2016年より国家資格になったキャリアコンサルタント。求められる社会的役割は非常に大きく、厚生労働省は2025年度までに10万人の養成を目標としているのです。
- キャリアコンサルタントが必要となった背景
- キャリアコンサルティングとは?
- 企業にもたらすメリット
- 向く人、向かない人
- キャリアコンサルタントになる方法、やり方
などから、キャリアコンサルタントについて掘り下げていきます。
目次
1.キャリアコンサルタントとは?
キャリアコンサルタントとは、個人の能力、興味、価値観、特性をもとにその人にとって適した職業の選択や、能力の開発を援助したり、スキル活用を指南したりするなど、キャリアに関するコンサルティングを行う専門家のこと。
相談者は、キャリアコンサルティングを通して自分の適性や能力に気付きやすくなります。自分に合った仕事を主体的に選択できる可能性が高まるでしょう。
言葉の意味
キャリアコンサルタントとは、キャリアコンサルティングを行う専門家のこと。その言葉の意味を説明しましょう。
careerの意味
キャリアは(英語表記career)は、これまでの仕事で培った経験や経歴と訳せます。上級試験や一種試験に合格して採用された国家公務員のことです。
consultingの意味
コンサルティング(英語表記consulting)は、専門的な知識を持つ人が相談に乗るもしくは指導すること。企画を立てる手伝いを指す場合もあります。
名称独占資格
キャリアコンサルタントになるためには、キャリアコンサルタント国家試験に合格し、キャリアコンサルタント名簿に登録する必要があります。名簿に登録することでキャリアコンサルタントの肩書きを名乗れるのです。
これを名称独占資格といい、守秘義務、信用失墜行為の禁止義務が課されます。名称独占資格に違反した場合は、30万円以下の罰金に処せられるので注意が必要です。
2.キャリアコンサルタントが必要となった背景
キャリアコンサルタントは2016年に国家資格となり、社会的な注目がさらに高まっています。また国の「働き方改革」が施行され、厚生労働省では企業へのキャリアコンサルタント導入を積極的に進めているのです。
なぜこれほどまでにキャリアコンサルタントが必要となったのでしょうか。その背景には、日本特有の終身雇用制度や年功序列など雇用慣行の崩壊による雇用環境の変化があります。
余暇や自分の時間を大切にする傾向、多様化する働き方など、以前より個人が自分自身でキャリアを形成する時代になったため、キャリアコンサルタントの必要性が高まったのです。
3.キャリアコンサルティングとは?
キャリアコンサルティングは、実際どのようなことを行うのでしょう。相談者へのサポートの一例として以下の4つを解説します。
- 目指すキャリアを明確にする
- 自己理解
- 啓発
- 仕事への意識向上
①目指すキャリアを明確にする
相談者が自ら、キャリア形成やその方向を実現させるための具体的な方法を考えるために、キャリアコンサルタントは相談者に寄り添い理解して、共に相談者の成長を促します。その一歩が相談者の目指すべきキャリアを明確にするサポートです。
「何を目指せばいいか分からない」「スキルアップして良い仕事に就きたいが何をすればよいか分からない」と悩む相談者もいるでしょう。
キャリアコンサルタントは相談者のこれまでの経験や関心事などを聴き、どういう方向に進みたいのか、どういう方向が合うのかを一緒に探していくのです。
②自己理解
傾聴やカウンセリングを用いて、相談者の学生時代の経験や関心事、仕事での不安や不満、将来の希望、現在抱えている問題や課題などを詳細に聞き出します。
じっくり話してもらうことで、相談者に自分の過去の振り返りや性格、スキル、現在の状況、価値観などを見つめ直してもらうのです。自分自身を知らなければ、進むべき方向は決められません。
キャリアコンサルタントは相談者の話にしっかりと耳を傾け、自己理解へと導きます。
③啓発
相談者が希望した際、実際に仕事を体験できるようサポートします。興味を持った仕事、これまでのキャリアを別の職種で試してみたいなどといった相談者に、インターンシップ、職場見学、職場体験などさまざまな場を設けるのです。
実際に現場を見たり、仕事を体験したりすることで自己理解が、業務内容を間近で見聞きすると仕事への理解が深まります。就職した際、理想と現実のギャップで苦しむことも減るでしょう。
④仕事への意識向上
カウンセリングで自己を理解し、職場見学や体験などで仕事への理解が深まれば、相談者の方向性が定まっていくでしょう。
相談者の意思が決定したら、目標を達成するためには必要な知識やスキルを考え、計画を立てて、実際の取り組みへと進んでいきます。
キャリアコンサルタントは進捗状況の確認、必要な情報提供や励ましなどで相談者のスキルが発揮できるよう支えていくのです。
4.キャリアコンサルタントが企業にもたらすメリット
厚生労働省ではキャリアコンサルタントを、企業へ導入するよう勧めています。実際にキャリアコンサルティングを活用するメリットとして、挙げられるのは下記のようなものです。
- 社員同士のコミュニケーションの促進
- 社員の職業能力の向上
- 業績や生産性の向上
厚生労働省の「能力開発基本調査」(平成30年度)によると、キャリアに関する相談が役立ったと答えたのは、正社員が92.8%、正社員以外で89.8%。
また労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書No.191」によると、キャリアに関する専門家に相談してキャリアや職業生活は変化したと回答したのは69.7%でした。
5.キャリアコンサルタントに向く人、向かない人
キャリアコンサルタントは人を相手にする仕事です。向く人、向かない人について見ていきましょう。
キャリアコンサルタントに向く人
キャリアコンサルタントに向いているのは、人のために動くのが好きなタイプの人。
仕事で悩んだ経験を持つ
相談者の多くは、自分自身のキャリアについてさまざまな悩みを抱えています。どんな仕事を目指せばよいのか先行き不安な人や、仕事で大きなミスや失敗が続いて仕事やキャリアの適性について考えている人もいるでしょう。
そうした相談者の悩みに共感できるのは、同じように自分自身が仕事で悩んだ経験を持っている人です。そういう人には、相談者も心を開きやすくなるでしょう。相談者に寄り添ってしっかり話に耳を傾けることが大切です。
人のサポートをするのが好き
キャリアコンサルタントは人を相手にする仕事です。相手の心を開き、これまでの成功体験だけでなく失敗した経験や不安、悩みなどを話してもらい、相談者のキャリアからメンタルまで幅広くサポートします。
そのためには相談者との信頼関係を築くことが重要です。キャリアコンサルタントは、人に興味がある、人と接することが楽しい、人の役に立ちたいなどの強い気持ちを持っている人が向いています。
また、そうした人は細かいところまで配慮できるため、相談者のコーチングやティーチングもできるでしょう。
向上心が強い
キャリアコンサルタントは専門知識とスキルを必要とされる職業です。国家試験に合格してキャリアコンサルタントとして就職できたとしても、日々の勉強や情報の収集を怠れば、スキルの向上は望めません。
法改正が実施されるなど、社会で必要とされる知識も変化しています。向上心が強くなると、専門書を読んだり勉強したりすることも苦ではなくなるため、新しい知識やスキルのアップデートが可能となるのです。
キャリアコンサルタントに向かない人
キャリアコンサルタントに向いていないのは、相手に共感できないタイプの人です。
相手を自分の思い通りにしたい人
キャリアコンサルタントの大きな役割は、相談者のキャリアについてサポートすること。豊富な知識と専門のスキルを身に付け、相談者一人ひとりと向き合っていくのです。当然ながら相談者一人ひとりの価値観や経済状況、健康状態などは異なります。
それを見極められず、
- すべての相談者に一辺倒の意見や助言をする
- キャリアコンサルタントの価値観や経験、知識を押し付ける
など、相談者を自分の思い通りにする人はこの職業には向いていません。
共感力が弱い人
キャリアコンサルタントは、相談者の心の奥まで入り込み、いろいろな心の内を話してもらうカウンセラーとしてのスキルも重要とされます。
相談者がじっくり話すことで自己を理解し、何かに気付くきっかけをもたらすことがキャリアコンサルタントとしての役割。そのためには相談者に寄り添い、共感する力が大切なのです。
ときには返答に時間がかかる場合もあるでしょう。その際、じっくりと待つ忍耐力も必要です。共感力が弱いと、相談者に知識や情報を押し付けてしまうことにもなりかねません。
言われたことだけをしたい人
キャリアコンサルタントは、さまざまな相談者の状況に応じて、知識やスキルを自在に活用して相談者のキャリアについてサポートを進めます。相談者の適性や個性、能力を知るためにも話をじっくりと聞いた上で相談者のキャリア支援を行うのです。
相談者一人ひとりの考えや悩み、不安、経済状況、健康状況などすべてを踏まえた上で、的確な判断やサポートをする柔軟性が必要でしょう。言われたことだけをしたい人には向いていない職業といえます。
6.キャリアコンサルタントになる方法、やり方
国家資格の難易度が比較的高いといわれるキャリアコンサルタント。なるにはどのような方法があるのでしょうか。
受験資格
キャリアコンサルタント試験は、以下に記した4つの要件のうち、どれかを満たすことで受験資格が得られます。
- 厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了した人
- 労働者の職業の選択、職業生活設計または職業能力開発および向上のいずれかに関する相談に対して、3年以上経験を積んだ人
- 技能検定キャリアコンサルティング職種の学科試験または実技試験に合格した人
- 平成28年3月までに実施されていたキャリア・コンサルタント能力評価試験の受験資格である養成講座を修了した人
キャリアコンサルタントになるための流れ、ステップ
キャリアコンサルタントの資格を取得するまでのステップを解説します。
- 講習の受講
- 試験
- 名簿への登録
①講習の受講
厚生労働大臣が定めた合計140時間の講習を受講します。2019年4月1日現在では21講習が認定されており、中には専門実践教育訓練給付金対象のものも。一部を紹介しましょう。
- CMCAキャリアコンサルタント養成講習
- GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム
- ICDSキャリアコンサルタント養成講座
- 一般社団法人日本産業カウンセラー協会キャリアコンサルタント養成講習
- キャリアコンサルタント養成講座
- キャリアコンサルタント養成ライブ通信講座
- キャリアコンサルタント(通学・通信)養成講習
- 公益財団法人関西カウンセリングセンターキャリアコンサルタント養成講習
- 100年キャリア講座 キャリアコンサルタント養成講習
- トータルリレイション キャリアコンサルタント養成講習
②試験
キャリアコンサルタント試験は、職業能力開発促進法に基づき、厚生労働大臣の登録を受けて、キャリアコンサルティング協議会が実施する国家資格試験です。試験内容は学科試験と実技試験があります。
- 学科試験:四肢択一のマークシート方式による解答、問題数は50問、試験時間は100分、合格基準は100点満点で70点以上
- 実技試験:記述式、ロールプレイ、口頭試問による面接試験がある、
実技試験の3つの内容は、下記の通りです。
- 記述式:逐語記録を読み設問に解答、問題数は1~2問、試験時間は50分
- ロールプレイ:実際のキャリアコンサルティング場面を想定して受験者がキャリアコンサルタント役となり行われる、試験時間は15分
- 口頭試問:自らのキャリアコンサルティングについて試験官からの質問に答える、試験時間は5分
実技試験の合格基準は150点満点で90点以上です。しかし論述試験の満点の40%以上、かつ面接試験の評価区分の中の「主訴・問題の把握」「具体的展開」「傾聴」のいずれにおいても満点の40%以上の得点が必要となります。
③名簿への登録
キャリアコンサルタント試験に合格した人は、キャリアコンサルタント名簿への登録が必要です。登録が済んでいないとキャリアコンサルタントと名乗ることはできません。(2019年5月時点で、4万4千人が登録済み)
登録事務は厚生労働大臣が指定登録機関として指定したキャリアコンサルティング協議会が行います。
登録の要件は、
- 厚生労働大臣から登録を受けた試験機関が実施したキャリアコンサルタント試験に合格した人
- 技能検定キャリアコンサルティング職種の1級または2級に合格した人
キャリアコンサルタント登録センターに、登録申請書と試験の合格証の写しなどの書類を添えて提出すると登録できます。登録には登録免許税9,000円、登録手数料8,000円が必要で、登録証は登録申請から1.5~2.5カ月ほどで本人の住所に郵送されるのです。
キャリアコンサルタントに関する2つの資格
キャリアコンサルタントに関する資格は国家資格とキャリアコンサルティング技能試験があります。
キャリアコンサルタント国家資格
キャリアコンサルタント試験は、職業能力開発促進法に基づき、厚生労働大臣の登録を受けてキャリアコンサルティング協議会が実施する国家資格試験です。試験内容は学科試験と実技試験があります。
学科試験と実技試験の両方に合格し、キャリアコンサルタント名簿に登録することで、キャリアコンサルタントを名乗ることができるのです。
キャリアコンサルティング技能士
キャリアコンサルティング技能士は、キャリアコンサルティング技能検定に合格することで得られる資格です。2008年に技能検定職種として新たに追加された国家検定で、一般的にキャリアコンサルタント国家資格よりも高い技能を有します。
キャリアコンサルティング技能士1級は指導者レベル、2級は熟練レベルとして評価されており、試験は学科試験と実技試験で行われます。キャリアコンサルタント国家資格がなくても受験資格を満たせば受験可能ですが、実務経験が必要です。
キャリアコンサルタント資格の更新
キャリアコンサルタントの登録を継続するには、5年ごとの更新が必要となります。登録の更新には厚生労働大臣の指定を受けた知識に関する8時間以上の講習、技能に関する30時間以上の講習を受ける必要があるのです。
ただし、
- 技能検定キャリアコンサルティング職種1級に合格したキャリアコンサルタントからキャリアコンサルティングの実務に関する指導を受けた時間
- キャリアコンサルティングの実務に従事した時間
については、10時間以内に限り技能に関する講習を受けたことと見なされます。
その他、キャリアコンサルタントとして登録後に技能検定キャリアコンサルティング職種に合格した人は、合格後5年以内に行う更新に必要な知識と技能の関するいずれの講習が免除されるのです。
技能検定キャリアコンサルティング職種1級を所持している人は技能に関する講習が免除されます。