事業承継税制とは? 要件、メリデメ、特例承継計画

事業継承税制とは、事業の後継者が取得した資産にかかる納税猶予制度です。ここでは、事業継承税制について解説します。

1.事業承継税制とは?

事業承継税制とは、経営承継円滑化法にもとづいた認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定資産に対する贈与税や相続税の納税を猶予する制度のこと。下記の2つがあります。

  1. 会社の株式を対象とした法人版事業承継税制
  2. 個人事業者の事業用資産を対象とした個人版事業承継税制

①会社の株式を対象とした法人版事業承継税制

会社の後継者が経営承継円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式を、贈与や相続で引き継いだときに、一定の要件のもとで本来納税すべき贈与税や相続税を猶予する制度のこと。猶予された税金は、将来的に免除、つまり実質ゼロになると想定しています。

②個人事業者の事業用資産を対象とした個人版事業承継税制

個人事業の後継者が、贈与や相続などで取得した特例受贈事業用資産や特例事業用資産についてかかる贈与税や相続税を一定要件下で、納税猶予および免除する制度のこと。

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2.事業承継税制のメリット

事業承継税制にはどのようなメリットがあるのでしょう。それぞれについて見ていきます。

  1. 贈与税や相続税の節税
  2. 節税猶予制度の継続
  3. 後継者不足の改善

①贈与税や相続税の節税

特例事業承継税制(特例制度)では、対象株式の100%、猶予される割合も100%となるため、実質的に税負担がなくなります。制度対象期間は、2018年1月1日から2027年12月31日の10年間です。

贈与税の納税猶予制度

贈与税の納税猶予制度とは、後継者が自社株の贈与を受ける際、一定要件を満たす場合に適用される制度のこと。後継者が、贈与前から保有する議決権株式を含め、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分の贈与税全額が、納税を猶予されます。

相続税の納税猶予制度

相続税の納税猶予制度では、相続などで取得した非上場株式等にかかる課税価額の80%にあたる額の納税が猶予されます。ただし後継者が相続前から保有する議決権株式を含む、発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分に限ります。

節税猶予制度の継続

事業承継税制の特例措置のこと。一般措置では必要な「雇用の8割を守る」という雇用確保要件を満たさない場合でも、書類提出により納税猶予の継続が認められます。

書類には、認定経営革新等支援機関の意見の記載が必須です。また経営状態の悪化により雇用8割を守れないときは、認定経営革新等支援機関の指導と助言内容の記載が必要です。

③後継者不足の改善

事業継承では、相続人が多額の相続税を支払う義務が発生します。とくに中小企業は資金調達に悩むため、後継者不足も深刻化するのです。

その点、株式を後継者に移転するとき納税負担を軽減できる事業承継税制は、後継者不足の改善に大きく貢献します。円滑に事業継承ができるので、休廃業を避けられるのです。

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3.事業承継税制のデメリット

事業承継税制にはデメリットもあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 手続きが複雑
  2. 業績アップに取り組み続けなければならない
  3. M&Aの選択が不可能

①手続きが複雑

たとえば申請時には、「申告期限2か月前に都道府県知事へ認定申請」「認定証交付後、税務署での手続き」が必要です。そして適用して5年間は、都道府県知事へ年次報告書、税務署へ継続届出書の提出が求められます。

対応できる専門家も少ないため、手続きに手間取ってしまうのです。

②業績アップに取り組み続けなければならない

事業承継税制を活用するには、要件を満たし続けなければなりません。もし代表の交代や廃業、自社株譲渡などが起これば、猶予が取り消されるかもしれません。また5年以内の猶予取り消しは、これまでの猶予額全額と利子税の支払い義務が生じます。

そのため事業の弱みをカバーし、強みをよりいっそうのばしながら、業績アップに努めて事業を継続しなくてならないのです。

③M&Aの選択が不可能

もしM&Aにて株式を売却した場合、事業継承税制により猶予されている税金を一括納税しなくてはなりません。
しかしM&Aを行うメリットが大きく、そちらを選択するケースもあるでしょう。その場合、猶予されていた税を納めるだけなので、悲観的に考えることはありません。

また、事業承継税制適用時の猶予税額とM&A時の株式評価額を比較し、評価額が低ければ猶予されている税金の一部が免除対象になります。

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4.事業承継税制が持つ4つの要件

事業承継税制には、4点の要件があります。それぞれについて見ていきましょう。

  1. 対象となる会社の要件
  2. 後継者(受贈者・相続人)の要件
  3. 先代経営者(贈与者・被相続人)の要件
  4. 担保の要件

①対象となる会社の要件

対象となる会社の要件は相続税と贈与税共通で、具体的には以下4つがあります。

  • 中小企業者である
  • 上場会社、風俗営業会社ではない
  • 従業員が1人以上である
  • 資産管理会社ではない

なお中小企業者の要件は業種目ごとに、資本金と従業員数の基準が別途、定められています。

②後継者(受贈者・相続人)の要件

後継者の要件は、相続税と贈与税共通で「相続開始時又は贈与時において、後継者とその親族などで総議決権数の過半数を保有し、かつこれらの者の中で筆頭株主であること」。

また相続税では、「相続開始の直前において役員である」、贈与税では「贈与の直前において3年以上役員であり、かつ、代表者である」といった要件がつけられます。

③先代経営者の要件

先代経営者についての要件は、以下のとおりです。

  • 都道県知事の確認を受けた特例代表者であった
  • 贈与、相続直前まで、先代経営者グループで過半数の議決権を有し、グループの中で後継者を除いたところで筆頭株主である
  • なお贈与税の納税猶予には下記の要件がくわわります。
  • 贈与時までに代表者を退任する

贈与時に保有する株式について、議決権の3分の2に達するまでの部分を、一括して贈与する

④担保の要件

担保の要件は、以下のとおりです。

  • 必要な担保額は、納税猶予の税額と猶予期間中の利子税額以上。ただし対象非上場株式すべてを担保とする場合、見合う担保提供があったものとみなされる
  • 不動産や国債、地方債などの有価証券も担保にできるが、必要な担保額を充足しなければならない

なお担保提供は、贈与税と相続税の申告期限までに行います。

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5.事業承継税制の申請手続きと認定までの流れ

事業承継税制には、一般措置と特例処置があります。基本的な手続方法は以下のとおりです。

  • 特例承継計画の作成
  • 認定経営革新支援機関が所見を記載
  • 贈与の実施
  • 都道府県へ認定を申請
  • 税務署へ贈与税の申告
  • 申請後5年間は毎年報告
  • 6年目以降は、3年に1回税務署へ継続届出書の提出

なお手続きを行う場合、有利な扱いの「特例措置」適用を目指します。それぞれの申請手続きと認定までの流れを確認しておきましょう。ここではそれぞれの手続きについて、解説します。

  1. 相続税での手続き
  2. 贈与税での手続き

①相続税での手続き

相続税の手続きは以下のとおりです。

  • 特例措置活用の場合、特例承認計画を都道府県庁へ提出
  • 相続開始後、8か月目までに都道府県庁へ事業承継税制を申請
  • 審査後、都道府県庁から認定書の交付
  • 相続税の申告書などを税務署へ提出
  • 納税猶予税額および利子税の額に見合う担保の提供
  • 税務署へ申告

なお納税猶予開始5年経過後も、税務署への報告書提出が必要です。

②贈与税での手続き

贈与税の手続きは以下のとおりです。

  • 特例承継計画を都道府県知事へ提出する
  • 審査後、都道府県知事から認定書が交付される
  • 都道府県知事から交付された認定書を添付し、贈与税を申告する
  • 納税猶予税額と利子税の金額に見合う担保を提供する

なお納税猶予を受ける場合、非上場株式を担保にすれば、ほか財産の担保は不要です。

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6.事業承継税制に必要な特例承継税制

事業承継税制に必要な特例承継税制とは何でしょうか。特例承継税制について、下記3つから解説します。

  1. 猶予率100%でリスク回避
  2. 対象は全株式
  3. 適用には報告の継続が必要

①猶予率100%でリスク回避

一般措置と特例措置とでは、猶予率に違いがあります。

  • 一般措置で贈与税は100%、相続税は80%が納税猶予される
  • 特例措置では、贈与税、相続税ともに100%猶予される

一般措置の場合、割合に違いがあるので、「それでは贈与税が有利だから採用しよう」と考えがちです。しかし猶予された分は後に相続時で精算されるため、最終的には80%の猶予になるのです。一方特例措置では贈与税も相続税も100%猶予されます。

②対象は全株式

特例承継税制の対象は全株式です。また継承パターンは、一般措置が「複数の株主から1人の後継者」であるのに対し、特例措置は「複数の株主から最大3名まで」となっています。

複数の後継者へ贈与や相続に対する納税猶予が可能になるため、家族経営や兄弟による共同経営など、会社の実情に応じた事業継承が可能になりました。

③適用には報告の継続が必要

適用には報告の継続が必要で特例承継計画には後継者の⽒名や事業承継の予定時期、承継時までの経営上の課題や対応策、承継後5年間の事業計画などを記載します。そして認定経営⾰新等⽀援機関により指導と助言を受け、期日までに都道府県へ提出するのです。

申告期限後5年間は、雇用維持や納税猶予対象株式の継続保有など、納税猶予要件を引き続き満たしているかどうかについて、毎年1回、都道府県に年次報告します。また都道府県の確認後、別途税務署への手続きが必要になるのです。

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7.事業承継税制で納税が必要になるケース

事業継承税制は納税を猶予するための制度です。しかし条件から外れると、納税が必要になる場合もあります。それぞれにつちえ、ポイント解説します。

  1. 全額納税が必要なケース
  2. 一部納税が必要なケース

①全額納税必要なケース

下記のような状況で事業承継税制の適用が取り消されると、猶予された税の全額額と利子税を納付が必要になります。

  • 後継者の代表者退任、死亡
  • 報告基準日の5年平均従業員数が承継時の従業員数の8割を下回る
  • 後継者と同族関係者の議決権総数が過半数を満たさない
  • 継続届出書の未提出
  • 報告の虚偽

②一部納税が必要なケース

事業継続期間経過後、以下のようなケースに該当すると一部納税が必要になります。

  • 後継者が納税猶予対象株式を譲渡した
  • 会社が会社分割をした(一定要件を満たした場合)
  • 会社が組織変更した(一定要件を満たした場合)
  • 会社が合併により消滅した
  • 会社が株式交換、株式移転により完全子会社となった