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その一手が、事業そして経営を変えていく。 意思を持って、攻め続ける人事でありたい

エイベックス株式会社
 | CEO直轄本部 戦略人事ユニット マネージャー

小川 尚信さん

Interview

2019.03.28

有名アーティストを数多く抱え、誰もが知る総合エンタテインメント企業、エイベックス。音楽・デジタル、アニメを基軸とした事業を展開しながら様々な新事業も加速化し、どんどん巨大化していく組織が抱える人事課題と解決法とは――? 異色の経歴を経て人事に携わる小川氏に話を伺った。

PROFILE

小川 尚信

エイベックス株式会社

大学卒業後、2012年エイベックス株式会社入社。パッケージ営業として東京と大阪で働いた後、デジタル配信担当の営業に。CEO直下のプロジェクトへ応募したのをきっかけに、2017年、現部署へ異動。戦略人事として経営層と対になって、社員のエンパワメントを目的に、会社の人事改革を担う。

エンタメ領域は自分の人生の軸。夢を応援してくれる雰囲気に惹かれてエイベックスに

小川さんは新卒入社されたんですか?

「はい、新卒入社で現在7年目です。初めはCDやDVDの営業を担当していましたが、2014年にデジタル配信の営業になりました。AWA、LINE MUSIC、Apple music、Spotifyなど主だった音楽サブスクリプションサービスの全てのローンチに携わり、音楽業界の変革に接しました」

そもそもエイベックスを選ばれた理由は?

「実はもともと父が演歌歌手をやっていまして……」

えぇ~~?!

「私自身も子役からずっと演劇をやっていて、エンタメ領域は自分の人生の軸でした。その後、舞台のプロデュースや父の付き人などを経験するうちに、コンテンツをプロデュースしたり、誰かをサポートしたりするほうが力を発揮できると思いはじめました。そして好きだった演歌をもっと世の中に流行らせるために、あえて演歌を手がけていないエンタテインメント企業に就職しようと考えたんです」

それはユニークな! でもエイベックスさん以外にも演歌をやっていない会社はあるにも関わらず、あえてエイベックスさんを選ばれた理由とは?

「人、ですかね。大学時代、役者を続けるかサラリーマンをやるのか悩み、様々な会社の人事担当者に会っていました。でも、なかなか響かなくて。たまたまお会いしたエイベックスの社員の方が、仕事に対してのモチベーションの高さやポジティブさをすごく感じられて。演歌のことや、プロデュースのことなど壮大な叶えたい夢をお話させてもらったら、『いいね~!』と。こういう人と一緒ならサラリーマンとしてでも絶対楽しいし、働きたいと思いました」

それもご縁ですよね。CDの売上低下が著しい頃に入社され、営業としての苦労も多かったのでは?

「売上に悩んだのはもちろんですが、そもそも参加券目当てなどCDの価値が変わっている時期でもあったので、新たな施策を考えなくてはいけませんでした。CD自体は、単に曲やアーティストが良いとか勢いだけでは売れる時代でなくなり、新人営業としての勉強もしながらマーケティングでもなんでも学ばなくては、と必死でした」

“今”を見据え、人事制度を変え続けなければ社員のパフォーマンスを最大化できない

営業として研鑽を積んでいた小川さんが、人事へと異動されたのは何かきっかけが……?

「2015年に行われた構造改革プロジェクトのなかで、現場側の意見を経営層に直接伝えたり、逆に経営層から課題をもらって議論する場がありました。元々、人事課題を感じていたこともあり、そこにエントリーし、直接感じている課題を経営層へお話する機会を頂きました。結果的にそこでお話させてもらったことと、組織が立ち上がるタイミングがマッチし、結果的に2017年4月に戦略人事へ異動となりました」

具体的にどのようなことを話されましたか?

「当時は現場で感じていることとして、挑戦する風土が薄くなってきていることへの危機感や、成果に対する報酬に対しての課題感などに関してお話しました。組織が大きくなったことで、それぞれが手あげで叶えたいことをいつでも言える環境ではなかったですし、経営層も部門長も社員の顔が見えず、さらにコミュニケーション不足などで意思に伴ったローテーションが出来ていない状況でした。『叶えたいことを応援してもらえる』と入社したはずなのに、それが出来なくなっている現状はどうなんだ、と。
そう話したところ、確かにその課題感はあるよね、と共感して頂きました。戦略人事にアサインされた際は、今まで営業で培ってきた経験を人事に活かしてほしいと言われました。『うちは人事や総務に長けた生え抜きの人が多いからこそ、事業側としての忖度ない意見を期待している』と」

実際に異動されて、カルチャーショックや考え方の違いは感じられましたか?

「ありましたねぇ(笑)。でもこうやって私達は守ってもらえていたとわかりました。異動当初は忖度ない意見を言っていましたが、半年くらいで『事業寄りの考え方だけではうまく回らない』と少しずつ理解しまして。人事ならではの考え方を、事業との間に立って交渉し納得させるというのが私の役目なのではと考え始めました」

人事側の意見も、よくよく聞くと「それは確かに」と思える正論があります。でも人事が一方的に理屈を通すように見えると事業側は不満を持つ…という事になりかねないので、小川さんのように翻訳する人は大切でしょうね。今、感じている課題や悩みはありますか?

「世の中の流れやトレンドがどんどん変わるので、報酬/評価などの人事制度に対する社員の満足度や幸福度は、常に変化していくことです。ズバッと大きく変える働き方改革などは実現しているのですが、人事制度は世の中ごとや社員の気持ちなどを加味して、常に見直し続けなければならない点は永遠の課題だなと感じてます。

もうひとつ、いかに戦略を浸透させるかは常に悩んでいます。構造改革により、働き方改革から人事制度などあらゆることが変わりましたが、それを受け入れがたい人は絶対にいるので。だからこそ、どれだけ事業と人事の距離を縮められるのかも考え続けていますね。事業側は常に課題を抱えているので、それに対し人事がどう寄り添って解決できるのか、と」

全社最適のためにカルテ化プロジェクトを実施。挑戦する風土をもう一度盛り上げたい

先ほどおっしゃっていた構造改革の狙いはなんでしょうか。

「2015年の構造改革プロジェクトスタート時、“モノからコト”といった価値観の変化、そしてテクノロジーの進化といった世の中の大きな変化が起こっていました。ユーザーが圧倒的に便利になる世の中で、“エイベックスとして新しい価値観を届け、イノベーションを起こすためにも、この変化を乗りこなすことが大きなチャンスであり、変わらなければならないという意識がありました。

その流れの中での構造改革として、まずは課題として上がっていた“組織”と“人事制度”と“風土”という3つの軸、そしてオフィス環境という点から変えていこうと進んでいきました。例えば、当時は良くも悪くもグループ会社それぞれが自部門のことを一番に考え個社最適になっている状況でした。組織としては同じようなミッションを担っている部門はなるべくセットにしたり、全社横断でのプロジェクトを推進したりなどで、全社最適を意識させました。またそれぞれの社員が叶えたいことと想いの強さを大切にし、挑戦する風土をもう一度盛り上げ、成果が上がればそれに報いることが出来る制度など、明確に課題に対して取り組みました。」

音楽がデジタルの波を受けたように、人事にもデジタル化の波が来ています。御社人事がテクノロジーを活用する上での考え方を教えてください。

「効率化はもちろんですが、便利になる、チャンス(機会)が増えるといったことで、未知の世界が広がることを重要視しています。そのため、それぞれの基礎的な経歴や、スキル、叶えたいことなど、すべての社員がそれぞれの情報を見ることができる、“見える化”に着手しています。いわゆる社員のカルテ化プロジェクトですね。その一環として、カオナビさんを活用しています」

御社のようにトップダウンをしても、改革が進まない会社は多いと思うのですが……。

「会長の松浦の場合、トップダウンしつつもそのやり方が良かった。メールやSlack、様々なツールを活用して自分の口で発信を心がけてくれました。なぜそれ(改革)をやるのかという目的も意識的に発信していたので、腹落ちした社員は多かったと思います。すごくポジティブな反応がありました。

とは言え、今後は給料を“もらっている”ではなく、“稼いでいる“というマインドに変わってもらうことも課題です。エンタメ業界は好きでこの働き方をしているという人が多いので、一定のルールを守りつつ、自分の人生をどれだけ好きなものに捧げられるかということもコミュニケーションを取りながら考えないといけないでしょうね」

正解が1つではなく、良かれと思ったことがその人の才能を潰しかねないこともあるのでしょうか?

「そうですね。人が成長していく上で色々な仕事を担う経験は重要ですし、新しいことをやるのも大事。でも一方で、その人がいるからこの仕事が成り立つということも多くて。スペシャリストとしてのスキルを活かすことは重要です。ただ業界特有の考え方など、これからの人材開発に取っては不必要なこともあるので、そのあたりは業界全体で見直していかなければならないと思いますね。」

人事は経営にもインパクトを与える。だからこそ、“攻め”でいきたい

オンオフが切り分けにくいなど業界ならではの特徴もあるかと思いますが、その中で人事ができることや、考えられている施策はありますか?

「今後はさらにフリーランスのようなあり方、それぞれのスキルを活かし、それぞれのベストな働き方を会社が認めることが最終形態ではないかと考えています。フレックス制度やフリーアドレス、テレワークなど、個々の裁量を人事として強化し、理想的なあり方に少しずつ向かっていると言えるかもしれません。

この価値観や雰囲気は世の中ごとでもあるので、一気にバン!と変えたほうが回りやすいでしょうが、社会の雰囲気と乖離すると働きづらくなる人や、一定の人の可能性を潰すこともある。だから経営層が世の中や社員の状態を見た上で決断し、本当にそれが良いと思ったら突き抜けていくべきだと考えます。

実務的なことを言えば、今後は全社員と話しをする機会を作りたいです。例えば、夜に社員食堂にて簡単な料理やお酒を出し、社員は誰でも出入り自由の“Happy Hour”という月イチイベントを主催しているのですが、個人的にも、なるべく多くの人とコミュニケーションをとりたいですし、社員同士のコミュニケーションが活性化することはとても重要です。そもそもの人事課題も、突き詰めればコミュニケーション不足だよねということが多いですから」

働き方、会社と個人の関係が変わっていくであろう中で、人事に求められるスキルとは何だと思いますか?

「今一番大切だと感じるのは、事業側との連携。事業経験者が人事になるのも一つの手だし、人事経験者しかいなければ事業側ときちんとコミュニケーションを取ることで、人事は今何をすべきかがリアルに見えてくると思います。また、新しいことへのチャレンジはどんどんするべき。止まったらダメなのは人事も同じで、人事と事業はセットで常に新しいことを考え、失敗してしまったら、素直に受け止め、もう一度やり直す。慎重に進んでいくことも重要ですが、今はスピードも大切だと思うので。」

正しいことをやらなきゃと前例主義になったり、新たなチャレンジに躊躇する人事担当者は多い気がします。失敗してもいいよという風土が人事にも広がれば、きっと面白いことになるでしょうね。

「そうですね。人事は経営の一部と捉え、当事者意識を持つことが大切。人事だから、バックオフィスだからではなく、その一手が『事業を、経営を、業界を変えるかもしれない』と考えられる能力も大切でしょうね」

最後に、仕事をする上で大事にしていることを教えてください。

「一つは多方面からの意見を柔軟に聞くこと。それを全て受け入れるわけではないけれども、きちんと寄り添っていけるようにしたいです。意見を聞きつつ、こちらも意見を言うコミュニケーションですね。

それから守りでなく攻めでいきたい。議論の中で根拠があれば、『絶対これが良いと思います』と言えたり、経営層から『それ大丈夫なの?』と聞かれても自信があれば『やるべきです』と答えられるような攻めの姿勢。人事のあり方って、これからめちゃくちゃ変わっていくと思います」

人事なら読むべし! オススメの1冊

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く
著:パティ・マッコード、櫻井祐子 (翻訳)
刊:光文社

とにかく攻めの姿勢がすごいですし、会社の事例をじっくり読み込めるというのも貴重。人事制度やトップダウンはある程度不平等であるものと思いますが、そのドラスティックな部分をきちんと責任を持って実行している点を中心に、共感できるポイントがたくさんあります。互いに対しての思いやりもあるからこそ、ドラスティックな改革も実行できるのだと痛感します。

会社概要

社名 エイベックス株式会社
設立 1988年
事業内容 音楽・アニメ・デジタルを基軸にエンタテインメントに関わる様々な事業を展開。「Entertainment×Tech」をキーワードにコンテンツやサービスの魅力や価値を最大化しています。
従業員数 1,421名
会社HP
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PROFILE

小川 尚信

エイベックス株式会社

大学卒業後、2012年エイベックス株式会社入社。パッケージ営業として東京と大阪で働いた後、デジタル配信担当の営業に。CEO直下のプロジェクトへ応募したのをきっかけに、2017年、現部署へ異動。戦略人事として経営層と対になって、社員のエンパワメントを目的に、会社の人事改革を担う。

ABOUT

“kaonavi HR Innovators”は、人事/HR領域で活躍するHR領域で活躍するキーパーソンが「人事の未来」を語るWEBメディアです。人々の働き方や人材の価値が急速な変化を迎えている今、人事のキーパーソンとして真摯に課題と向き合う方々に「人事/HRの在り方」、「テクノロジーの活用」などを語っていただくことで、人事担当者が抱える課題を解決に導くヒントをお届けします。