雇用契約書の電子化は法的に有効?メリットや課題の解決策・導入ステップまで

雇用契約書の保管や管理に困っている人事労務担当者も多いのではないでしょうか。増え続ける契約書類、時間がかかる書類検索、保管スペースの確保など、多くの担当者が抱える課題です。これらを解決する手段として、雇用契約書の電子化が注目されています。

電子化によって業務効率が向上する可能性がある一方、法的要件などの懸念があるのも現実です。雇用契約書電子化のメリットと課題への対策を提示し、導入のポイントをわかりやすく解説します。

雇用契約書の電子化とは?最新の動向と基礎知識

ビジネスパーソンとパソコン・デジタル化のイメージ
近年のデジタル関連法整備により、適切に対応すれば雇用契約書の電子化は法的に有効です。導入によって業務効率化につながります。

雇用契約書と労働条件通知書の違いや労働条件通知書の電子化要件など、まずは基本のポイントを押さえていきましょう。

雇用契約書の意味と電子化の法的背景

雇用契約書の電子化とは、従来紙で作成・保管していた雇用契約書をデジタル形式で作成・締結・保存することです。労働者と雇用主の間で労働契約の内容を明確にするための雇用契約書は、法律上の作成義務はありませんが、トラブル防止のために書面で作成するのが一般的です。

一方、労働条件通知書は労働基準法で作成・交付が義務付けられています。雇用契約書は当事者双方が署名するのに対し、労働条件通知書は雇用主が作成して労働者に交付するのみです。

雇用契約書は民法で定められている役務提供型の契約であり、民法の契約はいかなる形式でも成立するとされているため、電子契約でも当然に成立します。

また、労働条件通知書も、法改正により電子化が認められるようになりました。雇用契約書のみを電子化することも、労働条件通知書とまとめて「雇用契約書兼労働条件通知書」を電子化することも、現在は条件を満たせば法的に問題ありません。

参考:『労働基準法 第15条1項|e-Gov 法令検索』
参考:『民法 第623条第1項,第522条|e-Gov 法令検索』
参考:『労働基準法施行規則 第5条第4項|e-Gov 法令検索』

雇用契約書兼労働条件通知書を電子化できる条件

厚生労働省は、労働条件通知書の電子化に関してガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、労働条件通知書を電子化する際に留意したい3つのポイントを示しています。

労働者が明確に電子化を希望しているかどうかを、各人にはっきりと確認すること
Eメールなどで交付した労働条件通知書が相手に到達したかを確認すること
印刷などが可能な状態で提供し、労働者にもできるだけ出力して保存するよう伝えること

特に重要なのは労働者の同意です。一方的に電子化を強制することはできません。労働条件通知書と併せて雇用契約書の電子化を検討している企業は、厚生労働省のガイドラインを参照しながら導入を進めましょう。

参考:『「労働基準法施⾏規則」 改正のお知らせ|厚生労働省』


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雇用契約書を電子化するメリット

メリット・デメリットを比較するイメージ
雇用契約書の電子化は、企業に多くのメリットをもたらす選択肢です。自社の課題と照らし合わせて、電子化を進めるかどうかを判断しましょう。

保管コストと管理工数の削減

雇用契約書の電子化は、保管コストと管理工数の大幅な削減を実現します。従来の紙による契約書管理では、印刷費や郵送費・物理的な保管スペースの確保など、さまざまなコストが発生していました。

電子化により、契約書を探す時間を短縮できれば、管理担当者の負担が大きく軽減されるでしょう。雇用契約書がデジタルデータとして管理されることで、必要な情報の検索性も飛躍的に向上し、素早く必要な文書にアクセスできるようになります。

また、契約書管理が効率化されることで、ルーティン業務に追われる時間が減り、人事労務担当者は社内制度の見直しや人材育成の企画・従業員エンゲージメント向上の施策立案などよりコアな業務に取り組む時間を確保できるようになるのもメリットです。。

システムの導入には初期コストがかかるものの、長期的には紙や印刷などの費用を大幅に削減できます。

契約締結までの時間短縮と業務効率化

雇用契約書の電子化によって、契約締結までの時間も短縮できます。従来の紙ベースでは、書類の作成から印刷、郵送、署名、返送といった工程に時間を要していましたが、電子契約システムの導入により最短1日での契約締結が可能です。

電子契約の導入によって得られる業務効率化のポイントを3つ紹介します。

  • テンプレートを活用した契約書作成の簡易化
  • 契約手続きのオンライン完結によるリードタイムの短縮
  • 一元管理による書類検索、閲覧の容易さ

雇用契約に関連する業務の時間的コストを大幅にカットできるでしょう。また、電子化によって人事システムとの連携が可能となり、データ入力の手間も軽減されます。

ヒューマンエラーの防止とコンプライアンス強化

雇用契約書の電子化は、ヒューマンエラーの防止とコンプライアンス強化に大きく貢献します。紙ベースの契約書では記入漏れや転記ミスが発生しやすく、これが後々トラブルの原因となることも少なくありません。

電子契約システムを利用すれば、必須項目の入力漏れを防止する機能により空欄や記入ミスを自動的に検出できるため、契約書の不備を減らせます。最新の法令に準拠した契約書フォーマットを常に使用できるシステムなら、古い様式による記載ミスや形式上の不備を防ぎ、契約手続きの正確性を高めることが可能です。

コンプライアンス強化のために重要なのが、履歴管理機能です。誰がいつどのような操作や修正を行ったかが自動的に記録されれば、不正な変更や改ざんの抑止となる上、トラブル発生時に経緯を明確に説明できます。アクセス権限の設定により、閲覧・編集できる人物を制限することも可能です。

電子化によって契約書の管理状況を可視化できるため、更新漏れのリスクも低減するでしょう。また、契約内容の検索性が向上し、監査対応や法的紛争時の証拠提出がスムーズです。

リモートワーク環境での契約締結の実現

リモートワークの普及に伴い、雇用契約書の電子化は現代の働き方に不可欠となっています。場所や時間を選ばずに契約手続きを完結できることは、特にフルリモートワークを取り入れている企業にとって必要です。

電子契約システムを活用すれば、スマートフォンやパソコンで契約書にアクセスし、電子署名ができます。地理的制約を受けることなく契約が締結できれば、全国各地や海外に住む優秀な人材を雇用するチャンスが広がるでしょう。

緊急の採用ニーズがある場合に、従来の郵送方式では数日から1週間程度かかっていた契約手続きが、電子化によって即日完了するケースもあります。契約までのタイムラグを短縮することで、入社前の不安や辞退リスクを軽減する効果も期待できます。

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雇用契約書を電子化するときの課題と対策

パソコンを前に悩むビジネスパーソン
雇用契約書の電子化には多くのメリットがある半面、いくつかの課題も挙げられます。考えうる課題を事前に把握し、具体的にどのような課題と対策が考えられるのかを見ていきましょう。

セキュリティリスクと情報漏えい対策

雇用契約書の電子化にあたって、セキュリティリスクと情報漏えいには引き続き十分な注意が必要です。特に個人情報を含む契約書データは、厳格なアクセス制限や通信の暗号化・ログ管理などの対策が求められます。

システム選定においては、適切なアクセス権限設定や改ざん防止機能によって情報漏えいリスクを低減できることを考慮し、予算とのバランスを見て判断しましょう。ISO27001などの認証取得状況の確認も必要です。

参考:『電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法) 第7条||e-Gov 法令検索』
参考:『電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則 第4条||e-Gov 法令検索』

導入初期コストと投資対効果の考え方

雇用契約書の電子化システム導入には初期コストがかかりますが、長期的な視点での投資対効果を考えることが重要です。システム導入費のような初期費用や、導入前後の従業員教育費用などのコストがかかります。多くのクラウドサービスでは月額制の料金体系を採用しており、初期投資を抑えられます。

投資対効果を考える際は、導入前後の業務効率化による工数削減を具体的に試算しましょう。電子化によって書類検索時間が短縮され、ミスの減少による再作業の削減・契約書管理の効率化などが実現します。これらの時間を金額換算し、導入コストと比較することで投資対効果を算出できます。

ペーパーレス化による印刷費や保管スペースの削減効果も考慮しましょう。導入後は定期的な効果測定を経て運用方法を最適化することで、さらなる成果が期待できます。

従業員の同意取得と電子署名の法的課題

雇用契約書の電子化においては、労働条件通知書と併せて「雇用契約書兼労働条件通知書」とする場合、従業員から同意を得なければなりません。労働基準法第15条では、労働条件の明示は書面交付が原則とされており、電子化が許容されるのは従業員が希望する場合に限られます。

企業は電子契約を一方的に強制することはできません。従業員に対して電子化のメリットを丁寧に説明し、明示的な同意を得る必要があります。電子化に不慣れな人も多いため、一定期間は書面と電子の並行運用が望ましいでしょう。

また電子署名の法的有効性を担保するためには、改変されていないことが確認できる・従業員本人の署名であると確認できるなどの条件を満たす必要があります。

これらの要件を順守することで、雇用契約の電子化における法的リスクを最小限に抑えられます。

参考:『電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第2条,第3条|e-Gov 法令検索』

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雇用契約書電子化の具体的なステップ

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雇用契約書の電子化のためには、計画的な導入ステップを踏むことが重要です。現状分析から始まり、システム選定、社内ルール策定まで、雇用契約書の電子化までの流れを解説します。

現状の契約フローの確認と電子化の設計

雇用契約書の電子化に着手する際、まずは現状の契約フローの分析が必要です。契約書がどの部署で作成され、どのような承認ルートを通過し、最終的にどう保管されているかを明確にしましょう。現状の契約締結までの所要時間、再発行、修正による遅延の頻度も重要です。

次に電子契約システムの導入を想定して、契約から署名・管理までのプロセスを再設計します。担当者や承認者の役割・権限を明確化し、具体的な運用ルールを策定することが重要です。これにより、法的有効性の確保とセキュリティ強化・業務効率の向上が実現できます。

電子契約システムの選定

電子契約システムにはさまざまな種類があります。例えば多機能で広範囲の業務効率化に役立つもの、必要最小限の機能を選べてコストを抑えやすいものなどです。

選定時のポイントは、関連業務をどの程度まで効率化したいのかとコストパフォーマンスです。自社の課題を解決できる機能を備えているかをチェックし、予算的に無理のないシステムを選ぶとよいでしょう。

社内ルール策定と従業員への説明

雇用契約書(労働条件通知書)の電子化を円滑に進めるには、明確な社内ルールの策定と従業員への丁寧な説明が不可欠です。まず関連部署への周知として、電子化後の業務フローや各担当者のメリット、問い合わせ窓口などを明確に伝えましょう。

特に電子契約導入の目的や目標を共有し、現状の契約関連業務の課題を整理することが重要です。システム運用ルールとしては、担当者や役割、アカウント発行方法などを明文化し、社内の担当者も応募者も理解できるようにします。

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システムで雇用契約業務をより効率化する方法

クラウドシステムのイメージ
雇用契約書を電子化しても、システム選定が適切でなかったり運用体制が整っていなかったりすると、思うように効率化が進まないケースもあります。電子化のシステム導入で、雇用契約業務をさらに効率化する方法の例を紹介します。

労務管理クラウド「ロウムメイト」を活用する

労務管理クラウド「ロウムメイト」を活用することで、雇用契約書の電子化はより効率的に進められます。ロウムメイトは入社書類のやりとりをオンラインで完結できるサービスです。雇用契約書から各種誓約書まで幅広い文書に対応しています。

契約書の作成から印刷・封入・郵送といった従来の手続きがオンラインで完結するため、人事労務担当者の負担が大幅に軽減されます。応募者側も、パソコンはもちろんスマートフォン・タブレットからでも時間や場所を問わず必要事項を入力でき、手間がかかりません。

また、ロウムメイトは直感的な操作性と柔軟なカスタマイズ性を備えており、現在運用中の書面をそのまま電子化して活用できます。PDFをアップロードして電子印鑑での契約にすることもできるため、既存の文書フォーマットをそのまま使って効率化することも可能ですです。

人事・総務・経理部門の連携を強める

雇用契約書の電子化システムを導入した場合、部門間の連携強化によって業務効率がさらに向上します。従来は人事労務部門で作成した雇用契約書を総務部門が保管し、経理部門が給与計算に利用するという分断された業務フローが一般的でした。

電子化によってこれら部門間の壁が取り払われれば、リアルタイムでの情報共有が可能です。例えば人事労務担当者が新入社員の雇用契約書を電子化すると、その情報が自動的に総務部門の文書管理システムに登録され、同時に経理部門の給与システムにも連携できるようになります。

システムだけに頼らず、普段から部門間の連携を強化しておくことでシステムの効果を実感しやすくなります。雇用契約業務に関わる各部門のチームワークを意識して日々の業務に取り組みましょう。

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まとめ

労働条件通知書兼雇用契約書
雇用契約書の電子化は、法的有効性が確認されていて、企業の業務効率化に大きく貢献する取り組みです。関連法令に準拠した運用を意識すれば、保管コストの削減や契約締結時間の短縮・ヒューマンエラーの防止など、多くのメリットが期待できます。

正しい導入ステップを踏み、ロウムメイトのようにスムーズな電子化をかなえるシステム選定と社内ルールの整備を進め、人事・総務・経理部門を含めた全社的な業務効率化を実現しましょう。