新しい組織の形である「ホラクラシー型組織」が注目を集めています。
いままで、企業組織はヒエラルキー型の階層組織で、上下関係があり命令系統があるのが当然のことでした。
しかし、ホラクラシー型組織はこのような旧来の組織形態とはまったく異なるものです。さらに、この新しい組織形態をひとつの成功要因に、大きな成果を挙げる企業がうまれてきました。
ここでは、
- ホラクラシーの意味
- ホラクラシー型組織、ホラクラシー経営のメリット・デメリット
- ホラクラシーの事例
- ホラクラシーを導入する場合の注意点
について解説していきます。
目次
1.ホラクラシーとは?
ホラクラシー(holacracy)とは「」です。
ホラクラシーは、2007年に米ソフトウエア開発会社ターナリ―・ソフトウエアの創業者ブライアン・ロバートソンが提唱し、アメリカやオーストラリア、スイスなどの非営利団体で採用されるようになりました。
組織全体に権限が分散され、組織を構成する個人は肩書きや役職ではなく、サークルのようなチームでまとまって役割を与えられます。
そしてそれぞれのチームが意思決定を行い実行することで、組織全体が自走的にまとまって生産性を上げていくというものです。
ホラクラシーの特徴
ホラクラシーの特徴は大きく分けて、
- 柔軟な組織
- 効率的な組織運営
- 役割の明確化
- 主体性の強化
の4つがあります。
これらがバランスよく実行されることにより、ホラクラシーが組織の自走性を加速度的に上げていきます。それぞれの特徴についてみていきましょう。
①柔軟な組織
まずはホラクラシーは「柔軟な組織」であるということです。
ホラクラシーにはいわゆる管理職といった肩書きに相当する役職はありません。役職があるとしても組織の世話役程度、もしくはメンバー同士の橋渡し役に従事するのが主たる仕事となります。
組織の形はピラミッド型の組織構造ではなく、誰もがフラットな立場で参加する円卓を囲むような円型組織、もしくはアメーバのような変幻自在な組織をイメージするとわかりやすいかもしれません。
②効率的な組織運営
ホラクラシー型組織では、無駄を省いた「効率的な組織運営」を目指しています。
組織の抱えたプロジェクトにおいて上司からの指示を待つ必要はありません。ホラクラシーは組織ありきではなく、実行していくべき業務に焦点を当てて役割分担を行います。
メンバーはそれぞれが自らの責任として問題解決にあたります。必要がなければ指示を仰がないので、意思決定はスピーディーです。
チームの構成員一人ひとりの豊かな発想が速やかに企業活動に反映され、生産性向上など企業活動の可能性が大きく広がります。
③役割の明確化
ホラクラシーでは「役割が明確化」されています。
ホラクラシーでは役職で仕事を割り振ることはありません。
業務を役割ごとに切り分け、それぞれを担当する社員が自発的に意思決定を行っていきます。切り分けた業務を組織の中で集めれば、それがプロジェクトの集大成となる仕組みです。
指示がなくても自らの主体性を存分に発揮できるのは、やるべきこと、すなわち役割が明確になっているからと言えるでしょう。
④主体性の強化
「主体性の強化」に力を入れるのもホラクラシー経営の特徴です。
組織全体で意思決定を引き受けるホラクラシーでは判断を仰ぐ上司がいません。よって、組織の構成員一人ひとりの主体性が非常に重要になってきます。
個々の主体性を強化することで組織全体の底上げを図り、企業活動を効率化・活性化させるため、非常に重要なポイントとなっています。
2.ホラクラシー経営のメリットとザッポス社の事例
ホラクラシー経営のメリット、そして事例について見ていきます。
メリット・効果
ホラクラシーが提唱されてから10年、アメリカでは300社がホラクラシー型組織を導入しており、その8割が1年後もホラクラシー型組織のメリットを感じ、継続しています。
ホラクラシー型組織のメリットとして、
- 生産性の向上
- ストレスの軽減
- 会議の活発化
が挙げられます。
生産性の向上
ホラクラシーによるメリットで最初にあげられるのは「生産性の向上」です。
組織の中で管理・監督者の業務負担の大きさは無視できないものがあります。組織を管理・監督する業務がなくなれば、業務遂行の最終責任は組織全体に委ねられます。社員一人ひとりは個人の業務に集中でき、それぞれが主体的に業務に取り組めるので、自ずと生産性が向上するのです。
ストレスの軽減
従業員の「ストレス軽減」もメリットの一つです。
上下関係のある組織では、上司の顔色を気にしたりなど余計な気づかいをしてしまうこともあります。しかし、ホラクラシーでは役職がなく組織がフラットに構成されているので、そういった気づかいは必要ありません。
また、主体的に業務に取り組むことになるので、「やらなければいけない」から「やりたい」という姿勢を持ちやすくなります。仕事への(ネガティブな意味での)義務感が消え、やりがいがうまれ、ストレスが軽減されます。
会議の活発化
ホラクラシー型組織では「会議の活発化」が起こります。
社員の役割が明確なので担当業務について発言するのが当然だからです。また、ホラクラシーでは業務を遂行する際、社員は自ら意思決定を行います。
そのため、社員の意識の中に責任感や主体性が自ずとめばえてきます。もちろん、それは日々の会議の場でも発揮され、積極的な意見交換を容易にするのです。
最も有名な事例:ザッポス
ホラクラシーは、2014年にアメリカのアパレル通販のザッポス社(Zappos)が導入したことで話題になりました。
ザッポス社はノーネクタイを企業ポリシーとしており、来訪者がネクタイをしていると半分にカットして飾るなどおもしろい社風の、しかしサービスのついでに靴を売ると言われる程、顧客満足度が高い会社です。
そのザッポス社から、ホラクラシー導入によって管理職がいなくなりました。このシステムに慣れるまでにはある程度の時間がかかることが予測され、1500人いる社員のうち210人は新しい組織になじめないとして早期退職を選んで辞めていきました。
しかし、CEOのトニー・シェイは、ホラクラシーによる新しい組織は、社員がセルフマネジメントを実現してひとりひとりが起業家のように動き、発想やイノベーションが活発になり、チームワークも円滑になって、大きな効果が現れることが期待できるとしています。
ホラクラシーがザッポス社の経営にどのような変化をもたらすのか、多くの企業が注目しています。
3.ホラクラシーのデメリット
ホラクラシー経営のデメリットにも触れていきます。
メリットだけを見ると魔法の経営手法のように思えますが、ホラクラシーにはどのようなデメリットがあるのでしょうか?
リーダー不在による負担の増加
ホラクラシーの最大のデメリット(そしてメリット)は「プロジェクトに関して管理や監督をする人物がいない」という点です。
つまり、組織を取りまとめ、問題解決の中心となる人物が不在なのです。トラブルが発生し、その責任をとれるリーダーがいないとき、その対応は個々の社員に一任されます。
トラブルが大きいほど、その精神的・肉体的負担は大きくなってしまい、それらが蓄積されるとストレスを感じ、仕事への意欲を失ってしまう可能性もあるでしょう。
組織のコントロールが困難
組織がチームとしてプロジェクトに取り組む際、大事にしなければならないことのひとつにチームワークがあります。
チームワークを保つには、お互いの置かれている立場、業務の進捗状況などの情報交換が不可欠です。ホラクラシーの基本は、個人の裁量で業務を遂行するということ。
すなわち、同じチームであっても、ほかの社員の進捗状況などの情報が入りにくくなることで視野がせまくなって、自分の役割だけに没頭してしまう恐れがあります。
4.ホラクラシー経営を導入する際の注意点
メリット、デメリットの双方が混在するホラクラシー経営。
もし、本気で導入を考えた場合、メリットは十分に享受しながら、デメリットを最小限に抑えたいものです。
実は、いくつかのポイントをクリアにすれば、ホラクラシー経営はリスクの高い手段ではありません。次に、ホラクラシー経営を導入する際に、どのようなことに気を付ければいいのかをご紹介しましょう。
部署やチームなど小さな単位から導入する
もっとも注意が必要なのは「導入する際の組織の規模」です。ホラクラシーは、上司からのトップダウンではなく組織全体で意思決定を引き受ける新しい組織の形です。
いきなり会社全体で導入を開始するとなれば、旧態依然とした日本的組織運営が浸透している企業ほどトラブルが続出する可能性が高まります。
ホラクラシー的思考を全員が理解した上で実践できるよう、最初は部署、チーム、プロジェクトごとといった小さな単位から導入することをおすすめします。
セルフマネジメントができるメンバーでチームを構成する
次に注意したいのは「導入する際のメンバー構成」です。現段階の日本では、上司から指示を受け、それに対する自分のパフォーマンスを報告する手法が一般的です。
でも、ホラクラシーは組織の構成員一人ひとりが意思決定を行います。セルフマネジメントができるメンバーでチームを構成することが最低条件になります。管理されないとパフォーマンスが落ちるというような人は、メンバーとして不適格です。
定期的に情報共有の時間をつくる
ホラクラシーのデメリットとして組織のコントロールが困難であることが挙げられていました。
そこで、
- 社員同士がコミュニケーションをとれる機会を増やす
- チームとしての仕事の進捗を確認する
- 定期的にミーティングを開催する
など「情報共有の時間を作る」ようにすればそのデメリットが軽減できます。
個々の仕事に没頭しつつ、組織としてのまとまりを意識できる場面を積極的に設け、組織のコントロールができる状態をキープしましょう。