。

厚生年金基金とは?

厚生年金と混同しがちな制度に「厚生年金基金」があります。厚生年金基金とは、従業員の老後生活を保障する目的で、将来の給付額を増やすために独自の給付を上乗せする企業年金のことで、「代行部分」と「独自部分」の2つに分かれます。

  • 代行部分:国が運営する厚生年金保険の一部分を国に代わって行う
  • 独自部分:それぞれの規約にもとづいて掛金や給付を決める

厚生年金保険は公的年金制度、厚生年金基金は私的年金制度として区別できます。

日本の公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2階建てで構成されています。しかし厚生年金基金はバブル崩壊や資産の運用悪化などを理由に、事実上解散・廃止されているのです

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3.厚生年金保険料の算出方法とは?

続いて具体的な厚生年金保険料の算出方法について見ていきましょう。厚生年金保険料は、毎月の給与や賞与の金額をもとにした「標準報酬月額」と「標準賞与額」に現在の保険料率18.3%を掛けて算出します。

標準報酬月額とは?

「標準報酬月額」とは、被保険者が受け取る給与を、一定の幅に区分した報酬月額に当てはめて決定した金額のこと。基本給のほか残業手当や通勤手当(いずれも税引き前の給与額)、事業所が提供する宿舎費や食事代などの現物給与も含まれます。

現在の標準報酬月額は、88,000円の1等級から620,000円の31等級まで、31の等級に分けられています。なお標準報酬月額は毎年9月に、その年の4月から6月までの報酬月額をもとに決定されます(定時決定)。

標準報酬月額の決定・改定に必要な届け出

標準報酬月額の決定・改定は先に述べた定時決定を含め5つの時期に行われます。いずれも届出で必要となり、これらの変更によって報酬に応じた保険料額になるよう調整されるのです。

  • 定時決定:年に1度、4月から6月の3か月間の報酬平均額によって、その年の9月1日以降1年間の標準報酬月額を決定する
  • 随時決定:賃金が大幅に増減した場合や、継続する3か月間の月平均額が2等級以上変動した場合に行われる
  • 産前産後休業終了時改定:産前産後休業終了後、復帰後3ヶ月の月平均額から算出した報酬月額が休業前と比べて1等級以上差がある場合
  • 育児休業終了時改定:育児休業終了後、復帰後3ヶ月の月平均額から算出した報酬月額が、休業前と比べて1等級以上差がある場合

標準賞与額とは?

「標準賞与額」とは、税引き前の賞与金額から1千円未満の端数を切り捨てた金額のこと。支給1回につき、150万円が上限です。なお同じ月に2回以上支給された場合、合算した金額になります。

厚生年金保険における標準賞与額の対象は、「賃金」「給料」「俸給」「賞与」など名称を問わず、従業員が労働の対償として受け取るもののうち、年3回以下の回数で支給されるものを指すのです。

定期的ではなくとも一時的に支給されるもの、また自社製品などの現物で支給されるものも含まれます。

厚生年金保険の被保険者区分

厚生年金保険の被保険者区分は、以下の2つに分かれます。

  1. 一般の被保険者
  2. 坑内員、船員の被保険者

ここでいう坑内員とは、鉱業法に規定する事業の事業場に使用され、常時坑内作業に従事する者のこと。該当するケースは少なくほとんどの場合、「一般の被保険者」になります。なお保険料率はどちらも同じ18.3%で固定です。

厚生年金保険に関する法改正

先に触れたとおり、厚生年金保険には31の等級があり、区分ごとに異なる厚生年金保険料が決められています。厚生年金保険の保険料率は、年金制度の改正に伴い平成16年から段階的に引き上げられてきましたが、平成29年9月を最後に引上げが終了。

以降は令和2年度現在に至るまで一般の被保険者、坑内員・船員の被保険者ともに18.3%で固定されています。

厚生年金保険料は「標準報酬月額」と「標準賞与額」に現在の保険料率である18.3%を掛けると算出できます

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4.厚生年金保険の加入条件とは?

厚生年金保険の加入者は「第2号被保険者」と呼ばれます。従業員の老後生活をサポートする厚生年金保険ですが、どのような条件を満たせば加入できるのでしょう。ここではさまざまな立場の従業員について、それぞれの加入条件を解説します。

事業主側の加入条件について紹介

まずは事業主側の加入条件について見ていきましょう。会社の規模や業種にかかわらず、従業員を一人でも雇っている事業所は雇用保険法にもとづいた「雇用保険適用事業所」となります。

事業主は従業員の生活を守るため、加入条件を満たすすべての従業員を雇用保険に加入させなければなりません。厚生年金保険の加入条件は、会社が以下に解説する厚生年金保険の適用事業所に該当するかが、ポイントになります。

強制適用事業所に該当するか

法人登記されたすべての事業所は、その事業内容にかかわらず厚生年金保険の「強制適用事業所」となります。

従業員が常時5人以上いる個人の事業所もまた、厚生年金保険の適用事業所です(農林漁業、サービス業などの場合を除く)。もし社長1人だけの会社でも対象となります。

一般社員の場合、たとえ試用期間中でも報酬が支払われていれば雇用保険の加入対象となるのです。これに雇用契約書の有無は問われません。

任意適用事業所に該当するか

前述した強制適用事業所にならない事業所でも、以下の条件を満たせは適用事業所となります。

  • 従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意している
  • 事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けている

これを「任意適用事業所」といいます。

そのほか、特に雇用期間が決まっていない場合や、雇用契約の更新によって31日以上続けて働ける場合、当初31日未満だった雇用契約が31日以上になった場合なども雇用保険への加入が必要です。

従業員側(被保険者)の加入条件について紹介

続いて、従業員側(被保険者側)の加入条件について見ていきましょう。厚生年金保険に加入できる被保険者は、以下4つのパターンに分かれます。

  1. 被保険者(当然被保険者)
  2. 高齢任意加入被保険者
  3. パート・アルバイト
  4. その他被保険者

これらに分類されない人は雇用保険の「短期雇用特例被保険者」となります。短期雇用特例被保険者が失業した場合は、失業手当(基本手当)の代わりに「特例一時金」が給付されるのです。

被保険者

一般企業や工場、商店や船舶など厚生年金保険の適用事業所に常時雇用される70歳未満の人は、「国籍」「性別」「年金受給の有無」などにかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。

ここでいう「常時使用される」とは、雇用契約書の有無とは関係なく、適用事業所で働き、労働の対価として給与や賃金を受け取るという使用関係が常用的にある関係のこと。

したがって試用期間中でも報酬が支払われる場合、使用関係が認められる被保険者になります。

高齢任意加入被保険者

「高齢任意加入被保険者」とは、要件をクリアせず、70歳を超えても老齢基礎年金や老齢厚生年金保険を受給できない場合に、厚生年金保険に加入して受給権を得る被保険者のこと。

高齢任意加入被保険者になるには、「70歳以上である」「適用事業所に勤務している」必要があります。もし勤務先が適用事業所でない場合は、事業主の同意および厚生労働大臣の認可が必要です。

なお老齢または退職を事由とした年金を受け取る権利がある場合、高齢任意加入被保険者にはなれません。

パート・アルバイト

パートタイマーやアルバイトとして勤務している従業員も、事業所と常用的な使用関係にある場合、厚生年金保険の被保険者となります。

被保険者となるかどうかは、同じ事業所で同様の業務に従事する一般社員の所定労働時間および所定労働日数を基準に判断するのです。

1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上である従業員は、パートやアルバイトでも被保険者となります。

その他被保険者

先に挙げた3つのパターン以外にも、以下5つの要件をすべて満たす人は厚生年金保険の被保険者になるのです。

  • 週の所定労働時間が20時間以上ある
  • 雇用期間が1年以上見込まれる
  • 賃金の月額が8.8万円以上である
  • .学生ではない
  • 厚生年金保険の被保険者数が、常時501人以上の法人・個人の適用事業所、および国または地方公共団体に属するすべての適用事業所に勤めている(被保険者数が501人未満の法人・個人の適用事業所でも労使合意にもとづき申出をした場合、任意特定適用事業所となる)

被保険者とされないケース

厚生年金保険の被保険者になるには、常時雇用されているかが基本的な要件になります。しかし以下のケースは被保険者の対象外とされているのです。

  • 日々雇い入れられる人(1カ月を超えて引き続き使用されるようになった場合、その日から被保険者となる)
  • 2カ月以内の期間を定めて使用される人(所定の期間を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から被保険者となる)
  • 所在地が一定しない事業所に使用される人
  • 4カ月以内の季節的業務に使用される人
  • 6カ月以内の臨時的事業の事業所に使用される人

厚生年金保険の被保険者となる基本的な要件は、「常時雇用されているかどうか」です。所在地が一定しない事業所の場合、いかなる場合も被保険者とはなりません

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5.厚生年金保険に新規加入する方法とは?

厚生年金保険に新規加入する場合、事業主は「新規適用届」を提出しなればなりません。新規適用届の提出時期は、加入すべき要件を満たした事実が発生してから5日以内。提出先は事業所の所在地を管轄する日本年金機構の事務センターです。

厚生年金保険の加入が義務付けられている事業所とは?

以下要件を満たす事業所は、厚生年金保険および健康保険の加入が法律によって義務付けられています。

  • 法人事業所で常時従業員を使用するもの(事業主のみの場合を含む)
  • 常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所

ただし5人以上の個人事業所でもクリーニング業や飲食業などサービス業の一部、また農業や漁業などは、この限りではありません。

法人や個人経営事業所の加入方法とは?

法人事業所が厚生年金保険に加入する場合、新規適用届に加え「法人登記簿謄本(コピー不可)」を添付します。また個人経営事業所で強制適用事業所に該当する場合、事業主世帯全員の住民票(コピー不可、個人番号の記載がないもの)が必要です。

厚生年金保険の適用事業所が新たに加入条件を満たした従業員を雇用した場合、雇用保険被保険者資格取得届をしなければなりません。

任意適用事業所としての加入方法とは?

任意適用事業所として申請する場合、所定の新規適用届とあわせて「任意適用申請書」および「従業員の半数以上の同意を得たと示す書類」の添付が必要です。

従業員の2分の1の同意を得られたら速やかに提出しましょう。提出先は事業所の所在地を管轄する年金事務所の事務センターです。

厚生年金保険の新規加入に必要な「新規適用届」は、年金事務所窓口へ持参するほか、電子申請や郵送での提出も可能です

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6.さまざまな厚生年金保険料の支払いについて

厚生年金保険料は、会社員の多くが無意識のうちに支払っている保険料です。ここでは「入社日による支払いの変化はあるのか」「どのような場合に支払が免除されるのか」などについて見ていきます。

厚生年金保険料の支払い

厚生年金保険料は、月単位での計算が基本です。事業所に月の途中から入社した場合、入社日に被保険者の資格を取得したという状況になるため、その月の分から保険料を支払います。

一方、月の途中で会社を退職した場合、資格喪失日が属す月の前月分までを納める状況になるのです。この際注意したいのが、資格喪失日は退職した日の翌日になるという点。

月の末日に退職した場合、資格喪失日は翌月の1日になる1か月分多く保険料を払う状況になってしまいます。月単位での支払いとなるため、日割り計算はありません。

休業後の厚生年金保険料の支払い

産前産後休業や育児休業から復帰したあとは、どのような扱いになるのでしょうか。復帰前と同じく保険料を支払う自体に変わりはありません。

しかし休業以前の給与額をもとに計算した保険料では、大きな負担になります。その点を踏まえ、休業後は以下を充たせば標準報酬月額を改定できるような措置が設けられているのです。

  • 休業前の標準報酬月額と休業後の標準報酬月額を比較した際、1等級以上の差が生じる
  • 休業終了後の翌日が属する月から3か月のうち、少なくとも1か月は支払基礎日数が17日以上ある(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)

厚生年金保険料が免除されるとき

産前産後休業や育児休業の期間中は、厚生年金保険料の支払いが免除されます。

産前産後休業とは、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産のために労務に従事しなかった期間のこと。また育児休業は満3歳未満の子を養育するための育児休業期間を指すのです。

いずれも休業期間中に被保険者が事業主に申し出る必要があります。申し出を受けた事業主が休業取得者申出書を日本年金機構に届けて、問題がなければ休業期間中の事業主と被保険者の保険料支払いが免除されるのです。

厚生年金保険料の支払い免除期間も、将来被保険者の年金額を計算する際は保険料を納めた期間として扱われます