業務請負とは? 業務請負契約書、業務委託・派遣との違い

業務請負とは、「成果物の完成」に対して報酬が生じる契約形態のこと。アウトソーシングの一種です。ここでは業務請負のメリットとデメリット、業務請負契約を結ぶ際の注意点などを解説します。

1.業務請負とは?

業務請負とは、社外の事業者または個人へ一連の業務を委託すること。アウトソーシングの一種で、民法では「請負契約」と呼びます。業務請負の主な特徴は次の2つです。

  1. 成果物の完成に対して報酬が生じる
  2. 成果物が完成する工程や手段は請負側に一任され、依頼側は作業指示を行えない

業務請負では、成果物を報酬の対象とします。そのためWeb制作やシステム開発など、成果物を明確に指定できる業務で多く見られる契約形態です。なお成果物を完成させる過程で発生した経費は、契約当初に取り決めた報酬に含まれます。

また依頼側は、請負側が業務を行う場所や作業の進め方などの指示を出せません。請負側の希望があれば依頼側のオフィスへ赴いて業務を行うのも可能ですが、その場合も依頼側に指揮命令権はありません。

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2.業務請負契約書とは?

成果物の完成を目的とし、契約時に作成される書類のこと。成果物は、建築物やWebサイトなど形のあるものだけではありません。セミナーでの講演や物の運搬、治療行為などの形のないサービスも含まれます。

業務請負契約書を作成する目的は、依頼側と請負側の認識を事前に合わせること。お互いに成果物の条件などを確認しながら契約書を作成すれば、思い込みや勘違いなどによるトラブルを回避できます。

双方の認識を合わせるため、請負契約書には以下の5項目を記載するのが一般的です。

  1. 成果物(何をもって完成とするか)
  2. 原材料の支給(原材料や交通費などをどちらが負担するか)
  3. 委託料(報酬金額や支払方法、支払時期、振込手数料どちらが負担するかなど)
  4. 納入、検収、引渡し:(それぞれの時期や方法)
  5. 契約の解除(契約解除の条件)

業務内容によっては、「知的財産権が生じた場合にどちらに帰属するか」や「再委託の可否」などの項目を設ける場合もあります。

主な種類

業務請負契約書には、業務の内容によってさまざま。「工事請負契約書」「物品加工注文請書」などのほか、スポーツ選手やタレントの「専属契約書」も請負契約書の一種です。

たとえば建築や工事の請負契約では、成果物の内容を図面の添付などで明確に示し、「契約保証金」や「解体費用」に関する項目が設けられます。一方、ITシステムといった請負契約書では、「運用保守」や「秘密情報の取扱い」などの項目が欠かせません。

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3.業務請負と業務委託、派遣の違い

業務請負と混同しやすいのは「業務委託」と「派遣」です。いずれも「業務遂行者の間に雇用関係がない」という共通点があります。しかし一方で業務請負とは、「報酬の対象」や「指揮命令権の所在」が異なるのです。

業務委託との違い

業務請負と業務委託の違いは、「何に対して報酬が支払われるか」。

業務請負は成果物の完成に対して報酬が支払われますが、業務委託の場合は「実際に行った業務」に対して支払われます。業務委託でよく見られる業務内容は、ビル管理や訴訟代理、コンサルタントなど。いずれも明確な成果物を指定しにくい業務です。

なお業務委託も、社外の事業者へ業務を委託するアウトソーシングとなります。業務の工程や手段は委託者へ一任され、依頼側は委託者へ直接指示を出せません。

派遣との違い

業務請負と派遣の違いは、「報酬が発生する対象」と「指揮命令権の所在」。

派遣会社は自社の社員を派遣先企業へ出向させ、派遣社員は契約した業務を遂行します。そして派遣先企業は、業務内容に応じた報酬を派遣会社へ支払うのです。派遣の報酬の対象は業務、業務請負は成果物という点に違いがあります。

また派遣先企業は、派遣社員に対する指揮命令権を持つのです。つまり派遣先企業は、派遣社員に対して直接業務指示などを出せます。一方、業務請負では、依頼側に指揮命令権はありません。

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4.業務請負のメリット・デメリット

業務請負では、成果物が完成するまでの人件費を削減できます。一方、作業を社外へ依頼するため、ノウハウやスキルなどを社内へ蓄積できなくなるのです。ここでは業務請負のメリットとデメリットについて、説明します。

メリット

企業が業務請負を活用するメリットは下記の3つです。それぞれについて説明しましょう。

  1. コストの削減
  2. 業務効率アップ
  3. 生産性の向上

①コストの削減

業務請負では、依頼側は「成果物」に対して契約した額の報酬を支払います。請負側が成果物完成までに多くの時間を要したとしても、報酬に影響しません。残業代を支払う必要がなく、その分人件費を削減できるのです。

また自社で成果物を完成させるには、担当社員へ必要な知識やスキルを習得させなければなりません。業務請負を活用すれば、自社の人材を育成する必要がなく、教育や研修の費用や労力の削減が可能です。

②業務効率アップ

業務請負では成果物の内容や納期、報酬を明確にして契約を結びます。予算や日程をオーバーせずに成果物が納品されるのです。成果物を用いた業務も計画どおりに遂行でき、業務効率が上がります。

③生産性の向上

依頼側には指揮命令権がないので、成果物完成に関する業務の監督は不要です。人材や労力を別の業務に当てられるため、企業の生産性も向上します。

デメリット

業務請負のデメリットは下記の3つです。それぞれについて説明しましょう。

  1. 人材が育たない
  2. 成果物の質が保証されない
  3. 発注後に変更できない

①人材が育たない

自社の人材を教育する必要がない反面、社員の知識やスキルが向上しません。社内にノウハウを蓄積したい場合、「すべてを請負に頼らずできることは自社で行う」や「業務過程の報告義務を契約に盛り込み、作業の流れを共有する」といった工夫が必要です。

②成果物の質が保証されない

請負側の技量は一定ではありません。そのため成果物の質を一定に保つのが難しくなります。業務請負契約の際に、別紙で求める品質について詳細に提示しておきましょう。

③発注後の変更が難しい

発注後に果物の設計や仕様に不備が見つかり、成果物の条件が変更される場合もあります。たとえば「施主の希望によって住宅の間取りが変わった」といったものです。この場合は、依頼内容の変更や追加に関する請負契約の締結が必要です。

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5.業務請負で注意すべき偽装請負

偽装請負とは、請負契約を結んでいるにもかかわらず、実際の業務形態が「労働者派遣」に該当する請負契約のこと。請負か派遣かは「契約形態」ではなく「業務実態」で判断します。

判断基準に用いられるのは、厚生労働省が告示した「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分による基準」。たとえば以下のような場合、偽装請負と見なされます。

  • 依頼側が請負会社の社員に業務内容への細かな指示を行う
  • 形式上、請負会社の現場責任者を設置しているが、実際は依頼側が業務指示を行う
  • 依頼側が請負企業の社員の勤務時間や始業就業時間の管理を行う
  • 業務内容が肉体労働であるといった、「成果物の完成」ではなく「労働力の確保」が主な目的になっている

たとえ契約形態が請負でも、業務実態が労働者派遣であれば偽装請負と見なされます。なお偽装請負は違法であり、請負側と依頼側の双方が罰せられるのです。

偽装請負にならないための対策

偽装請負とみなされれば、罰則を受けるだけでなく企業の社会的信用も失いかねません。偽装請負にならないためには、請負契約書に契約内容をできるだけ詳しく記載することが大切です。

とくに業務に変更が生じた場合の手続きについては、明確にしておく必要があります。

具体的には「業務の内容や実施方法において変更を行う必要があると判断した場合、協議のうえ変更できる」のような内容をくわえる方法です。このような記載があれば、発注後に業務内容を変更しても指揮命令とは見なされません。

また「請負側が依頼側のオフィスへ赴いて作業する場合は、席をわける」といった記載をし、請負側が依頼側の指揮命令を受けないことを明確化するのもよい方法です。

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6.業務請負契約を結ぶ際の注意点

業務請負契約で交わされる書類はいくつかあります。それぞれの書類を使用する際の注意点を説明しましょう。

  1. 業務請負契約書
  2. 見積書
  3. 発注書

①業務請負契約書

業務請負契約書を作成する際の注意点は3つです。

記載する内容の明確化

契約書がなくても双方の合意があれば、請負契約は可能です。しかし口約束では、あとから「言った」「言わない」といったトラブルになりかねません。委託内容を詳細に記載した業務請負契約書は必ず作成すべきです。

業務内容はもちろん、委託料や納期、解約に関する定めや遅延損害金、機密情報や個人情報の取り扱いなどを定めておきます。また双方の思い込みや誤解を防ぐためにも、依頼側と請負側の認識をすり合わせましょう。

収入印紙の添付

業務請負契約書は印紙税法の第2号文書に該当するため、印紙税が発生します。そのため依頼側は、契約金額に応じた収入印紙を契約書へ貼らなければなりません。

契約金額に消費税が明確に記載している場合、消費税を引いた税抜価格に応じた収入印紙を、消費税額の記載がない場合は税込価格に対する収入印紙を添付します。

民法改正による注意点

2020年の民法改正で、「瑕疵担保責任」の名称が「契約不適合責任」へ変更されました。内容に変化はなく、いずれも「納品された成果物が契約内容と適合しない場合、請負側が負う責任」を示します。契約書に記載されている用語に誤りがないか、確認しましょう。

②見積書

契約の前段階に交わされる書類のこと。請負側が作成し、成果物の内容やスケジュール、工程や金額などを請負側へ具体的な数値で示します。見積書の受け取りにおける注意点は以下の3つです。

価格の変動

為替や材料費の変動により、記載された金額が変更される場合もあります。価格変更の際には必ず、新しい見積書の提出を求めましょう。

見積書の有効期限を記載してもらうと、その期間ならばその金額で依頼可能です。ただし正式な契約を交わす際は、必ず最終的な金額を確認する必要があります。

具体的な数値の記載

内容に具体性がなく単位に「一式」などと記載されている見積書は要注意です。項目や単位、数量や単価が明確に示されているかを確認し、それぞれの数値が妥当なものかを検討します。

変更内容の記載

口頭で交渉して見積書の内容が変更になった場合、必ず書面化します。契約後のトラブルを避けるためです。変更事項があれば、そのつど新しい見積書の発行を依頼します。

③発注書

商品やサービスなどを発注する際に交わす書類のこと。正式に請負を依頼する書類として依頼側が作成します。発注書の作成での注意点は以下の2つです。

見積書に沿って作成

双方が納得した最終見積書に沿って、内容や数値を確認しながら作成します。見積書と発注書に相違があると、受注を拒否されかねません。また見積書の内容を転記すれば記載ミスを防げますし、契約の最終確認にもなります。

保存期間

発注書といった帳簿と紐づく書類は、法律により一定の保存期間が定められています。法人か個人事業主かで保存期間は異なるものの、どちらも確定申告の提出期限の翌日から起算するのが一般的です。

法人の場合、法人税法では原則7年です。ただし欠損金が生じた事業年度では、会社法で10年の保存が定められています。一方個人事業主の場合、所得税法での保管期間は5年、消費税法では7年と定められています。

それぞれ長い方の期間をとって「法人は10年間」「個人事業者は7年間」で保存しておけば確実です。