ADR/裁判外紛争解決手続とは?【わかりやすく】デメリット

「ADR」とは「Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続)」の略で、裁判以外で争いごと、紛争を解決する手法です。ここではADRについて解説します。

1.ADRとは?

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは裁判外紛争解決手続(裁判をせず第三者を交えて争いごとや紛争を解決する手法)のことで、下記3つの頭文字からなります。ADRの種類や裁判との違いについて見ていきましょう。

  1. Alternative(代替的)
  2. Dispute(紛争)
  3. Resolution(解決)

ADRの種類

ADRは2種類に分かれます。

  1. 斡旋・調停
  2. 仲裁

①斡旋・調停

斡旋・調停とは、「斡旋人」と呼ばれる仲介者を間に入れて、あくまで当事者同士の話し合いによって問題解決を図る方法のこと。

斡旋人が意見を提示したり、解決案を提示したりする場合もありますが、当事者達は斡旋人の意見や解決策を否定しても構いません。あくまで一意見、参考としての解決策になります。

②仲裁

仲裁とは、仲裁者の判断で問題解決を図る方法のことで、当事者は仲裁者の解決策を否定できません。当事者双方が仲裁に合意すると始まります。

裁判官の判決と同様、仲裁者の判決に従う必要があり、仲裁によって解決された事件は裁判を起こせないため、絶対的な判決となるのです。

裁判とADRの違い

裁判では事実の認定や証拠品、弁護人を立て、当事者双方にも強制力のもと判決を下せます。しかしADRでは、当事者双方の精神にもとづいて問題解決を目指すのです。

証拠品や科学的根拠ではなく、当事者同士の気持ちを最優先し、話し合いで解決します。双方の言い分に食い違いがあると、問題は解決しにくいです。

ADRという略語はたくさんある

ADRは裁判外紛争解決手続の意味で使われます。しかしインターネットで「ADR」と検索すると、ほかの意味を持つADRの検索結果が表示されるため、混乱するかもしれません。

特に株式市場や特定の業界では、裁判外紛争解決手続ではない意味のADRという略語があります。それぞれの意味を知っておき、ADRという語を使用する際、間違えないように注意しましょう。

株式市場でのADR

株式市場での「ADR」は、「American Depositary Receipt」の略で、日本語では「米国預託証券」の意味合いを持ちます。米国預託証券とは、米国以外の企業が発行した株式の代わりとなる米国で発行される有価証券のこと。

米国預託証券は厳密には株式ではないものの、株式の代わりとなる経済的権利のすべてを含む有価証券のため、株式を保有するのと変わりはありません。

製薬業界でのADR

製薬業界での「ADR」は「Adverse Drug Reaction」の略で、日本語では「薬物有害反応」の意味合いを持ちます。主に治験時に使用される専門用語で、有害反応が出た際、「薬物投与との因果関係が否定できない」「意図的でない有害な反応」のこと。

薬物有害反応の定義は各組織で異なるため、一概にどの段階の有害反応を指すのか明確ではありません。

金融業界でのADR

金融業界での「ADR」は、裁判外判外紛争解決手続と同等の意味合いを持ち、「金融ADR制度」と呼ばれるのです。金融庁が取り仕切っており、公平中立の専門家が解決案、和解案を提示して問題解決を図ります。

目的は金融機関とその利用者間で生じた金融、保険、証券などのトラブルをスムーズに解決すること。指定紛争解決機関には、一般社団法人全国銀行協会や一般社団法人生命保険協会など、8つの機関が挙げられています。

ADRは裁判を行わずに話し合いで問題解決をしていく紛争解決手続のこと。気持ちの面を優先して当事者同士で話し合うため裁判ほどの強制力はないのです。話がこじれてしまうと問題解決は難しくなるかもしれません

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2.ADR法とは?

2004年、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」、いわゆる「ADR法」が公布され、2007年から施行されました。この法律では、弁護士以外が紛争解決事業者になれると認めています。ADR法について詳しく見ていきましょう。

法律の概要

ADR法は、ADRをさらに広め、扱いやすくするための法律です。2001年に司法制度改革審議会が「ADRを拡充、活性化すべき」という意見書を提出し、同年に日本弁護士連合会がADRセンターを設立し、調査や研究を実施しました。

その後2007年、ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)が制定されたのです。

民間同士で利用できる

ADR法では、弁護士でなくても法務大臣の認証を受け「認証紛争解決事業者」とされた者は、弁護士のように報酬を受け取って和解の仲裁を事業として行えるとしています。

民間人でも仲裁者となれるため、ADRは国や民間同士だけで利用できる問題解決方法となりました。ADRは非公開で行われるため当事者同士のプライバシーが守られます。また、裁判より簡易なため民間同士で気兼ねなく執り行えるのです。

ADRの手続きの要件

ADRの紛争解決事業者として認定を受けるには、ADR法の第6条に含まれる16項目の基準を満たす必要があります。たとえば「どのような分野の紛争を扱うかを明らかにしている」「紛争解決のための能力を有している」「当事者と利害関係が無い」など。

紛争解決事業者として申請する場合、法務省大臣官房司法法制部審査監督課へ認証申請書の提出が必要です。

ADRは裁判より手軽に行えるうえ、民間同士で利用ができるので国としても促進を推奨しています

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3.ADRの実施形態

ADRには「司法ADR」や「民間ADR」など、さまざまな実施形態があります。民事調停や家事調停などの裁判所が行う調停は司法ADR、交通事故紛争処理センターや事業再生ADRなど民間企業が行う調停は民間ADRと呼ばれるのです。

それぞれについて詳しく見てみましょう。

司法型のADR

司法型のADRは、民事調停や家事調停などを取り扱います。民事調停では、裁判所にてADRが行われるのです。

しかし一般的な裁判のように裁判官が権限を持つのではありません。取り仕切るのは一般人から選定された調停委員が2人以上含まれた調停委員会です。

建築や医療など特別な専門知識が必要な場合、調停委員に建築士や医者など専門的な知識がある人物を交えてADRを進めます。

行政型のADR

行政型のADRは、行政委員会や行政機関などがADRを取り仕切ります。公害等調整委員会・建築工事紛争審査会・住宅紛争審査会・労働委員会といった、専門的な機関や委員会がADRを取り扱うのです。

ADRによる問題解決を目的として斡旋・仲裁・調停などを行いますが、労働問題や消費者問題など、特定分野のみの対応となります。

民間型のADR

民間型のADRは、弁護士会や消費者団体、業界団体などが取り扱います。家族問題や近隣トラブル、医療問題や金融商品トラブル、交通事故など、民間で起こり得る問題に対して仲裁・相続・調停などで問題解決を図るのです。

それぞれ得意分野を持つ企業や団体が認証紛争解決事業者になるため、知識や経験を生かした、客観的かつ公平な意見を得られるでしょう。

ADRの実施形態には司法型・行政型・民間型とさまざまあります。ADRは民間同士でも取り扱えるので、裁判より簡易に安価で問題を解決できるでしょう

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4.ADRが増加傾向にある理由

ADRは増加傾向にある理由として、「司法ADRが相当な数の事件数を処理している点」が挙げられます。司法型ADRは、民事調停で66.5%もの調停に代わる決定を下し、家庭調停では47%を調停成立へ導いているのです。

一方、事件数も増加傾向にあるのも原因のひとつとなっています。

処理事件数の増加

近年、地方裁判所の民事訴訟事件数は、2014年から2017年までほぼ横ばいです。一方日本弁護士連合会の仲裁ADR統計年報によると、同年のADRの実績は前年度を上回る月が多く見られています。

処理事件数と訴訟だけでなくADRによる問題解決を図る人が増えた結果、ADRも増加傾向にあるのでしょう。

ADR法の施行

2004年にADR法が制定され、2007年に施行されて以来、ADRの存在は普及しました。その結果、問題解決方法として選択肢に入るようになったのです。

またADR法によって法務大臣の許可を得た仲裁者が事件の判決を下せるようになりました。そして仲裁者となる事業者と処理できる事件数が増加したのです。

ADR法によってADRという問題解決方法が認知され、徐々に利用されるようになりました。またそれにより事業者が増加した点もADRの件数増加を後押ししているのです

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5.事業再生ADRについて

ADRには「事業再生ADR」と呼ばれるものがあります。概要や目的について見ていきましょう。

制度の概要

事業再生ADRはADR手続のひとつで、過剰債務に悩む事業者の救済を目的とした措置です。産業活力再生特別措置法(産活法)の改正により、産業競争力強化法(強化法)から引き継がれました。

中立の立場を守る専門家が債務者と債権者の間に入って期間や金額を調整します。

事業再生ADRを利用する目的

過剰債務により企業が経営難に陥り、倒産してしまうケースも少なくありません。事業再生ADRの目的は、このような企業が事業再生できるよう過剰債務から企業を救済すること。

具体的には企業が事業体勢を整えるまでの期間、無理な債務請求によって経営が難しくなったり、倒産してしまったりすることを防ぐのです。

また借入先の金融機関に対して猶予や減免などを提案し、企業が再建や事業継続に必要な「つなぎ資金」の借り入れをしやすくして事業再生を狙います。

事業再生ADRでは、過剰債務している企業と借入先の金融機関の間に専門家が入り、債務の猶予や減免を図ります。これにより企業は事業継続に必要なつなぎ資金を借り入れる可能性が高まるのです

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6.ADRのメリット

ADRにはさまざまなメリットがあります。ADRと裁判の具体的な違い、そしてADRのメリットについて詳しく見ていきましょう。

  1. 裁判より時間がかからない
  2. 費用が安い
  3. 原則非公開

①裁判より時間がかからない

裁判では、訴訟を起こしてから第一審だけでも、半年〜2年ほど時間がかかるもの。さらに第二審へ控訴、最高裁へ上告と、裁判が長引けば長引くほど時間がかかり、体力も精神力もすり減ってしまうでしょう。

しかしADRなら裁判と違って、平均解決期間は調停で4か月、仲裁で半年間と迅速な対応が可能になります。

②費用が安い

訴訟を起こすと、当事者に莫大な費用が発生する場合も多く、少額の被害では、訴訟を起こしたほうが損をするといったケースも少なくありません。しかしADRの場合弁護士費用や鑑定費用が一切かからないので、費用も安価に済ませられます。

被害総額が少額の場合、ADRで問題解決を行うとよいでしょう。またADRの場合、事件の規模が異なっても費用がそれほど高額になることはありません。

③原則非公開

裁判は原則的に公開裁判で、関係者以外に知られたくない内容や個人情報も漏えいしてしまいます。しかしADRは原則的に非公開のため、過程はもちろん判決すらも非公開のまま世間や周囲には公開されないのです。

このようにプライバシーを守れる点も、ADRのメリットでしょう。

ADRは裁判と比較すると、迅速・安価・非公開で行えます

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7.ADRのデメリット

メリットの多いADRですが、デメリットも存在します。裁判でしか行えないこともあるため、しっかりと確認しましょう。

  1. 執行力がない
  2. 中立性に乏しい
  3. 相手が応じてくれない可能性もある

①執行力がない

ADRの場合、話し合いの末に和解策や終着点を見つけ出すものの、判決を否定するのも可能です。一方裁判は、国という絶対的権力による執行力が存在するため、判決は絶対的で抗えません。

したがってADRで話がこじれてしまうと、判決に至らず、法的な拘束や罰則も与えられない場合がほとんどです。

②中立性に乏しい

ADRでは、手続主宰者(紛争解決事業者)が中立的な立場を守るのが難しくなります。手続実施者は裁判の際の裁判官や弁護士と違って、一般人でも容易になれます。

一般的な裁判では裁判官という法的に中立的な立場の人がいるものの、ADRでは企業や団体がその立場ともなるためです。

また基本証拠品をそろえたり証人を用意したりして真実を検証するのではなく、あくまで当事者の話し合いによって解決策を決定していきます。これも中立的な判断が難しくなる要因になるのです。

③相手が応じてくれない可能性もある

裁判の場合、出廷を求められた当事者は、調停に出向く必要があります。しかしADRの場合、当事者に拒否権があるのです。そのため「当事者が調停への出席に応じない」「拒否、仲裁の合意を得られない」場合、調停不成立となってしまいます。

また話し合いでも、都合の悪い箇所や判決を否定し判決に合意しない場合、紛争解決が遅くなってしまうでしょう。

ADRは法による執行力がなく、中立性に乏しく、相手が調停に応じない可能性もあります。よって必ずしも裁判より優れているとはいえません

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8.ADRに関する疑問

実際にADRを行いたい場合、どうしたらよいのでしょう。ここではADRに向いている訴訟内容、ADRの相談窓口や連絡先、解決までの期間など、ADRを利用する際に生じる疑問点を解説します。

  1. ADRに向いている訴訟内容はあるのか
  2. ADRの相談窓口はどこか
  3. 解決までにどれぐらいの期間がかかるのか

①ADRに向いている訴訟内容はあるのか

ADRに向いている訴訟は、下記のとおりです。

  • 損害賠償事件
  • 個別労働事件
  • 不動産関係事件
  • 相続問題
  • 離婚問題

身近な日常生活にて、訴訟を起こすほどではない少額の事件や秘密保持が必要な事件、将来的には円満な解決を望む事件など日常生活で起こりうる事件も、ADRでの問題解決に向いているでしょう。

②ADRの相談窓口はどこか

ADRの相談窓口として「紛争解決センター」があります。紛争解決センターは全国の弁護士会が運営しており、専門的な斡旋人、仲裁者を選べるのです。

紛争解決センターは北海道から沖縄まで38都道府県に設定されており、連絡先は日本弁護士連合会あるいは各都道府県の弁護士会の公式サイトで確認できます。ADRに関する相談があったら、近くの紛争解決センターに問い合わせてみましょう。

③解決までどれぐらいの期間がかかるのか

解決までにADRが開かれる回数は大体3〜4回ほど、平均的な解決までの必要日数は90日間です。基本、裁判よりも短期間で解決できます。

ただし相手が手続きに応じないケースも少なくありません。相手が手続きを拒否せず解決に至った割合は、全体の60%程度とされています。

ADRは秘密保持の必要な事件、裁判を起こすほどではない少額の事件、今後の関係性を考慮したい事件などに向いています。ADRに関する相談は紛争解決センターに連絡しましょう