「現状分析」と「膝詰め議論」で制度統一。”言うべきことは言う”姿勢が作り上げた公平な評価制度(後編)

阪急阪神マーケティングソリューションズ株式会社
 | エンゲージメント局 総務人事セクション 部長

深田 浩嗣さん

2022.08.01

阪急阪神マーケティングソリューションズに入社後、統合したばかりの会社で、人事制度の統一に向けて動き出した深田さん。後編では人事制度統一までの道のりや、評価軸の設定からカオナビでの再現、社内浸透まで取り組んだ評価制度の見直しについて話を聞きました。

【前編はこちらから】

PROFILE

深田 浩嗣

阪急阪神マーケティングソリューションズ株式会社

大学で公法学、大学院で総合政策学を専攻し、卒業後アクセンチュアに入社。SEを経験するが、人事の仕事を志して転職。パナソニック、Amazon、楽天で人事業務全般、さらにHRBPなどを担当。国内メーカーや外資系企業といった多様な環境で、本社から子会社、新拠点など拠点の大小にかかわらず、さまざまな経験を積んだのち、広告代理店とデザイン会社が統合してできたばかりの阪急阪神マーケティングソリューションズに入社。同社の人事制度の統一に大きく貢献した。

そのまま使われていた旧二社の制度。統一のためにまず始めたのは「既存制度の分析」

社風が異なる2社の人事制度統一が課題だったそうですが、何から取り組まれたんですか?

「まず、改めて当時の課題からお伝えすると、私が入社した頃は合併直後で、旧二社の制度がそのまま使われていたんです。給料の締め日と支払日、人事制度や福利厚生なども二通り存在し、人事は文字通り二倍の仕事をしなければいけないという状態でした。制度を統一するのは大変な道のりが予想されましたが、まずはそれぞれの制度を詳しく分析するところから始めました。二社の人事制度説明資料を精査しつつ、どういった制度にしていくのかを経営トップとも相談しながら、社員も納得できる制度を目指しました」

それはご苦労が多かったでしょうね。

「時間がかかりましたね…。社長・副社長をはじめとする経営幹部たちも、合併前の二社からそれぞれ参画していて、基本的な考え方が違ったのです。その双方を説得し、納得してもらわなければいけません。執行役員とは二日に一度、社長・副社長とは毎週4〜5時間ずつ、何度も議論をし、多くの人の意見を聞きながら一つの方向に作り上げていきました」

制度統一のために、既存制度の分析と、シンプルに「話し合い」を重ねていったわけですね。

「そうですね。歴史のある会社同士の大規模な合併ですし、前例やグループ内の過去事例もないなか、みんなが気持ちよく働いていける環境整備には何が必要か、話し合いのなかで探っていきました。私がそれまでいたグローバル企業は、実力主義で成果を出せばお給料もドンと上がるけれど、終身雇用のような安定性はなく、人材の流動性も高かったのです。当社はそうではなく、適正な給与水準を維持しつつ、本人の意向や専門性を尊重しながら、長期で働いてもらえるように安定性を重視します。そのため、今までの私の価値観とはかなり違いました。そこで、これまでのセオリーを押しつけるようなことはせず、経営幹部や社員と会話し、コアな価値観が何かを探ることを重視したんです」

『業績面』『組織(貢献)面』『メンバー育成・自己研鑽』という軸で公平に評価

人事制度統一のなかで、とくに力を入れて取り組んだのはどんな部分でしたか?

なんといっても評価制度ですね。それまでも制度自体はありましたが、一部形骸化していたり、社員にわかりにくかったりする部分が散見されました。評価者によっては、フィードバックがなかったり、目標設定が甘かったり、という問題点も多くあったんです。そこで、まずは公平性・納得性を基本とし、バックオフィスやクリエイター、営業など、さまざまな職種の方々を同じモノサシで評価ができるよう、『業績面』『組織(貢献)面』『メンバー育成・自己研鑽』の3つの評価軸を定めました

全社員、公平に同じ評価軸で評価されるということですね。

「はい。評価軸として業績はよく使われる要素ですね。ただ、当社の場合、売上金額のような明確に評価できる指標がない職種も多いのです。例えば、Webデザイナーやコピーライターといったクリエイターたちは、定量的な指標による評価になじみません。しかし、例えばほかのメンバーと連携しながらクライアントにとって満足いただける成果物を作る風土を醸成することは、『組織貢献』として評価されます。さらに、デザインスキルを磨くといった自己研鑽もクリエイターにとっては欠かせない要素。勉強してそれをアウトプットしたら、その点も評価できるということで軸として設定しました」

評価軸の一つである「自己研鑽」は、アウトプットしたかどうかが評価に影響するのですね。

「はい。他の人のレベルアップにもつながる自己研鑽ということで、アウトプットに重きを置いています。評価というのは他人がするものなので、勉強したことが見えないと当然評価はできません。ただ『本を読みました』『勉強しました』と言っても不十分で、『本を読んで思ったことをまとめてチャットに載せました』とか『勉強会を開催しました』とか、社内に見えるかたちでアウトプットしてもらうことを条件にしています。アウトプットというのは、当然きちんと理解していないとできないものです。他の人が見て、『しっかり学んだな』ということがわかるかたちでアウトプットすることを推奨しています。そのためのスペースが、社内のチャットに作ってあるんです。ここまで説明した評価制度は明文化し、職種ごとにカスタマイズした説明会を開催しました。録画を社内のライブラリでいつでも見られるようにすることで、理解を促しています」

評価に対するフィードバックは、具体的にどのように改善したのですか?

「目標設定から期中・期末のフィードバックまで、何をどう話してコミュニケーションを取るか、全管理職向けの研修を実施しました。フィードバック面談で伝えることは『最終的な結果(考課ランク)』だけでは足りません。その人の良いところ、改善が必要なところ、期待されている役割、目標、今後何をがんばったらいいのか、といった多くの情報を伝えることが大切です。何が評価につながり、何がマイナスだったのかを明確にすると、納得度も高まり、モチベーションの向上にもつながると考えています。実は、私のこの管理職向けフィードバック研修は社外でも好評で、ありがたいことに、セミナー登壇やスポットコンサル、大学のゲストスピーカーといった社外活動にもつながっているんです」

人材情報は散在させず、始めから終わりまで一箇所に集約する

こうして、統一された評価制度をカオナビで再現し、運用されているんですね。

「統合前、すでに一社ではカオナビが導入されていたんですが、人事評価ツールとしての使用にとどまり、十分に使いこなせていませんでした。そこで、制度統一後はすべての人事情報をカオナビに集約することとしました。カオナビはカスタマイズ性が高いので、社員が使いやすいように入力フォームやレイアウトを設定しました。プルダウンを使って入力を選択式にしたり、実際のアクションに必要なところだけ入力できるようにして使わない項目をグレーアウトさせたりと、入力・閲覧権限なども、段階に応じてかなり細かく設定しています」

カオナビの設定も深田さんご自身でやられたんですね!

「そうですね。やはり制度のことをよく理解している者が、カオナビの帳票レイアウトを担当することで、制度趣旨に近い運用ができると思いましたので。いまでは社員一人ひとり、期初の目標や月に一度の1on1面談の内容、期中のフィードバックや期末の評価などを、カオナビの『スマートレビュー』上で一つの評価シートにまとめています。期中には評価者だけが入力・閲覧できるようにし、最終的な評価が確定した期末のフィードバックのタイミングで本人が考課ランクや評価者コメントを閲覧できるよう、権限設定を駆使しながら一箇所にまとめました。情報はなるべく散在させず、始めから終わりまでカオナビで運用し、「一枚のシートを見ればその期中の動きが全部見える」という状態を目指しました。そうすると、データベースとして大変使いやすいものになるので。経営幹部が『異動検討中のこの人はどんな人だったかな?』と思ったときに、いちいち人事に問い合わせなくても、カオナビ上で必要な情報が閲覧できる状態なんです」

権限設定から評価シートの作成まで、入力・閲覧する人が使いやすいように、細かく設計されているんですね。

「頑張りましたよ(笑)。紙媒体やExcelではできない細かい権限設定は、評価者にとってすごく便利なんですよ。本人に伝えたいフィードバックのほかに、ネガティブな情報や、性格的な評価、『こういうタイプと相性が悪い』というようなちょっとしたメモなど、オープンにはできないけれど蓄積しておくと役に立つ情報がありますよね。そういった情報こそ、本人の特性を的確に表していることも多いと思います。誰でも見られる紙の帳票には書けないし、人の記憶だけでは忘れられてしまう。そういう意味で、閲覧権限を細かく設定できるカオナビはありがたいんです」

管理職の方々の反応はどうでしたか?

「管理職はもちろん、経営幹部の皆さんからも『素早く、知りたい情報を見つけられるようになった』と喜ばれていますね。半期ごとに評価の運用を回すときは、期限を指定して事前案内とリマインドを行います。図解のマニュアルや説明動画もあるので、みなさんちゃんと使ってくれています。思っていたよりは、クレームも少ないです(笑)。何を・どこへ・いつまでに・何文字程度で入力するか、やるべきことを明確にしていることで、あまり大きな負担にはなっていないようです」

「コミュニケーション活性化」と「人材配置」が次の課題

ほかに、深田さんが取り組まれた施策はあるんですか?

「メンター制度のブラッシュアップも行いました。制度自体は以前からあったのですが、OJTトレーナーとあまり変わらない位置づけだったので、他部署の同年代社員といった、利害関係なく相談できる相手をメンターに設定するなど、運用を見直しました。また、入社して2ヵ月目に直属上長と人事担当者、6ヵ月目には2階層上の上長、12ヵ月目には3階層上の上長がそれぞれ面談し、より重層的に、複数の人がフォローアップできる体制も組んでいます。面談の内容もカオナビに集約・可視化することで、例えば『この前の新人さんは会社に馴染んでるかな?』と気にかける経営幹部がいた場合、人事を介さず『カオナビ』で面談履歴を確認することで詳細を把握することができます」

今後の課題にはどんなものがありますか?

「コロナ禍が続くなかで、『社員同士のコミュニケーションがとりにくい』という声が多いですね。そのため、コミュニケーションのきっかけづくりとしてカオナビで自己紹介用のシートをつくり、その人の趣味やスキル、今までの業績などが見えるようにしたいと考えています。また、今年度からキャリアヒアリングを始めようとしています。以前から、他の部署でスキルを発揮したい社員が異動希望を出せる『フリーエージェント制度』はあったのですが、利用者が意外と少なく、心理的な障壁があり、あまり機能していないように思われました。そこで、カオナビの『ボイスノート』を使い、現在の部署に満足しているか、仕事の難易度は合っているか、上長との関係はどうか、異動を希望するかなどをアンケート調査しながら、本人の意向に沿った人材育成・配置の実現について、これまで以上に人事がサポートする体制にしようと思っています。現状の人事データベースでは職位滞留年数や同一部署在任期間といった定量データしか把握できないため、本人の意向といった定性データを把握することが、効果的な人材の育成・配置に役立つのではないかと考えています」

ありがとうございました!最後に、人事の仕事をするうえで大切にしていることを教えてください。

「2つあります。一つは公平・公正であること。私自身、偏った価値観やバイアスを持たないように意識していますし、従業員だけでなく経営幹部に対しても、言うべきことは言わなければならないと思っています。もう一つは、常に自分が学ぶこと。自律的に行動することで、予測不可能な状況にも対応でき、新しい課題や困難を乗り越える力がつくと思っています。同時に、自分が学ぶ姿を見せることで周囲から信頼を得られるという側面もありますよね。いま、私は社会人大学院(MBA)で『人的資源管理』や『組織行動論』などを学んでおり、それらの理論を人事施策に応用していきたいと思っています」

編集後記

大学時代、予備校のチューターとして生徒に何かを伝えることにやりがいを感じ、現在でもご自身のキャリアを活かしながら外部の登壇イベントに積極的に参加している深田さん。「他の方にとって少しでも課題解決のヒントになるのなら」と、これまでの多様な人事経験を積極的に発信していきたいという想いがとてもある方でした。今回記事で紹介した内容は、深田さんのご経験のほんの一部分。ぜひ、人事としての数多くの経験から培った独自のノウハウを、他社の人事の方にも伝え続けて欲しいなと思います。

会社概要

社名 阪急阪神マーケティングソリューションズ株式会社
設立 2019年12月
事業内容 各種広告媒体の企画・販売、広告戦略立案・企画、デジタルマーケティング
従業員数 268名(2022年4月時点)
会社HP
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深田 浩嗣

阪急阪神マーケティングソリューションズ株式会社

大学で公法学、大学院で総合政策学を専攻し、卒業後アクセンチュアに入社。SEを経験するが、人事の仕事を志して転職。パナソニック、Amazon、楽天で人事業務全般、さらにHRBPなどを担当。国内メーカーや外資系企業といった多様な環境で、本社から子会社、新拠点など拠点の大小にかかわらず、さまざまな経験を積んだのち、広告代理店とデザイン会社が統合してできたばかりの阪急阪神マーケティングソリューションズに入社。同社の人事制度の統一に大きく貢献した。

ABOUT

『人事のヨコガオ』は、人事の方の「個性」にフォーカスしたメディアです。「社員一人ひとりの個性と向き合う人事の方個人にも個性がある」というコンセプトのもと、人事就任から現在に至る過程でぶつかった壁やその裏にある想いなど、等身大の姿を取材します。 気になる他社の人事の方が、どんな想いで施策に取り組み、これまでどう壁を乗り越えてきたのか。あまり知られていない”ヨコガオ”をお届けすることで、人事の方同士が学び合えるきっかけを提供していきます。