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株式会社スマートエナジー
| 人事総務部 部長
坂本 憲一さん
2023.04.27
建設会社を営む父親の影響で「モノづくりをしたい」と、大学では建築を学び、最初のキャリアはデザインから施工までを担う空間プロデューサーからスタートした坂本さん。
空間プロデューサーとしての仕事ぶりから「攻めの人事」を期待され、人事の道を歩むことになりました。とはいえ、まわりは人事のプロフェッショナルばかり。知識や経験の少なさから、新しい取り組みを周囲に理解してもらうのに苦労したといいます。
そんななか、ブレイクスルーとなったのが「社会人大学院で学び直し」でした。前編では、坂本さんが人事に至るまでの道のりから、就任後、どうやって苦労を乗り越えたのか聞きました。
PROFILE
坂本 憲一
株式会社スマートエナジー
大学では建築を学び、卒業後は空間プロデューサーとして、商業施設の空間設計から施工までを行う会社に新卒入社。次に、家具と内装デザインをトータルプロデュースするオフィス家具メーカーに転職し、「攻めの人事」を期待されて人事へと抜擢。社会人大学院での学びを活かし、未経験ながらも新しい人事施策を推進する。その後、子どもに誇りを持てる仕事がしたいとスマートエナジーに転職し、現在に至る。
大学時代は、建築を学ばれていたそうですね。なぜ、建築の道に進まれたのでしょうか。
「父が建設会社を経営しており、小学3年生くらいの頃から土曜日と長期休みは基本的に作業現場へと手伝いに行かされていたんです。その影響もあり、大学でも自然と建築を学ぶ道に進みました」
建築のなかでも、どんなことを学ばれていたんですか?
「都市計画です。都市のあるべき姿から道路や路線設計や公園設計などを行うため、図面を書く機会も多く、そのスキルは最初の職場ですごく役に立ちましたね」
最初の職場ではどんな仕事に携わったのですか?
「空間プロデューサーとして、商業施設の空間設計から施工までを行う会社に入社しました。アパレル系から、ラーメン屋をはじめとする飲食店、ときにはスーパーマーケットの店舗づくりを行いましたね。集客率向上や従業員が働きやすい空間につながる外装・内装のデザイン・設計から、資材・設備の調達や配置など、実際に店舗が出来上がるまでをプロデュースしました」
設計だけでなく、幅広くお仕事されたんですね。
「はい。とくに、設計したものを実際に職人さんがかたちにしていく姿を見るのがすごく好きなんです。小さい頃から建設現場で手伝いをしていて、職人さんが建物や河川などをかたちにする姿を見てきた影響ですね。父親の会社では主に大型の工事が多く、夏休みのような長期期間だと、少しずつではありますが、これまでなかったものがかたちになっていくんです。父親の影響で、できあがったものだけでなく、つくる過程を見せてもらうことが多かったので、自然と建築などのモノづくりに興味が湧いたのだと思います」
モノづくりと現在の人事の仕事で、共通点を感じる部分はありますか?
「制度設計を考えてそれをかたちに落とし込み、現場に浸透させていくといった新たな人事制度をつくる工程は、モノづくりととても近いですよね。もちろん具体的な業務内容を見るとまったく異なるわけですが、設計したものをかたちに落とし込んでいくという点で、人事の仕事も面白がりながらやれているところがあります」
話は戻りますが、商業施設の空間デザインを行う会社から、オフィス家具メーカーへと転職されていますよね。どんなきっかけがあったのですか?
「ひょんなご縁で『空間プロデュースしているんだったら、うちもオフィスのプロデュースをしていて大きい仕事もたくさんあるから一緒にしないか』と誘っていただいたんです。オフィス家具の製造だけでなく、家具と内装デザインをトータルプロデュースする会社で、社内にも300人ほどデザイナーがいる環境でした」
そこからどうやって人事になったのですか?
「社長の抜擢でした。当時、社長の課題意識として、今以上に世の中のトレンドを取り入れた人事を行いたいという想いがあったんです。人事施策そのものが企業のプロモーションにつながったり、Webで取り上げられたりするような取り組みをしたかったようでした。当時、ルール整備など『守りの人事』を行う体制は構築されていたものの、人財を効果的に活かすような『攻めの人事』はこれからという状況でした。そこで、社長が私に目をつけてくださったんです。人事部自体も落ち着いた雰囲気だったので、私のようなちょっと変わった人が入ることで、化学反応が起きるかもしれないという期待があったようです。突然決まって『来月から人事で』というスピード異動だったので、戸惑いはありましたが、社長が言うならという感じでした」
坂本さんに白羽の矢が立ったのは、社内でも目立つ存在だったからですか?
「カジュアルな雰囲気で仕事をしてたのが影響したのかなと思っています。当時のまわりはみんなブラックスーツを着ており、きっちりとした印象のある会社でした。そんななかで、私は洋服が好きなこともあり、比較的カジュアルな格好でクライアントと仕事をしていたんです。もちろん雰囲気だけでなく、ありがたいことに『坂本さんはセンスがいいからお任せしたい』と受注もいただくことがあり、そうした仕事のスタイルや評判などを見てもらえたんだと思います」
あえて戦略的にカジュアルに寄せていたんですか?
「そうですね。やはり、ただ家具を売るのではなく空間をデザインしていく仕事なので、『この人にクリエイティブができるのかな』と思われないように、『いいものを作ってくれそう!』と第一印象から思ってもらえるように心がけていました」
人事に配属されて、まずはどんな業務を担当されましたか?
「当時、4000人程度の社員に対して30人ほどの人事担当者がおり、労務管理、人事企画、人財開発、人財採用の4つのセクションに分かれていました。そのなかでキャリア採用と新卒採用担当として人事のキャリアをスタートしました。人事になってみて驚いたのは、こんなに会社の代表として話さないといけないのかということ。説明会はもちろん、大学で講演を頼まれることやワークショップの依頼もありました。人事がこんなにもたくさん会社の代表として話すことがあって影響力を持っているなんて知らなかったので、入ってみて感じた大きなギャップでしたね」
初めての人事業務で苦労した点はありますか?
「まわりは人事のプロフェッショナルが集まっているので、未経験の私が新しいことにチャレンジしようと思ったとき、しっかりと説得力を持って伝え、周囲に理解してもらうのはなかなか苦労しました…。社長に期待されて人事に配属され、自分自身もやる気満々で『変革してやるぜ』と意気込んでいたのはいいものの、正直空回りしていたところがあったんです…。当たり前ですが、勢いだけの施策では、なかなか理解を示してもらえません。そこで、周囲の理解を得ながら新しい取り組みを実現するために、科学的なエビデンスなどの知識をベースとした説得力が必要だと感じ、大学院に通い始めたんです」
大学院に通ってみて、施策の推進などはスムーズにいくようになりましたか?
「はい。ビジネススクールは本当に意味があるのかとよく言われますが、私は費用対効果も時間対効果もとても高いと思います。正解がない分野とはいえ、人事はこれまで世界中で何十年も研究し尽くされてきて、参考例は十分にあるんです。先生たちも学生の話から今の事象をキャッチアップし、現在の現場で起きている課題にも対応できる理論を研究して論文にしている。大学院を修了してからも先生との共同研究で、コロナ禍におけるマネジメントの在り方を模索する研究をしていました。このように、タイムリーな問題にも対応できます。そうした知識を体系的に学んだことで説得力が増し、新しい取り組みでも理解してもらえるようになりました。明らかにまわりの反応が変わったと感じますね。また、一緒に学ぶ人たちも人事の方が多いため、各企業がどんな施策を行っているかも知ることができました。大学院で出会った仲間には、今もすごく助けてもらっていて、アドバイスをもらったり壁打ち相手になってもらったりしています」
大学院に通われた後、実際に取り組んだ施策の具体例があれば教えてください。
「例えば、人財開発の施策では、元々、1泊2日という短いスパンで集中して階層別研修を行っていました。それを見て、実務を経験しながら、もう少し長いスパンでじっくりと経験学習を行ったほうが育成という観点では有効だと思ったんです。そこで、対面とオンラインを組み合わせたブレンデッド・ラーニングを取り入れました。具体的には、まず最初に対面で研修の意義をきちんと説明し、その後は実務と並行しながらオンライン研修や動画コンテンツを通じて情報をインプットしてもらいます。そして、3ヶ月に1回、1日かけて対面での研修を実施。これまでインプットした理論をもとに、自分の所属するチームの課題を洗い出し、解決策を考え実践する。その振り返りでワークショップを行います。実際に実務を経験してみた気づきを踏まえて課題の解決策を考えるので、より実践的なワークができると感じています。コロナ禍前に実施した施策でしたので、オンライン研修はそこまで当たり前ではありませんでした。そのなかでeラーニングの活用やオンラインでのグループワークを実施するなど、当時は斬新なプログラムを推進できたと思います。効果測定についても、大学院で学んだ統計学も用いて、研修がどんなふうにパフォーマンスにつながっているのか、分析できる状態をつくりました」
大学院に通って体系的な知識を身につけたことで、ほかに良い影響はありましたか?
「人事以外の経営やマーケティングの知識も学べたことで、人事は経営者と同じ目線で意思決定や戦略立案をしなくてはいけない、とわかるようになりました。大学院に通う以前は社員としての目線でしか考えられていなかったなと、振り返ってみて思います。人事施策が、組織の成長戦略にとって本当にいいことなのか、経営にとって本当にいいことなのかを深く考えられるようになりましたね」
人事と経営を結びつけられるようになったわけですね。
「そうなんです。とはいえ、人事戦略と経営戦略の結びつきを肌で感じるようになったのは、今の会社に来てから。元々いた会社は大きい組織だったこともあり、多くの人にインパクトを与える仕事ができてやりがいもありましたが、施策が組織の隅々まで浸透して業績に影響してくるまでにはどうしても時間がかかります。一方、スマートエナジーの場合、300名弱の組織で、これから社員数を増やしていくフェーズの会社です。2022年5月に私が入社してから新しい施策をいくつか始めたんですが、そのたびに『これ欲しかったんです』『これやりたかったのでうれしいです』などとダイレクトに反応をもらえるんですよね。3月1日から運用を開始した退職金制度も『待ってました!』と言っていただきました。こうした生の声を通じて、人事施策が社員の方のモチベーションや経営層のやりたかったことにつながるんだと感じられるようになりました」
退職金制度の導入など、大きな意思決定が必要な施策もこの1年で進められたのですね。
「はい。スマートエナジーの人財戦略は『サスティナブルな社会を実現するためのサスティナブルな組織づくりを目指す』をポリシーとして推進しています。脱炭素社会実現や気候変動問題への解決に向け、我々自身が持続可能な組織をつくらないと、長期的な社会へのインパクトができないと考えているんです。そのなかで、今後は人的投資を積極的に行い、今いる仲間や未来の仲間が、老後においても不安にならないためにどうするか、と考えた際、退職金制度をいち早く導入したいと思ったのが経緯です」
大学院での学びを通じ、人事として大きくステップアップした坂本さん。続く後編では、そんな坂本さんがスマートエナジーでどんな施策に取り組んできたのか、詳しく聞きました。
*本記事の掲載内容はすべて取材時(2023年3月24日)の情報に基づいています
社名 | 株式会社スマートエナジー |
---|---|
設立 | 2007年4月 |
事業内容 | 「太陽光、水力等の再生可能エネルギー電気の販売」「発電施設、設備ならびに同システムの企画、設計、施工、管理、保守ならびに販売」「環境ファンドへの出資の募集、その運営と対策 」「排出量制度の調査・コンサルティング及び事業支援」 |
従業員数 | 234名(派遣社員及び出向社員は除く 2022年3月31日時点) |
会社HP | https://www.smart-energy.jp/ |
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PROFILE
坂本 憲一
株式会社スマートエナジー
大学では建築を学び、卒業後は空間プロデューサーとして、商業施設の空間設計から施工までを行う会社に新卒入社。次に、家具と内装デザインをトータルプロデュースするオフィス家具メーカーに転職し、「攻めの人事」を期待されて人事へと抜擢。社会人大学院での学びを活かし、未経験ながらも新しい人事施策を推進する。その後、子どもに誇りを持てる仕事がしたいとスマートエナジーに転職し、現在に至る。
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#41-2 知識と技術の継承で、事業も組織もサステナブルに。スマートエナジーの若手とベテランを活かす人財育成(後編)
株式会社スマートエナジー
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