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生徒に寄り添う指導を目標に講師も正社員採用。 ユニークな制度を支える、人事部長の情熱とは

株式会社河合塾進学研究社
 | 人事部 部長

石原 伊佐雄さん

Interview

2019.05.14

“教育×人事”の軸の中で、長年キャリアを積み続けてきた石原氏。合格というゴールに向かって教鞭をとる現場ならではの人事の悩みや解決法、そしてテクノロジーの活用をいかに図ったかについてインタビューした。

PROFILE

石原 伊佐雄

株式会社河合塾進学研究社

大学卒業後、スポーツジムの運営会社で人事業務に携わった後、知人とマンツーマン野球教室を起業し、バックオフィスとマネジメント業務全般を担う。その後、キッザニアを運営するKCJ GROUP株式会社を経て2014年に株式会社河合塾進学研究社に入社、2016年より人事部長に就任。

“教える現場”と“人事”がキャリアの軸

河合塾と言うと大学受験校のイメージが強いのですが、御社はその中でも特化した教育部門を担っているそうですね。

「はい、難関公立高校を目指す小中学生向けの“河合塾 Wings”、それから現役合格を目指す高校生に特化した“現役館”と“河合塾 現役生教室”、そして東大現役合格をめざす中高一貫生を対象とした”MEPLO“を全国で計75校運営しており、学校法人河合塾のグループ企業になります。」

石原さんは新卒からずっと河合塾進学研究者で働いていらっしゃるのですか?

「いえ、新卒ではスポーツジムに入社してインストラクターやバックオフィスをやっていました。が、2年目に入る頃には人事業務のようなことも任されまして……。」

1~2年目で人事を任されるというのは早いですよね?

「当時はスポーツジムの黎明期で、毎月のように人が増えていく状態。だからそもそも採用担当者すら足りなかったんです。それに親会社である商社の人事制度を引っ張ってくるだけでは現場に全くそぐわず、いつの間にか制度改革も手がけることになりました。」

大変だけれども、貴重な経験でしたね。

「そうですね、入社当時は40名ほどだった社員が、30歳で退社した頃には200名を超えていましたから、給与制度や人事規定、勤怠管理などあらゆる面の見直しを常に図る状況でした。」

そこから現在に至るまでのお話を聞かせていただけますか?

「大学時代は高校の野球部監督を目指していたこともあり、30歳で知人とマンツーマンの野球スクールを起業したんです。東京と大阪にスクールを構え、ほどなくスタッフも10人ほど抱えるようになりました。創業当初より、経理から人事、総務などバックオフィスは全面的に担当し、結果的に17年間勤めました。しかし子どもの減少や他競技の人気が高まるのを見るにつれ、野球人口は頭打ちではないかと感じるようになったんです。そこで、それまでの経験も活かしながら“人事”と“教育”を軸にキャリアを再構築してみたいと考え、キッザニアの運営会社を経て2014年に現社に入社しました。」

お話を伺っていると、一貫して“人に教える業界”での人事業務に携わっていることがわかります。

「今の会社は、面接の時点で人への思い・価値観が似ていることが決め手で入社を決めました。現場で働く人を労務の面から支え、盛り立てていきたかったからです。」

事業者を多数抱える組織体系で改革を進めた研修制度

御社に入社されてから、どのような業務に携わられましたか?

「まずは採用ですね。実は、弊社の講師はほとんどが正社員なんです。」

え? 塾講師と言うと個人事業主のイメージが強いのですが……。

「私どもの教室では“進路相談”も大きなウエイトを占めます。小学生から高校生まで、将来設計や家庭環境も踏まえた指導が大切なので、正社員のほうが一貫して対応できるという考えです。2015年からは新卒採用も始め、いわゆる教育や研修制度も大きな課題となってきました。弊社の売り物は、何よりも人、すなわち講師です。講師のレベルが低くては話になりません。ですから従来は外部に委託していた研修を、人事部がやるべきことと外部に委託するものを整理し、常に改善を図っています。」

教える側への研修制度ということで、これまで苦労されたことなどはありますか?

「教える側というよりも、組織の問題が大きかったですね。各校舎の業務内容は“現役生の進学指導”と同じ方向を向いているにも関わらず、校舎それぞれが事業者のように独立した運営をしているという、一種独特の組織体系にありました。ですから従来は研修内容も方針も校舎ごとにバラバラで、『どういう研修をやり、それはなぜやるのか』というヒアリングから始めました。」

地域性や校舎長の考えもあるでしょうし、大変でしたでしょうね。

「河合塾進学研究社としての統率イメージをつけにくい点は苦労しました。『河合塾と現役館は違っていい、チューターも社員がやるのが現役館のカラーなんだ』と訴求しつつ、マネジメントとしておかしい部分はきちんと伝えないといけませんでした。そういう意味では、母体の河合塾を含めコンプライアンスがしっかりしている社風には非常に助けられましたね。」

現在の研修制度は、全校舎で統一されているのですか?

「すべての研修を回すのが人事の役割というわけではありませんが、新卒研修は同一ですね。7日間の基礎研修と3ヶ月の授業研修、そして年数回のフォローアップ研修が主になります。人事は研修内容やスケジュールを見える化し、形にしていくのが役割。講師の質を落とさないためには何ができるか、常に考えています。」

独立したバックオフィス業務にテクノロジー化は欠かせなかった

石原さんが現在感じられる、人事的な課題はありますか?

「やはり採用ですね。退職率自体は1割前半なのでそれほど高くないのですが、新卒の定着率が低めなのが懸念点です。採用には講師と運営という2つのポジションがあるのですが、“教鞭をとる”という専門性が強い講師の退職率は低い。一方、運営は『22時過ぎまで働くのであれば、別の業種で働きたい』と流出しがちです。」

運営側の方のほうが、仕事のやりがいなども感じにくいのかもしれませんね。

「直接、生徒に伴走している講師は『先生のおかげで合格できました!』などと言われる機会も多く、やりがいは感じやすいでしょうね。運営側の働きがいをどう形作っていくかは、評価制度も含めて大きな課題です。現場のオーダーニーズに応えられない一方、コストなどを考えるとむやみに採用すればいいというものでもありません。言い方はちょっと悪いかもしれませんが、弊社は“人”こそが商品。商品の質に差があってもいけませんし、いかに良い人材を安定供給できるかは人事の大切な役割ですから。」

“教える現場”というのは人対人である以上、どうしてもテクノロジー化が難しい部分もあるかと思いますが、いかがですか?

「……実は、転職してきた数年前までは有線LANしかないほど、保守的な社風ではありました(笑)。」

ええ?!

「それは一例ですが、社員の評価を調べるにしてもDBを(学校法人)河合塾に取り寄せなければいけないなど、バックオフィス組織が独立しきれていない面が散見されたのは事実です。そういったことを自社内で完結できるよう、少しずつIT化を進めてきた自負はあります。」

運営はもちろん、講師の方にとっても効率化を図れる部分があるかもしれませんね。

「まさにその通りで、事務作業に追われて肝心の面談や授業の質が落ちていく……では本末転倒です。タレントマネジメントにカオナビを導入することも含め、評価制度をデジタル化していくことでタレントマネジメントもより明確・効率的に体系化できるのだと思います。カオナビはユーザーインターフェースも良く、社員にもすんなり受け入れられました。」

カオナビを有効活用していただき、ありがとうございます。

「世の中全般がそうですが、教育現場においても個への対応が非常に求められる傾向にあります。ですから、ICTや映像技術といったツールは現場にも取り込み、合格へ結びつけられるサポート体制を強化していきたいですね。」

最終的に“人対人”。人と真摯に向き合える人事が求められる

最後に、これからの人事に求められる要素はなんだとお考えになりますか?

「ちょうど弊社も人事担当者を募集中ですが、変化に対応できる人というのは大事ですね。給与制度や年俸交渉など金額に触れる業務も発生する以上、正確性を求められる仕事であるのは確かです。一方でテクノロジーも世相もどんどん変化していく中で、人事もそれらに対応できなければ社員を成長させることはできないでしょう。人をどのように成長させ、どんなリーダーになって欲しいかを考え、変化を厭わない人事でないと“人が育つ会社”にするのは難しいでしょうね。」

石原さんご自身も、かなり変革を推し進められてらっしゃいますものね。

「教育現場も、人事も、最終的には“人対人”であるのは同じです。『人としてなんとかしてあげたい』という思いを根底に抱き続けたいですね。例えば、業務上長期休暇がとりづらいであるとか、講師の産休要員を埋めるのが大変といった、『難しいだろうけど、どうにかなりませんか?』という内容も恐れずに調整を図れるような人事を目指したいですね。

自分自身が採用した人が活躍したり、親しみを持って挨拶をしてくれるときなどは、人事としてやりがいを感じる瞬間。例え退職をするときでも、きちんと連絡をくれたりすると『信頼されていたのかな』とも感じます。働く場で、人が生き生きできるシーンを形作れるのは、人事ならではの醍醐味だと思います。」

人事なら読むべし! オススメの1冊

錯覚の科学
著:クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ 解説:成毛 眞 翻訳:木村博江
刊:文藝春秋社

眼の前にゴリラが通っても気付かない“見えないゴリラ”という心理学の実験で有名な、イグノーベル賞を受賞した一冊。人は錯覚の中で生きており、できる・わかるという思い込みがいかに重大なミスを引き起こすかがわかります。自分はマルチタスクできると思っていても実際はできないといった人の本質や、人事として持つべきではない先入観について考えさせられます。

会社概要

社名 株式会社河合塾進学研究社
設立 1983年
事業内容 予備校・学習塾の経営、模擬学力試験の実施・普及、進学情報提供・指導
従業員数 297名
会社HP
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PROFILE

石原 伊佐雄

株式会社河合塾進学研究社

大学卒業後、スポーツジムの運営会社で人事業務に携わった後、知人とマンツーマン野球教室を起業し、バックオフィスとマネジメント業務全般を担う。その後、キッザニアを運営するKCJ GROUP株式会社を経て2014年に株式会社河合塾進学研究社に入社、2016年より人事部長に就任。

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“kaonavi HR Innovators”は、人事/HR領域で活躍するHR領域で活躍するキーパーソンが「人事の未来」を語るWEBメディアです。人々の働き方や人材の価値が急速な変化を迎えている今、人事のキーパーソンとして真摯に課題と向き合う方々に「人事/HRの在り方」、「テクノロジーの活用」などを語っていただくことで、人事担当者が抱える課題を解決に導くヒントをお届けします。