エフェクチュエーションとは?【わかりやすく】コーゼーション

エフェクチュエーションとは、大成功した起業家達の思考や行動のパターンを体系化した論理のこと。従来の手法であるコーゼーションとの違いや、実践方法などを詳しく解説します。

1.エフェクチュエーション(effectuation)とは?

エフェクチュエーション(effectuation)とは、成功した起業家の思考や行動の共通点を体系化した論理のこと

英語で「(期待する結果をえるために)有効な、効果のある」を意味する形容詞「effectual」と、変化をもたらす働きかけを意味する接尾語「-ation」を組み合わせた言葉です。

エフェクチュエーションでは、目標を最初に設定するのではなく、現在の手段や状況を活用しながら新たな可能性を見出していくことを重視します。そのため起業家だけでなく、さまざまなビジネスの場面で注目されています。

起源となった研究

エフェクチュエーションは、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏の研究により発見されました。

研究内容は、27人の大成功を収めた起業家を対象に、起業する際に行う10の意思決定について17個の質問を行い、得られた回答から共通する思考プロセスを分析するというもの。

同氏はこの研究結果を体系化し、著書『エフェクチュエーション:市場創造の実効理論』にまとめました。

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2.エフェクチュエーションが注目されている理由

流動的で変化が激しい現代のビジネスシーンでは、従来のアプローチ方法が通用しない場面が増えており、変化に対応しやすいエフェクチュエーションの思考やプロセスが注目されています。具体的な理由を解説しましょう。

起業家メソッドの確立

エフェクチュエーションの発表以前、起業家の特性については「持って生まれた才能や家庭環境による」といった抽象的な説明にとどまっていました。

しかし、エフェクチュエーションの発表により起業家の思考様式が体系化され、誰もが「起業家精神」を学ぶことが可能になったのです。そのためエフェクチュエーションは広く注目を集めるようになりました。

目標設定型手法の機能不全

ビジネス環境の変化により、最初に目標を設定するという従来のアプローチ方法では成果を上げにくくなったため、エフェクチュエーションが注目されています。

これまではまず目標を定め、調査や分析を行って立案した計画に沿って行動していく方法が主流でした。しかし変化が激しくビジネスの先行きが不透明な昨今では、正確な調査や分析が困難に。

そのような時流から、過去のデータや予測に頼るのではなく現在のリソースや状況を最大限に活用し、新たな可能性を見つけ出ることを重視するエフェクチュエーションのアプローチ方法が注目されたのです。

STPマーケティングの限界

ビジネス環境の変化のスピードにSTPマーケティングが追いつけなくなったことも、エフェクチュエーションが注目される理由のひとつです。

STPマーケティングとは、「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」の頭文字をとった言葉で、市場を細分化してターゲットを定め、自社の立ち位置を明確化するアプローチ方法のこと。顧客ニーズの把握や他社との差別化を図れます。

しかし市場環境が急激に変化するため、分析に時間がかかるSTPマーケティングでは後れをとりかねません。そのため現状に適合させるエフェクチュエーションの方法が注目されているのです。

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3.エフェクチュエーションとコーゼーションの違い

「コーゼーション(Causation)」とは、目標を設定してから達成の手段を検討する逆算的な方法のこと。最初に目標を設定しないエフェクチュエーションとは対極に位置しています。

エフェクチュエーションとコーゼーションの違いについて、「アプローチ方法」「活用できる場面」の観点から説明しましょう。

アプローチ方法

エフェクチュエーションとコーゼーションでは、結果へのアプローチ方法が大きく異なります。

コーゼーションは、まず「求める結果」を明確にして、「これを達成するには何をすればよいか」を考察し、最適な手段を検討し選択するというアプローチです。

一方エフェクチュエーションでは、「今持っている手段」を明確に把握して「この手段を使ってできること」を検討し、可能な結果を構想していきます。

活用できる場面

エフェクチュエーションとコーゼーションはアプローチ方法が大きく異なるため、場面によって使いわける必要があります。

過去のデータから予測して目標や手段を決めるコーゼーションは、十分な情報があって予測可能、かつ環境の変化が少ない場面で有効です。

結果を柔軟に創造できるエフェクチュエーションは、情報がなく予測不能で、行動によって環境が変化する場合に有効だといえます。

たとえば新商品の開発において、情報の多い既存市場をターゲットとするならコーゼーションのアプローチ、新商品とともに新たな市場を創造するならエフェクチュエーションのアプローチを活用するなど、場面に応じて使いわけることが重要です。

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4.エフェクチュエーションの原則5つ

エフェクチュエーションは、以下の5つの原則から構成されています。それぞれについて詳しく説明しましょう。

  1. 手中の鳥の原則
  2. 許容可能な損失の原則
  3. クレイジーキルトの原則
  4. レモネードの原則
  5. パイロットの原則

①手中の鳥の原則

新しい方法を探すのではなく、今手の中にある方法で新しい何かを創造するという原則です。起業家は自身の限られた資源を最大限に生かし、自らの手で新たなビジネスチャンスや成果を作り出す必要があります。

そのためエフェクチュエーションのアプローチでは、自分の持つ資源を確認して把握することを原則とし、「スキル」「専門性」「知識」「人脈」「ノウハウ」「環境」など、自身がすでに持っている要素をすべて資源ととらえ、これらをどのように生かせるかを考えるのです。

②許容可能な損失の原則

許容できる損失の範囲をあらかじめ設定しておき、それを超えないように行動する原則です。エフェクチュエーションでは、仮に損失が生まれても、致命傷にならないラインを決めておきます。

大きな利益を得るためには大きなリスクを伴うのも少なくありません。エフェクチュエーションでは、起業におけるリスクを最小限に抑えるため、小さなステップで始めることが重要だとしているのです。

この原則に沿って新しい商品やサービスを開発する場合、一度に大規模な投資やリソースを使うのではなく、小さなスケールでテストやプロトタイプを作って市場の反応を確認するなどのアプローチが挙げられます。

③クレイジーキルトの原則

「顧客」「消費者」「従業員」「競合他社」など、あらゆるステークホルダーとの関係性を構築し、一緒に目標に向かって進んでいくという原則です。

クレイジーキルトとは、形や大きさが違うさまざまなキルト生地を不規則に縫い合わせるパッチワークの技法で、さまざまな種類のキルト生地を起業家のステークホルダーに見立てています。

フェクチュエーションにおいて起業家は、競合他社でさえもビジネスパートナーと見なし、双方の事業拡大のために協力して良好な関係を築いていくべきとしているのです。

④レモネードの原則

失敗作や欠陥品をただ捨てず、それを生かす方法を考える原則です。由来は「粗悪なレモンは、美味しいレモネードにして売る」という考え方で、発想次第で、失敗が大成功に転じることを意味します。

エフェクチュエーションにおいても、本来の予定や計画とは異なる結果や問題が生じた場合でも、失敗を否定せずに創造的な発想の機会としてとらえ、創意工夫を重ねて新たなビジネスチャンスや価値を見つけ出そうと考えるのです。

⑤パイロットの原則

つねに現状を正確に把握し、状況に応じた行動を取るという原則です。操縦桿を握るパイロットが、つねに数値を確認して現状を把握し、臨機応変に行動していることに由来します。

エフェクチュエーションが有効に活用されるのは、情報がなく予測不能で、環境が行動によって変化する場面。そのため現状を正確に把握して状況に応じた行動を取り、自ら環境を変えていくことが重要なのです。

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5.エフェクチュエーションに必要な3つの資源

エフェクチュエーションを実践するには、まず自分自身が持っている3つの資源を確認することから始めます。

  1. 自分は誰か(Who I am)
  2. 何を知っているのか(What I know )
  3. 誰を知っているのか(Who I know )

①自分は誰か(Who I am)

自分自身の「特質」「魅力」「強み」などを明らかにします。自分の個性を資源として利用することが、エフェクチュエーションの第一歩です。

②何を知っているのか(What I know )

自身の「学歴」「専門知識」「経験」を明らかにします。これらの違いから知識の内容や量の差が生じ、個々の人にとってのスタート地点や目標も異なるからです。

③誰を知っているのか(Who I know )

自分が持つ社会的ネットワークや人脈を明らかにします。直接的な知り合いである家族や友人、親戚のほか、他者を通じて知り合った人までできる限り挙げて資源にくわえます。

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6.エフェクチュエーションの実践方法

エフェクチュエーションは、起業家だけでなくビジネスのさまざまな場面で活用されています。ここではエフェクチュエーションの具体的な実践方法を解説しましょう。

  1. 現場の行動模範を設定
  2. 競争戦略の改善
  3. アスキングの練習
  4. アイデンティティの可視化と共有

①現場の行動模範を設定

優れた起業家たちの思考プロセスや行動パターンを組織の行動規範として設定すると、斬新な発想が生まれやすくなります。

とくに「クレイジーキルトの原則」を実践し、あらゆるステークホルダーと積極的に関与して良好な関係を築くと、新たなビジネスチャンスが広がるでしょう。異なる人々や組織との連携や協力を通じて、より多くのアイディアやリソースを得られることもあります。

②競争戦略の改善

従来の競争分析にくわえて、エフェクチュエーションの原則を取り入れると、柔軟かつ創造的な戦略を立案できます。

近年、急速に変化へ対応しながら既存の市場や競合他社と差別化を行うために、過去の枠組みを一新する「リフレーミング」が重視されるようになりました。

エフェクチュエーションを実施して従来の枠組みを超えたアプローチを行い、関与者と良好なパートナーシップを構築すると、時代に合った競争戦略を展開しやすくなります。

③アスキングの練習

エフェクチュエーションにおけるアスキング(asking)とは、パートナーを獲得するための「問いかけ」のこと。他者に対して資源や協力を提供してもらえないかと尋ねる行為を指します。

さまざまな相手から自分の求める協力を引き出すスキルであるため、ビジネスの多くのシーンで役立ちます。

アスキングは、実践を重ねることで上達するスキルです。トレーニングを繰り返して、相手に資源の提供を求める姿勢や適切なタイミングや表現方法を学びましょう。

④アイデンティティの可視化と共有

エフェクチュエーションを活用して事業を展開するうえで、アイデンティティ(identity)はアスキングスキルと同様に重要な要素。アイデンティティは、事業の方向性を明確にし、チームやビジネスパートナーが共有する目標やビジョンを示す役割を果たすからです。

アスキングによって関係を築く一方で、アイデンティティを可視化してビジネスパートナーに明確に伝えると、共通の目標に向かって連携し、一丸となって事業を推進できます。

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7.エフェクチュエーションの事例

エフェクチュエーションを実践して成功した企業は数多くあります。ここではUSJと亀田製菓株式会社の事例を解説しましょう。

USJ

USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)を運営する合同会社ユー・エス・ジェイは、人身事故や衛生問題などの不祥事が重なって業績が低迷。

経営戦略を刷新するために、経営陣をマネージャータイプの人材から、新規事業やマーケティングに精通した起業家タイプの人材に切り替えました。

積極的に日本のアニメコンテンツとコラボする、のように「利益の追求」から「顧客をいかに楽しませるか」という経営にシフトし、業績がV字回復を遂げたのです。

亀田製菓株式会社

「レモネードの原則」を用いて、失敗を成功に転じた事例です。

亀田製菓株式会社の人気商品「柿の種」は、当初は普通の小判型のせんべいでした。しかし型抜きのミスで三日月型になってしまい、納期が迫っていたためしかたなくそのまま出荷。

ところが商品を買った消費者から「面白い形で食べやすい」という声が相次ぎ、結果的に「柿の種」は亀田製菓を代表する大ヒット商品になったのです。