評価にもとづき社員を育成して生産性の向上を図り、業績アップにつなげる人事評価制度。ここでは、そんな人事評価制度について、MBOや360度評価、自社独自の評価制度といった事例を解説します。
目次
1.導入事例に注目!人事評価制度を導入する前に知っておきたいこととは?
人事評価制度とは、社員のパフォーマンスや労働生産性などについて評価し、結果を社員の待遇に反映させる制度のこと。ここからは、導入の前に知っておくべき制度の目的やメリットについて解説します。
人事評価制度の目的
人事評価制度の目的は、待遇や配属の根拠、育成の基準を作成するためです。待遇を年功序列ではなく、能力や業績にもとづいて決定する場合、公正で客観的な評価制度が必要となります。
また人事評価制度で社員の能力などを客観視すると、最適な配属が実現するのです。さらには制度を人材育成の基準にすると、教育計画などが立てやすくなります。
人事評価制度のメリット
人事評価制度のメリットは、下記のとおりです。
- 明確な評価設定:評価項目を詳細に設定すると、人的エラーなどを防ぎながら公正な評価できる
- 人材育成のサポート:人事評価をとおして、企業が求める人物像に対する課題などを明確化する
- 目標と人材のマネジメント:自社の掲げるビジョンを社内で共有しながら、タレントマネジメント業務を円滑化する
- コミュニケーションの促進:上司と部下とのコミュニケーションを活性化する。フィードバックもあるため、モチベーションの向上にもつながる
2.人事評価制度の目標管理制度(MBO)とは?導入事例とあわせて紹介
人事評価制度の目標管理制度(MBO)とは、組織貢献と自己成長が達成できるように個人またはグループごとに目標を設定し、達成度合いで評価を決める制度のこと。
こうした目標管理制度にはどんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。導入事例などもあわせて解説します。
目標管理制度のメリット
目標管理制度のメリットは、下記のとおりです。
- モチベーションの向上:自分自身で目標の達成過程を管理しながら、目標を達成し、評価する目標管理制度は自主性が高く求められる。業務への自発的な参加を促し、経営への参加意識も高めるため、モチベーションの向上につながる
- 能力の開発:目標管理制度においての理想は、「容易すぎず、難解すぎない」目標の設定。通常の業務でのやり方(方法)では少し難しいが、工夫によって達成できるという程度が望ましい。これによって、社員の能力を最大限に引き出せる
目標管理制度のデメリット
目標管理制度のデメリットは、下記のとおりです。
- 目標を低めに設定してしまう:高所得を得たいがために、わざと目標を低く設定するという事態が発生する可能性も。目標達成の度合いだけでなく、難易度も考慮する必要がある
- モチベーションの低下:目標が単なるノルマとなってしまう場合、過度な負担となってモチベーションの低下を招く
- 公正な評価が困難:個々に目標を設定するため難易度などが異なり、公正な評価が難しくなるケースも
アビリティーセンターの導入事例
アビリティーセンターは、四国4県を地盤に総合人材サービスを展開している会社。目標管理制度を導入しており、管理職と人事が社員の設定目標の精査とフィードバックに時間をかけているのです。
目標管理制度は、期初に4分類の目標を設定し、それぞれ3段階のアクションプランに落とし込みます。その設定目標に対し、管理職と社員が対話し、合意を得ていくのです。社員一人ひとりの目標管理制度に上司や人事が深くコミットし、成長を目指しています。
マネーフォワードの事例
銀行口座を始めとするあらゆる資産情報とリンクして自動で家計簿を作成する「マネーフォワード」を提供するマネーフォワードでは、半期ごとの目標設定に対して目標管理制度を実施しています。
また「ツキイチ面談」という上長との月1回の面談も実施。目標に対する進捗確認とフィードバックを行っています。面談内容は記録され、評価と面談状況をまとめて管理。職種が多岐にわたるため、最終的な評価調整を行い、公平性を保っているのです。
スタイル・エッジの事例
士業・師業に特化した総合コンサルティングを行っているスタイル・エッジでは、半期ごとに業績・能力・態度の3要素と目標管理制度を組み合わせた評価が実施されています。
期初に各社員が目標を設定。評価業務の進捗管理や集計を自動化しており、業務効率化も実現しているのです。
またマネジメントのあり方を検討しやすくするため、各管理職からの評価コメントや評価フローを可視化。上司と部下の中間面談を設け、コミュニケ-ションの促進も図っています。
3.人事評価制度のコンピテンシー制度とは?導入事例とあわせて紹介
コンピテンシー制度とは、職務において優秀な成果を発揮している社員の行動特性をもとにして行う評価制度のこと。自社のコンピテンシーを理解すると、評価だけでなく、人材育成にも役立ちます。
それでは、コンピテンシー制度のメリット・デメリットと導入事例について、解説しましょう。
コンピテンシー制度のメリット
コンピテンシー制度のメリットは、下記のとおりです。
- 評価しやすくなる
- 人材育成の効率化
- 業務を効率的に構築できる
- モチベーションを維持しやすい
- 評価への納得度が上がる
- 戦略的な人材マネジメントの実現
結果・成果だけでなくそのプロセスまでも評価の対象となるため、公平性の高い制度といえるでしょう。また社内で共有するため、企業や職種が理想とする行動特性をほかの社員にも反映できます。
コンピテンシー制度のデメリット
コンピテンシー制度のデメリットは、下記のとおりです。
- 理想となる基準設定が困難
- 評価基準を設定する際に工数がかかる
- アップデート・メンテナンスの負担
行動特性の評価基準を設定する際、モデル設定・特性の抽出・項目設定など段階を踏むため、時間を要するのです。また会社の変化が大きい場合、各社員の貢献度を評価しにくくなります。さらにコンピテンシー項目設定自体の難易度も、非常に高いです。
マーケットエンタープライズの導入事例
ネット型リユース事業を展開しているマーケットエンタープライズでは、目標管理制度とコンピテンシー制度の2つを運用しています。目標管理制度を定量的な評価軸とし、数字目標を打ち出しているのです。
またコンピテンシー制度の位置付けを、定量的なパフォーマンスを発揮するために必要な行動評価としています。マーケットエンタープライズが考える主体的な人材としての行動方針を具体的にまとめた『ME10か条』を、評価項目として活用しているのです。
インフォテック・サービスの導入事例
独立系Slerとして、システム導入構築から運用サポートまでトータルサポートを行っているインフォテック・サービス。同社における評価のベースはコンピテンシー評価です。
職種や等級ごとに「課題形成」や「現状把握」などの12項目からなる行動項目を設定して、それぞれで各社員がどれくらいパフォーマンスを発揮しているかを評価しています。現場社員と直属の上司が面談する場を設け、最終的には社長が評価を決定するのです。
ダンクハーツの導入事例
ソーシャルメディアコンテンツの企画・開発・運営などを手がけるダンクハーツ。年に2回、「思考や行動、態度を評価するコンピテンシー評価」「クリエイターとしての実績目標に対する達成度を評価する目標管理制度」を組み合わせて、人事評価を行っています。
コンピテンシー評価では、月に1回「ショートレビュー」という上長との個別面談を実施し、目標への達成を支援。期末には社員一人ひとりがショートレビューを振り返り、自己評価を行っています。
えんの導入事例
「福岡県内の分譲マンション販売実績が12年連続」「投資型部門では16年連続No.1」のえんでは、四半期ごとに営業成績とコンピテンシーによる人事評価を行っています。
またリーダー以上の社員に対して、管理部門のスタッフから見た勤務態度や素行、事務手続きに関しての評価を実施。
アンケート形式で評価対象となる社員の評価を収集し、集計結果をグラフ化しています。そのグラフ化されたものを見ながら、社員の評価の加減を行っているのです。
4.人事評価制度の360度評価とは?導入事例とあわせて紹介
360度評価とは、上司が一方的に評価するのではなく、同僚や部下など多角的な視点から評価対象者の評価を行う制度のこと。ここからは、360度評価のメリット・デメリットと導入事例について解説します。
360度評価のメリット
360度評価のメリットは、下記のとおりです。
- 評価の客観性: 複数の評価者が評価するため、公平かつ公正な評価が可能となる
- 管理職の成長:部下や同僚から率直な評価を受けるため、管理職が現状の課題を認識できる
- 公正さを感じやすい:評価が特定の人に偏らず、客観性が高いため、納得を得られやすく、公平性を感じやすい
- 新しい特性を発見できる:さまざまな視点から評価を得るため、直属の上司や自身が気付いていなかった新しい側面に気付ける
360度評価のデメリット
360度評価のデメリットは、下記のとおりです。
- 主観が入り込んでしまう:複数の人が評価するため、上司一人からの場合より多くの主観が入りやすい・
- 社員の業務が増える:一人の社員が複数の社員を評価するため、負担が増加し、評価への不満も出てくる可能性も
- 談合が発生する恐れも:社員同士が話し合って高評価を付け合った場合、公平性が失われる
チュチュアンナの導入事例
靴下・インナーウェアの製造小売を展開するチュチュアンナ。「方針」「模範性」「支援力」「育成力」「評価」5つの項目を軸とし、360度評価を行っています。
実際の評価ではこれらをさらに細分化。たとえば支援力では「部下が会社に貢献していると、実感できているか」などの項目を設け、マネジメント力を強化しているのです。
また誰が誰を評価しているかは管理部門にしか見られないように工夫して、匿名性を確保。評価回収後の点数計算は自動化し、評価結果後の上長からのフィードバックの時間を十分に取っています。
グローバルトラストネットワークスの導入事例
日本国内で暮らす外国人の障壁を取り除くためのサービスを提供しているグローバルトラストネットワークス。従来行っていた360度評価に加えて、目標管理制度を組み合わせて運用しています。
これによって社員一人ひとりに目標を与え、部署の数字に対しても責任を持たせ、そのうえで、上長が部下を評価していくのです。
今後は全社員統一であった評価項目を、役職に合わせて多様化できるよう検討中。さらには、社員と1対1で面談し、個人に合わせた目標や難易度の設定の細かい調整も視野に入れています。
アイ・ケイ・ケイの導入事例
創業1945年と歴史が長いウェディングプロデュースカンパニーであるアイ・ケイ・ケイでは、100個ほどの項目で社員を評価する独自の考課と目標管理制度、360度評価を組み合わせて評価を実施。
「チャレンジせずに成果を生み出した人より、高い目標にチャレンジしたが失敗した人を評価して、結果よりもチャレンジするという行動そのものを評価する」という明確な人事評価基準を打ち出しているのです。
現在は、人事考課と目標管理制度の評価フロー効率化を達成しています。
えがおの導入事例
熊本を拠点に、健康食品の通販事業を展開するえがお。各社員に半期ごとの業務評価と、上司・先輩・部下による行動評価として360度評価を実施しています。人事評価の記録をデータとして残し、部下の成果や過去の行動評価の円滑な確認を実現。
また社員に目標設定を行ってもらい、毎週上長との1対1の面談によって目標達成の支援を行っています。今後はこの面談記録を全社員で共有し、コミュニケーションの促進に活用する予定です。
5.人事評価制度の自社独自の評価制度とは?導入事例とあわせて紹介
自社独自の評価制度とは、その会社が独自で作り出した評価制度のこと。自社の経営戦略・経営課題に合った評価制度を作っていかます。最後に自社独自の評価制度のメリットと作る際の注意点、導入事例について、解説しましょう。
自社独自の評価制度のメリット
自社独自の評価制度のメリットは、下記のとおりです。
- 具体的な評価基準でモチベーションアップ:明確な評価基準は公正な評価へとつながり、社員のモチベーションを向上させる。また社員の成長を促し、企業全体の生産性や品質の向上が実現する
- 部下に対して適切なアドバイスが可能:企業の目標や方針に沿って業務に必要な行動を示せるため、部下に対しての指示も的確になる
自社独自の評価制度を作る際の注意点
自社独自の評価制度を作る際の注意点は、下記のとおりです。
- 評価基準を明確にする:人事評価制度は同じ基準で実施されるため、公平性が重要。曖昧な部分があると社員のモチベーション低下につながるため、誰が見ても納得できる評価基準で、具体性のあるものがよい
- プロセスも重視する:営業成績など数値化できるもののみを評価しがちだが、結果だけでなくその過程も評価の対象に加える。成果とならなかった場合も、何が必要か見えてくることによって、次のチャンスに活用できる
自社独自の評価制度の導入事例
日本全国に140店舗以上を展開する化粧品販売の会社、ロクシタングループでは、「ロクシタン」「メルヴィータ」「本社」で異なる評価制度を実施しています。
- ロクシタン:行動評価と業績評価
- メルヴィータ:業績評価
- 本社:コンピテンシー評価と業績評価
のように制度は多様です。これによって役割に応じたスタッフの柔軟な評価を実現。さらには、本社のスタッフには能力開発の観点から、IDP(Individual Development Plan)シートも導入しています。